高崎LOVERS 14 高崎寿司
昔はよぉ
この寿司桶が無くなっちまうくらい寿司が売れたもんなんだよ
それが今じゃ高崎の街中には10件も寿司屋が無くなっちまった
本町三丁目の交差点から路地裏に入った
一見さんでは絶対に見つけられない地元の寿司屋で何度か聞いたことのある大将の愚痴を聞きながら
田中は冷酒をちびちび飲んでいる
御多分にもれず高齢の夫婦が営む寿司屋は
海なし県とは思えないほどの鮮度が売りで
高崎の寿司好きを楽しませてきた
カウンターに小上りが二席
大きなテレビを見ながらポツポツと大将とかわすやりとりが嬉しい
お父さん、その話何回も田中さんにしてるわよ
女将にたしなめられる
まぁ、大将が言う通り
昔は寿司屋で宴会なんてのが粋だったんだけどね
今や回転寿司ばかりだよなぁ
田中は回転寿司も嫌いではないが、やはりこういった昭和な雰囲気の方が落ち着いて酒が飲めるというものだ
オレが小さい時にはよく寿司屋にオヤジを迎えに行ったもんだよ
お土産にもらう寿司が楽しみでね
田中さん生まれも高崎でしたっけ?
いや、前橋なんですよ、女将さん
それこそ前橋なんて昔は100件以上寿司屋があったんですよ
官官接待が無くなってからというもの一気に無くなっちゃいましたけどねぇ
コンプラコンプラでイヤになっちゃうよなぁ最近は
なんだい田中さんそのテンプラみたいなヤツは
大将は知らなくていいのよ、そういう世知辛いことはさ
年寄扱いされてこまっちまうねぇ
話が盛り上がってきたところで
常連さんが二人入ってきた
大将、二人ね
田中はテレビに目をやる
大相撲は8日目で、そろそろ大関の出番だ
んじゃ大将、良い所で一人前握ってよ
わかりやした
小気味良いリズムで大将が寿司を握る
まもなく彩りも鮮やかな寿司が一人前運ばれてきた
カウンターで皿で食う寿司も悪くない
子供たちを連れてきていた時分も
これが私の一人前って寿司を見て目を輝かせていたもんだ
息子と娘が寿司を頬張る姿を見ながら酒を飲んでいた当時が懐かしい
はい田中さん茶碗蒸しとサラダね
寿司を頼むと必ずついてくる茶碗蒸し
若い時はダサいなんて感じたもんだけど
今はこれ以上ないご馳走に感じる
もう少し酒を飲みたい田中は
大将、1~2本細巻きちょうだいよ
田中さん今日は結構飲んでる方だねぇ
もうちょっとだけね
良い季節だし酒も進みますよ
自転車に乗っちゃダメだよ
最近うるさいんだから
乗らないよ
こんだけ飲んでたら怪我しちゃうよ
間違いねぇ
気心の知れた寿司屋で酒を飲む
こんなに幸せな事はなかなかない
田中は雪中梅をすすり
軽く目を閉じた
晩秋の風が入り口の窓ガラスをコツコツと揺らしている




