忍者部隊 センターリバー
暖かく成り、暑いとすら思えるようになった4月のある日、
炎上屋で働く中河は上司の杉山に呼びだされた
「今回、君に依頼する職務だが、単純に言うならば
地域密着型の同業者団体の内輪で偉くなった理事様と
その仲間の正義の味方ゴッコや忍者ゴッコに
”おつきあい”する仕事だ
悪の組織の怪人や戦闘員という事での悪役初期設定は・・ そうだなあ、
その昔、ある国の某企業が、”みつい越後屋”という店を
悪徳商人役として出演させる時代劇というテレビ番組のスポンサーになって
視聴者にイメージを刷り込んだ時に描かれていたのと同じような・・
不正を働いて社会的に制裁を受け正義の人に成敗される悪役キャラ
そんな感じだ
次に正義の味方の初期設定は・・
”貴様の欲望にまみれた醜い夢など
他の人間にとっては悪夢だ。実現は、させぬ”
といった決めセリフで登場して悪人に正義の制裁を与え
誰にとっても有害な悪事から皆様を救い
不正を働いた極悪人を退治する強い正義の味方
というようなキャラ・・・
いや、これだけじゃ正義の味方っぽくないな、
みんなのために生きる私には
私利私欲などはカケラほどにも無い
それに比べて奴等は、どうだ私利私欲で生き、
自分の欲望達成のためだけを目的に生きている
奴等のような生き方をしては、いけない
あーなっては人間はオシマイだ
清く正しく美しく生きる我等の人生は
誰もが必要とする存在として、みんなのために生き
子供に、あんな大人になりたいと未来への希望を与える存在
そう生きる事が素晴らしい事なのだ。そう思うだろう君達
というような感じの事を言うキャラの方が
正義の味方としてはキャラが立つか
こういう人間が増えるコトが好ましい
というような、”深層意識への刷り込み”は
シナリオに組み込まれているので
そこらへんはシナリオを書いた人の指示に従えばいい
見ている人々に、”悪事”として絶対的に否定されるべき事を
刷り込むくだりは・・・
そうだなあ、君の昔の上司を覚えているか?
”失敗しただとお 貴様のせいだあ、どうするんだ。
なんとかしろ できなけりゃ やめろ
いやあ、無事、成功したか、流石は俺様だなあ
全ては、この俺様のおかげだ。そうだろ?御前等”
と言うだけな 無能な働き者
失敗を誰かのせいにできたら自分の面子はたつから
後の事は、どうでもいい。と何故、失敗したのかすら考えないから
何度も同じ失敗をして、その失敗を何度も部下の責任にして
たまたま、状況が味方して成功したら
全ての手柄を自分だけが持っていった
しまいには競合他社が、”奴か、なら、こういう失敗するな”
と失敗するのを前提として仕事を進めるようにすらなってしまった
とある能力が無いのに君より偉かった。奴ですよ奴。覚えているだろ?
奴のようなキャラを悪の秘密組織の戦闘員として追加して
悪意を爆発させるような、演出が丁度いいのではないかと思う
君にしても、あの男を思い出すと悪意しか心に湧いてこないだろ?
その悪意をこめて演出すれば、その悪意は観客に伝わる
そ れ か ら、 だ な
くれぐれも、あらかじめ言っておくが
途中で馬鹿げた茶番だと思えるような部分もあるが
シナリオ概要の編集責任者な依頼者様の前では
その内心の本音を出すなよ?
素晴らしい業務遂行シナリオですなあと讃えねばならん
少なくとも仕事として成立している間は」
「それは、もちろんですよ
顧客要求あってこその我々の職務ですから
顧客が常識と思っている事が常識で
御客様が正しいと考えている事が正しいんですから」
「うむ、わかっとるね。ならば、宜しい
”強い正義味方な俺等が5人がかりで
弱い怪人を格好良く退治する素晴らしい物語”
という感覚を素晴らしいと客が言ったら、それは素晴らしい
いかにして多くの人に、その素晴らしさが伝わるか
その方法を考えるのが我々の職務だ
一瞬、おかしいとか変だとか思っても
それが御客様の頭の中で当たり前だったら当たり前
どう表現したら、その当たり前な常識が多くの人に理解されるか
御客様が不正を働く極悪人と言ったら
その極悪人がやっている事は悪事
どう表現したら、この悪事の、とんでもなさが伝わるか
正しい我等が不正を、やめさせる事が
素晴らしい事だという事が伝わるか
言うなれば、善悪の価値観も今や多数決なのだ
過半数の多数派が正しいと思えば、正しいのだから
多くの人間に正しいと感じてもらえる
表現をする事こそが重要なのだ。わかるね中河君
多少、最初は自分の道徳的に抵抗があったとしても
それは君の道徳観だ。それは無視して顧客の道徳観に従い
顧客権利職の指示に従うのだ。職務のために
わかったかね?」
「はい、わかりましたぁっ!!」
というワケで正義の味方の秘密基地へと中河は出かけていった。
・・・
出かけた先では、同業者団体が数社共同でやっている事業の
幹事会社と副幹事会社、シェア配分を5月15日に確定させるために
数社での打ち合わせの真っ最中
国家事業として電子政府を構築する
巨大なシステム・インフラ投資案件なので
ピラミッドの頂点から底辺まで様々な会社が入り組んでいる内の
ピラミッド頂点に在籍する数社の代表が政治家答弁のような議論
間接関係者と書かれた入館カードを入り口の警備員さんに渡され
持ってきたカバンや、携帯電話やウエラブル端末のように
外部連絡や動画配信の実況生中継をできるような道具は
全て館内持込が禁止されているので入り口のロッカーに預け
関係者様モニタリング室という部屋に案内されて会議中継を見学
中河にとって今回職務依頼者である会社の理事
杉夜魔が演説を始める
”おや? ウチの権利職と同じ読みの苗字だな
でも、このあたりでは、よくある苗字だからなあ
談合相手の権利職を、昔の戦争で敵国の政治家イメージや
汚職で永久追放された政治家イメージにでっちあげるとか
自分達が勝つためには、どんな真似でもするって言うから
どんな人なのかと思えば
そんな腹黒いオッサンには見えないなあ
まあ、公の席で謀略や陰謀を繰り出す策士な腹黒い態度を
丸出しにする人も、いないか”
などと思いながら見ている内に公開議論が終了
中河は依頼者の杉夜魔理事と、利害が一致する仲間が集まる
夜の酒の席に招待された。
「中河君、極端な性格の変人ってのは何故できると思う」
「は、極端な性格の変人ですか? そうですねー・・・
同居の家族、親とか兄弟との日常生活で
一人くらい一般常識からは乖離した感覚で
変人と判定される人間がいても、いいかなあ
という事で変人になっていくのが発生するとか
まあ、それか元同級生との人づきあいだったり
人間って生活環境や他人との関わりあいで
人格が形成される事が多いですからねえ
世間一般常識で、”極端な性格の変人”に見える人間を
面白がって何人も輩出させる御土地柄な街があったら
住人の多数派になるほどに
変人を発生させるものなんですかね?」
「いや、人はな自分と違う常識を抱えている人間を見たら
それを全て変人と判定するものだ
自分が馴染んだ人格というか性格の人間とは違う
今まで関わった事の無い性格の人間を見たら
極端な性格の人間と感じるものなのだ
つまり自分と同じ常識で自分が日常的に馴染んでいる性格の人間なら
どんな性格だろうが、どんな常識の人間だろうが
”極端な性格の変人”とは感じない
しょせんは、そんなものだ。人間の感覚なんて、いいかげんなものだ
わかるかね? そこらへんの事」
「はい、わかります。杉夜魔理事の仰せの通りです」
「たとえば言葉の語尾に、”てろ”を付けて話すと命令形になるだろ?
そう話すのが、この職場では当たり前という事になっているから
職場で話したければ、大勢の人間に指示命令できる人間になれ
そういう内輪の常識を作り上げて、全員に浸透させれば
仕事に必要な事が話せるようになったら多弁になるし
話せなければ、ずーっと指示待ち仕事を黙って作業するだけになる
奴隷のように作業するだけになりたくなければ
仕事に必要な事とは何かだけを考えるようにして
自然に仕事に必要な言葉が口から出るようにするのが当然だ
という方向へと、その集団は向かうものだろ?」
「はい、その通りです。」
「聞いているとは思うが、5月15日に担当監査官により承認される
国家事業のインフラ投資案件で我が社は幹事会社となっている
ただなあ、同業他社との共同幹事という事に、なっておってな
その副幹事会社の人間は色んな意味で
仕事というものを理解しておらん。わかっとらん。
できれば、自分から御連慮して幹事を辞退して欲しいほどにな。
色んな意味で我等の事業推進には邪魔な存在なわけなのだが
奴等の内輪に、”問題とされる悪事”をする ”極端な性格の変人”が
”やらかし”でもしないかぎり、そうは、なりそうもない
わかるかね?」
「はい、わかります」
「なあ、中河君
もしも誰かが奴等の、”問題とされる悪事”を世間に公表してくれたら
事実上、我が社の子会社となっている会社が
もしもの時の代理として副幹事会社となる事が内定してはいるのだよ
いやー、色んな意味で間違えている奴等の悪事を公表してくれる
我等にとって救世主のような存在が、いたらなあ。そう思うだろ?」
「はい、そう思います」
「そうだろう? どぅわーっはっはっは。げーっへっへっへ。でへへ」
・・・
翌日、杉山権利職に前日の酒席での諸々を報告すると
こんな回答が帰ってきた。
「ふむ、では不満を抱えて副幹事会社と関わりが無くなった
元関係者などを当たって
内輪じゃ当たり前だったけれども世間の一般常識からしたら非常識な
ハラスメント行為や不正行為を探して
使えそうな、”問題とされる悪事をする極端な性格の変人”を探して
奴等が、”腹切り切腹ショー”を開催せざるを得なくなるように
手配する事としよう。
中河君は、そのまま張り付いて経過を逐一報告してくれたまえ
5月15日まで時間が無いからねえ・・・急がないといけない」
「いや、5月15日の内示が出た後
大々的に公表して最初だけで消えて貰うってのでも
いいんじゃないですか」
「ふむ、我々様の期日管理上の都合からして
一番、奴等へのダメージが大きいタイミングか・・
そうだな、いくつかヒアリングしてくれたまえ
内々に調整が効くのが、いつまでか
幹事会社、副幹事会社以外に4社あって
その内の三番手シェアの会社が幹事会社様の事実上子会社で
四番手以降の被幹事会社3社に割り込まれたくないとして
どの会社を見せしめ対象にするか
プロジェクト全体の期日管理の日程と
その見せしめ対象会社の社内管理会計での期日管理との間に
挟まって担当者が、どうにもならなくなるタイミングは、いつか
諸々を勝手に決める事のできる決定権を所有するために
幹事会社以外には無関心となるべき事柄には何があるか
副幹事会社だった会社を淘汰した後
割り振られていた分の分け前配分を決める都合上
同じような事をしている同業他社も同時に弱らせるとして
どれくらい弱体化させるか
そこらへんとかも聞き出せたら聞き出してくれたまえ
まあ、できる範囲で、かまわんがな
こちらでも根回しやヒアリングをしてみるからの」
・・・
というワケで
インフラシステム、しかも同業者団体協会での
データ共有システムのデータを無断利用して
営業活動をするという不正行為
”側威僧尼”と
奴等の内輪で呼ばれていた営業シナリオを実行中に
営業業績管理職の都合で追い込まれた末端営業職員が
共有情報資産を業務上横領した問題行為
副幹事会社関係者がした
昔は業界内では信号無視のような軽犯罪行為とされていた行為を
今では社会的に死刑にされるような重犯罪行為という事にして
大々的にリークする事になった
元広告代理店の金のためなら、なんでもやる
半グレな世界にズブズブな、インフルエンサー
昔は発行部数があったが、今や我が社の広告チラシ状態で
我が社の広告宣伝費で発行できているWEB雑誌
などを最初の発信源にして4月27日から派手にネット上で炎上させた
それは同業者団体新聞やTV番組にも飛び火して
副幹事会社への過激な批判は燃え上がり
会社のトップから三番目までが引責辞任
電子政府プロジェクトの一部を
目的や機能別に分割したインフラシステム投資案件を担う会社としては
不適切な問題のある企業という事で
5月15日の決裁書類には副幹事として会社名を書かれる事は無くなり
それどころか非幹事会社として残る事すらも許されず
完全に排除される事となった。
非幹事会社の弱らせたい会社も同じような事をしていたが
事前に世論を偏らせる事をリークして
不祥事が表沙汰になる前に揉み消す部署が対処できるようにした
その会社の不祥事もみ消し部隊の、”お片付け”は早かった
共有情報資産横領犯と情報保護法違反をした人間を全員排除して
現在は社内犯罪な事を思い知らせ
放置しておくと同じような不正行為をしそうな人間は
何を言うかわからないので発言権を取り上げ
作業手順書類を受け取って作業するだけの職務に回し
”こんな風に 中に誰かが入っている着ぐるみのような
操り人形のような常態に嵌め込まれたくなければ
世間に批判的な事を言われるような不正行為をするな”
というような見せしめ取り締まりを社内で執行して
ついでに都合の悪い人件費の高い人間もリストラ
不祥事が表沙汰になる前に揉み消す事に成功し
世論の攻撃を受ける事は無かった
だがしかし、いざという時に責任をかぶせて淘汰する予定だった
無能な働き者をリストラするだけでは無く
有能な働き者も排除せざるを得なかった事で
職務遂行能力が関係者には丸わかりなほどに堕ち
今まで通り、いつも通りに仕事を回す事は不可能になり
電子政府プロジェクトでのシェア配分は最下位で決裁された。
・・・
そして時は過ぎて6月になり
新卒新入社員が各部署配属される時期となり
杉夜魔理事が、自分の構想通りに物事を勧めた偉大な人間として
祝辞を新入社員の前で演説したり
無事、決済されたインフラシステム投資案件の
今年度中に実施するための職務のために集めらた関係者の前で
本年度事業に関する概要説明を主幹事会社の責任者として
説明したりする内に、我々の職務が開始され
中河と、炎上屋の内輪で、”忍者部隊”と呼ばれる人々の
4月から6月までの職務が完了した。