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高崎LOVERS  作者: リリィ
1/13

高崎LOVERS① 松井軒

なつかしいなぁ




高崎駅から




ほんの10分ほど歩いた




ひなびた町中華




松井軒のテーブルで




カツ煮とシナチクをつまみながら




瓶ビールをちびちび舐めつつ




田中はつぶやいた




松井軒は高崎でも最古参の




町中華屋だろう




小さな店構えに




大きな黄色い暖簾が目印である




そして何より




高崎市の出産を一手に担ってきた




須藤病院の目の前に建っている




松井軒は




テーブル2席と




5人がやっと座れるほどのカウンターしかない




車移動しかしない群馬県民に迎合する事も無く




駐車場がないことを売りにしている所がある




家族経営の小さな店である




一時は




高崎の町おこしでフィーチャーされたこともあるが




いつ行っても




混んでいたことはない




田中の他には




カウンターでラーメンをすする中年男性の背中が見えるばかり




晩夏の昼下がりはこんなものなのだろう




田中はビールをコップにそそぎ




通りをはさんだ




須藤病院の玄関をぼんやりと眺めた




あれから何年経ったのだろう




妻は




どうしても出来ない二人目の子供を欲しがった




長男が生まれて5年以上が経っても




二人目の子供が出来る兆しはなかった




日本の社会ってのは




どこまで行ってもおせっかいだ




結婚はまだ?




お子さんは?




二人目はまだ?




そんな周りからの言葉なんて放っておけばいいものを




妻は言われるがままに受け取り




二人目出来るまでは幸せは来ないといった様相だった




何回かの流産を経て




もうそろそろ止めようや




って時になって




40手前の夫婦にコウノトリがやってきた




ウソだろうよ




って思うのは男だけで




妻はどんどん出産の準備をしていく




逃げてはいても時は経つ




ついに田中も逃げ場のない出産の日が訪れた




陣痛も差し迫った妻を須藤病院に入院させ




夜中に出産してもおかしくない状況で




田中は




松井軒に入った




誰もいない店に入り




ビールを飲んだ




なんだか他人事のような気がしつつ




味のしないカツ丼を食べた




頑張れよ




って溜息と一緒に口から出たのだろうか




奥にいたおばちゃんが




頑張んないとね




お父さんも




って




餃子を一枚出してくれた




ニンニクがガッツリ効いた餃子を食べながら




頑張らないとな




って自分に言い聞かせたのだろうか




あれから時間が経って




妻も自分も歳を取り




子供も家を出た今




同じ松井軒のテーブルで




田中はつぶやく




なつかしいなぁ


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