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炎上ショー  作者: 中山恵一
1/15

要塞都市


そろそろ暖かくなってきそうな暦では春が近いけれどもど、まだ寒い日

炎上屋で働く比佐(ひさ)は上司の糯月(もちづき)に呼びだされた



「比佐君、君は自分の記憶力に自信がある方かね?」



「自信ですか? ええ日常生活を送るのに支障がでるほどに

 記憶力が足りないと感じた事は、ありませんが」



「いや何、君に2月から行って貰う会社の過激な内輪もめが


”記憶力や職務把握能力に自信を無くして

 直属の上司に指示を仰げ”


 と言いあうような内輪もめでな


 前任の人間などは巻き込まれて

 アルツハイマーか、パンチドランカーか

 というくらいに自分の判断や記憶に自信を無くして


 指示待ち仕事以外、何もできなくなってしまったのでな


 御前は大丈夫か? と予め聞いておきたくてな」



「はい、大丈夫です」



「まあ、念のためだが、毎日、何回上司に指示を仰いだかと


”あれ? どうだったっけ? わからない”


 というような感覚に何回、囚われたかを数えて報告してくれたまえ」



「はい、わかりました」



「では2月1日から職務に取り掛かれるように

 準備をしてくれたまえ、もう2日しかないが」



・・・・



日曜日、先に潜入、いや着任している同期入社に連絡をとる比佐



「なんか、指示待ち仕事病が蔓延してるんだって? そこ?」



「いやー、そのね、わけのわからない会社教信者とかいうのが

 同業他社から中途入社してきて昔いたんだよー

 それが諸悪の根源でねー


 自信たっぷりに説得力だけはある表現でトンチンカンな

 本当にそうしたら仕事に支障が出る指示を言いまくって

 出世欲だけは、あったから始末におえなくてー


 そうだ、根拠の無い自信で仕事をしてはいけない

 無能な働き者が増えるだけじゃなーい


 と権利職が判断して


 作業項目記録から作業手順書類から作業指示書まで

 口頭連絡じゃなくて書面で書きましょう


 てな事に、なっただけー。


 決して指示待ち仕事病が蔓延してるワケじゃないよーぉ」



「そーなの?」



「まーねー、亜紀ちゃんが実際には来て

 どういう会社かを見ないと、わからないだろーけどねー


 簡単に言うと同業他社から引き抜いたベテランさんが

 熱心な会社教で、と言っても宗旨変えして我が社に来たんだけど


 無能な働き者だったんだよねー

 職務把握能力とか職務遂行能力ってもんが低くて

 愛社精神論だけを大きな声で言うだけだったんで


 いまだに顧客だか同業他社だか不明な人間と

 実際に面談する現場に人事に頼み込んで異動してもらって


 次に来たのが有能な怠け者で

 職務把握能力が高いんでけど仕事が嫌いだから


”御前等、職務遂行能力を発揮して働き者になりたいかー

 なら こーしろ あーしろ”


 って言うだけで自分で仕事、ってか現場作業って感じのする事を

 自分で、やりたがらない人でー


 その人が前任の会社教信者が嫌いというか

 引継ぎする時に色々と違いすぎて揉めまくったんでー


 ここへ来るなら会社教信者っぽい態度とらないでねー


”仕事が嫌いだけど金のために仕方なく働いているんです”


 てな態度をとった方が正解かも」



「へーぇ そーなんだーぁ


 いやーでもー行く所とか、どんな権利職が直属の上司かとか

 まだ、聞いてないんでー、月曜日に説明があるみたいだからー


 また月曜に連絡ってワケにはいかないかー


 月曜から金曜までは我々の職務中だから部外者とは連絡禁止で

 業務連絡しかできない部外者立ち入り禁止エリアで

 働いているって前、言ってたよねー」



「ううn、それは会社教信者が職場を

 同じ信者とだけ関わる密教化してた時の話、今は違うからー

 その説明会の合間の昼休みとかにでも電話してー」



「そーだねー、じゃっ、明日の昼休みにねー」



・・・



そして1月末日の昼休み、亜紀は同期に電話をかける

つながるが、しばらく応答は無く後ろでの話声だけが響く



「そういえば着任する場所、どこにあるか聞きましたか?」


「ううん、そういえば聞いてない、どこ?」



「軍施設のミサイル誘導システムとか

 偵察衛星保守システムとかのシステム運用作業をする人が

 収納されている軍の要塞都市内にあるんだけど


 もしかしなくても、それも聞かされてないんだ?」



「うん全く」



「軍の中にあるから、上官命令は絶対だし

 指揮系統を乱すような事は禁止エリアなんですよね

 今、私がいる所って

 休み中だったんで連絡してとは言いましたが上官が


”私用電話などをしおって、けしからん”


 て感じで睨んでるってか怒っているんで切りますね


 この要塞都市の、どこに来られるかは知りませんが

 来れば同じように土日しか連絡できないのが理解できますよ」



そんな短い会話で終了。実際はアレコレと雑談交じりに

色々と聞き出したかったのだが、それは叶わなかった。




そして2月1日、要塞都市の入り口

来る途中に眺めた高い壁は要塞都市を囲む塀

唯一の入り口である門には警備兵が数人、立っている


門の横にある一般企業の守衛所のような事務所前で

着任先の人と待ち合わせ


待ち合わせ時間に1分とズレずに着任先の人が現れ

前日にメールで送られてきた添付写真と同じ

几帳面で神経質そうな顔を見せる


そして要塞都市内に入国。まさに小さな国に入国したという感じだった。

敷地内に入ると軍需産業内で名を知られた会社マークや会社名が視界に入り

道行く人は工場街で作業服を着ている人を見かけるのと同じように全員軍服


子供の学校の制服も軍服のようなデザインで

もちろん都市内で生活する奥様も軍人のような格好


初日は要塞都市で製造・保守している諸々の概要についての説明


 偵察衛星や軍用通信用衛星での攻略予定地域状況や要人行動の監視


 偵察用・空爆用ステルス・ドローンの遠隔操作設備


 ターゲットが防空壕に逃げても地下まで突き進んでから

 地下で爆発してピンポイントにターゲットだけを仕留めるミサイル

(軍幹部や有能な軍人、とにかく指令を出している

 頭を吹き飛ばせば手足だけでは何もできないという考えに基づいているらしい)


 制空権や制海権を侵略されていないかを見張るための衛星と

 連携する地上部隊の衛星通信


 敵国からの攻撃を迎撃するミサイル


 フェイク・ニュース情報遮断システム


 軍事機密情報通信の盗聴装置


などなどの軍事ツールについての説明


昔、平和だった頃は、衛星テレビ、GPS携帯、自動運転自動車

軍用秘密暗号通信を民需化しての金融データ通信などを

製造保守するための巨大な工場だったのを

隣国との紛争が多発して平和で無くなったために

軍が接収して要塞都市にしたという街の歴史の説明


という感じで始めましての御挨拶というか

着任先リーダーの説明が終了した。


説明をして貰った小さな応接室のような部屋を出て


体力とか色んなものが満ち溢れた学校を卒業したばかりの若い人々が

各種格闘技の訓練をしている武道場の横を通って作業場に到着。


同じフロアにいる人に宜しく御願いしますの挨拶をして着席

今日は初日だから見学のような感じなのかなーと思ったら

いきなり、軍需産業用語集、作業項目表と作業手順書がメールで送られくる。


自分の国の母国語で書かれているとは思えないような用語が並ぶ作業項目表

用語集を辞書のように引きながら意味を解読して

作業手順についても用語集を参考に意味を解読した後

神経質・几帳面リーダーに確認メール


 これって、こういう意味で書かれていると解釈しましたが

 誤認識がありましたら指摘して下さい


というような事を書いたつもりだったのだが

その文言自体がリーダー様の気に障られたのか


 忙しいから、わかっていない所が、わかっていない

 新参者の相手なんか、してられんよ。


という事なのか返信メールは無く。

午前中も終わる頃にサブリーダーからメール


 転送されたメールを見させてもらいました

 この部署内で使われている用語の用語集と

 関連必要書類を送ります


 それから、午後、我々の担当するシステムのシステム常識について

 説明しますので、送られた作業項目表と作業手順書、用語集が

 見れる端末を持って打ち合わせ室Gに来て下さい


 説明は昼休憩が終了した30分後から開始します


という事で午前中が終わった。


午後になってから、システム常識とか、システム運用上の御作法とかの説明


夕方休憩頃になって体育会系な若い軍人をサブリーダーに紹介される


各種格闘技の訓練を格闘場でしていたようだ

いかにも学生の時、格闘技の部活動で過ごしてきましたという外観だった。



「自分の一族はぁ、父、祖父、そのまた祖父にいたる代からのぉ軍人でありますぅ


 幼少の頃よりぃ、強くなって色んな競争に勝ち抜きぃ

 優秀な軍人となって国のために戦う事だけを目指してきましたぁ


 入隊して1年目で春より2年目となる若輩者ですがあ

 宜しく御願いいたしますぅっ」



何百メートル先の人間に言っているんだ御前?


と聞きたくなるような大きな声を大きなプロレスラーのような体から出してくる

とても性別が同じ女だとは思えないような男らしい外観、たぶん、同じ一族が


 軍人らしく生きるとは、何をやっても勝てる

 強く逞しく人間である事だ


という感じで教育され育てられたのだろう。


その教育を素直に受け入れて完成した一族の最高傑作な戦闘員

それが、この女なんだろうなあ。


などと思ったのだが、もちろん、そんな腹の内は出さずに

軍人らしい大きな声での挨拶に、おつきあいして

強さや、敵に勝つための世間話にも、おつきあい。


しかも夜を過ごす宿舎の相部屋で同じ部屋


ようするに、サブリーダーに


 そうだ、この脳みそ筋肉な面倒なのを

 こいつに押し付けよう


と判定されたって事らしい。

炎上屋の業務連絡が来た時や、炎上屋の職務をする時は

コイツを、なんとかしながら仕事をしないとならないっぽい


だが、しかし、この同居人は眠るまで

勝負論を語りだすか、強くなるための自主トレーニングをするかで

夜を過ごすので、ほとんで自分一人で考える時間とかは無く


同居人がトレーニングに疲れて眠ってから


 上司に指示を仰いだというか説明会があった事と


 初めて見る今まで見た事も聞いた事もないような

 システム常識・作法だったので囚われた感覚は


 ”この世に、そんなもんがあるんですかー”


 というような感買でした


というような報告メールを糯月に送付して初日は終わった。



・・・


そして最初の週の木曜日、前日は水曜で

残業禁止日で定時帰りだったため今週中にやる確認作業の追い込み


朝7時半に職場に集合しての朝礼後

脳みそ筋肉女と、同じ軍人学校を卒業して同期入隊した女とに作業説明



「これから二人に、ちょっとした戦闘訓練をしてもらいます


 ただ、実際に格闘技とか模擬銃撃戦とかをしてもらうワケでは無く


 片方が防御側としてセキュリティや、データ保護設定


 もう片方が攻撃側としてセキュリティを突破して

 強制接続をしてデータ取得


 データ取得した時点で攻撃側の勝利として1ラウンド終了

 1時間、データ保護できたなら防御側の勝利として1ラウンド終了

 なので最低3ラウンドは午前中に実施します


 口裏を合わせて怠けられると困るので

 何を操作したかなどの記録はモニタでチェックさせてもらいます


 では、0840(ゼロハチヨンマル)時より開始して下さい」



そう説明した後、自分に連絡が来た作業項目の確認


 設定したリカバリ(システム自動修繕)機能で

 何事も無くシステム連続運行が可能かの確認


 想定ユーザー操作は、仲の悪い同期入社二人組みでの作業による内輪もめ

 というか本来の使用目的から逸脱した同じシステムを操作する人間を攻撃する

 対戦型オンラインゲームのような操作


そして作業手順概要も確認


 午前、”雑な真似をする雑な人間がいる”という前提で

 操作した後の応答が遅いので

 イラついて強制リセットや強制中断をしたくなる設定にして

 疑問に思って質問した事だけに回答するだけで宜しい


 リカバリ機能は標準設定


 午後、人間的に相性が最悪な二人組みに

 任務だからと無理やり共同作業をするよう指示をした事が原因で

 悪意が悪意を呼び、憎しみが憎しみを呼んで滅茶苦茶な操作を開始して

 システム常識を無視して操作ミスをしろとか

 システム作法を守らずに上官に怒られろとか足の引っ張り合いをするはず

 なので、互いの獣性(にんげんせい)が出るように煽る


 リカバリ機能は標準よりずらし、データ破壊防止機能フル設定


ずいぶんと大雑把な指示、操作ログ・通信ログ・不正アクセスチェックログを

自動採取するように設定して、リカバリ機能を標準な事を確認する内に0840


1ラウンド目、開始30分でマシンがクラッシュ


何をやったのかログをチェックしてみると


 防御側が防御設定したデータサーバの50倍くらいのデータ送受信サーバに

 直接、接続して大容量高速データ送受信を30分ほど繰り返して

 オーバースペックになったデータサーバーが作業限界でクラッシュした所に

 すかさずハッキングして無理やりデータを引っ張り出していた


攻撃側に回った脳筋女の勝利で1ラウンド目は終わった

よく自分が勝つためとは言え、こんな手法を思いつくものだ。


しばし休憩してもらっている内にデータサーバーをリセットして

攻撃側と防御側を入れ替えて2ラウンド目を開始。


今度は、どんな設定にするのかな

と思ってモニタリングしていると


 長いつきあいなので相手側が暗号通信の暗号化複合化用の

 ソフト部品をハッキングして暗号解読を狙ってくるだろう


という予測の元、暗号化部分を数分毎に

やたらめったら設定変更していた


ツールを使って暗号化を解いてパスワード検知されそうなタイミングで

暗号化設定を変えてパスワードも自動変更するという

わざと延々とイタチゴッコをするという真似をして時間稼ぎ


かくして狙い通りに1時間が経過、タイムオーバーで脳筋女が二連勝


よくよく考えて見ると勝つ事への拘りというか

何がなんでも勝ちたいという執念というか情熱というか、そういうものが凄い

わずか数日でシステム常識のシの字も知らない女が

勝ちたい一心でココまで荒業のような設定を編み出すとは驚きだった

脳筋女というより、勝ち勝ちヤマのタヌキさんチーム女

略して妖怪タヌキ女という感じの得体の知れない存在にすら見えてきた。




そして互いに攻撃と防御の両方を仕掛け

昼休憩開始10分前までに、どれだけ相手側システムに

ダメージを与えられるかで勝敗を決する事として3ラウンド目を開始。


3ラウンド目は生中継を見るのはやめて

経過記録ログを採取して後で経過や結果を、まとめて見る事にした


ラウンド中に2ラウンド目までのリカバリ機能が

想定通りに動作したかの確認する作業を始めた


 ラウンド1で多重プロトコル通信をして


 片方のプロトコルをオーバーフローさせるためと

 セキュリティ暗号通信部分を吹っ飛ばすための攻撃通信


 もう片方をデータ盗用通信に使うために

 基本通信制御部分はクラッシュさせない


という器用な設定を、どうやったのかを見てみる


 リセットする時に通信用データのゴミが

 クリアされているかを見てみると

 通信ワークゴミを掃除していないのが原因でクラッシュ


というような事象を発生させた内容


 たーくさん実験用の通信衛星を打ち上げたら

 隕石にブツかったりして壊れて

 何台も宇宙ゴミになってしまったけど

 回収するのに手間も暇もかかるから放置したら

 宇宙ゴミだらけの空間が出来上がってしまってますが

 どう、いたしましょうか?


というような相談メールをサブリーダーに送付


 宇宙ゴミを綺麗に片付けようとして

 間違えて使用中の通信衛星を掃除したら大変なので無理か?


 設定で壊れて宇宙ゴミになったかどうかを確認して

 ゴミなら大気圏に突入させて燃やして消すようにできないか?


というような


 言うのは簡単、実際に設定するのは難しくね?


てな内容の回答メールが返ってくる。


そのメールに


 結論は、もう少し精査してからで宜しいですかねー


というような、お茶を濁すような返事を返して誤魔化してみる

回答は無い。お茶を濁せて誤魔化せたのだろうか?

それとも、今すぐに、なんとかしろとか言い出すのだろうか?


などと漠然と考えている内に午前中が終了

第三ラウンドもタヌキさんチームの圧勝だった。

なんとも悔しそうな顔をするキツネさんチーム

自分でもコテンパンに、やられたのを自覚しているのだろう。



・・・


要塞都市でシステム運用管理オペレーターをする

出稼ぎ外国人として働き出してから一週間が経過した日


急遽、戦闘シミュレーションに参加するようリーダー様から連絡


同じような要塞都市が隣国に存在して

それを、どう攻略するかの戦闘シミュレーション


「丸半日も全員強制参加でやるほどのシミュレーション?

 なんだ、そりゃ」


近くの席で誰かが呟く。誰もが同じような事は思っているが

最高決定権利職の指示メールによるものなので誰も口にはしない


午後の半日で要塞都市が攻略できず

今週末まで同じ戦闘シミュレーションを続行する


という指示が夕方に飛んできた。

8時間ずつ3交代制で延々とやるらしい


なんか変だな。と思い休憩時間中にメガネを

連絡用VRゴーグルに切り替えて糯月に連絡してみる



「あーそれな、その国が戦争始めたからだ


 演習シミュレーションなんかじゃない

 遠隔操作の攻撃用ロボットが地上部隊と交戦して

 空爆ドローンが爆撃して

 ミサイルが飛んできて都市を破壊している


 バーチャル空間での金を賭けたギャンブル戦争ならあったけど

 物理的に都市を破壊する戦争が発生したって外じゃ大騒ぎだ


 御前のいる要塞都市内じゃ情報が遮断されていて

 何も聞かされていないんだな?」



「はい、軍事演習シミュレーションと聞かされています」



「昔は軍事同盟を結んでいた隣国が

 敵対してきた諸国と同盟を結んでしまいそうなので


 今まで共同開発してきた要塞都市を

 全部、制圧して攻撃装備を破壊するつもりになったらしい


 よっぽど敵対諸国の手に渡ったら都合の悪いモノが

 その要塞都市にあるんだろうな


 要塞都市を建設していた時は

 まさか裏切るとは思っていなかったのだろうから


 全部の要塞都市の都合の悪いモノを

 破壊するか撤去するかを完了させるまで

 攻撃をやめるつもりは無いんだろうな


 それと、そのついでに外国人を排除するつもりらしい


 ワザと国際世論から非難されるような事をやって

 外国人が嫌悪感を抱えて自国内から出て行くようにして

 昔、自国民しかいなかった時と

 同じ状態に戻す習慣のある御国柄らしくてな

 今年が、たまたま、その外国人排除年なんだそうだ


 なので外国人排除命令が出るまで、そこからは出られないと思う

 たぶん重要な職務は自国民がやる方向へシフトしていくだろう


 大変に心苦しい事で悪いんだが頑張ってくれ」



「頑張ってくれって、こことかも逆に攻撃されるんじゃ」



「いや、それは無い。

 要塞都市建設で相手国情報は把握しているけれども

 自国側情報は一切、公開していないから

 そこにあるのが要塞都市だという事すら敵国側は知らないはず」



「本当ですか? こんな私でも知ってしまえるのに?」



「ああ、本当だ。


 我が国は完全中立国だから

 相手側への守秘義務は遵守しているから

 仕事が回ってくる


 安心して早く全ての要塞都市を破壊して

 紛争を終わらせるように協力して頑張ってくれ


 いや、上官に指示された最低限の事だけをして頑張るな


 政権交代とかがあって、また陣営反転でもして

 戦争犯罪人になるかもしれないのを考えたら


 働き者の死神なんか誰も望まないだろ?」



「そうですね。上官命令無視の反逆罪にならないギリギリまで

 なるべく怠けて言われた事だけするようにしますよ


 そういえば、この国は戦争犯罪人を判断する国際紛争解決裁判所への

 加盟条約に参加署名していない国ですよね?」



「そういやあ・・・そうだな」



「じゃあ戦争犯罪も何も、戦争犯罪かどうかは当事国間で判断する

 とか言って戦勝国が一方的に戦争犯罪者を決めてるんじゃないですか?」



「言われてみれば、そういやあ、そうだな。


 そんな国の末端で下っ端な出稼ぎ雇われ傭兵まで

 イチイチ調べて逮捕はしないだろ


 たぶん強制訴追するとしても下級権利職までだろうから」



「出稼ぎ雇われ傭兵って?


 暗号通信会社で通信設備の動作確認するテスターってか

 オペレーターってか確認作業員やってる出稼ぎ外国人なんじゃないんですか?」



「うーん、自分じゃあ、そういう存在だと思い込んでいたのかもしれないけど

 どうだろうなあ、客観的に見たら・・・」



「そうですか、では明日から体調を崩しがちな

 あまり仕事をしない怠け者にならせて貰いますよ」



出稼ぎの一人が体調不良で休みまくろうが

何が変わるワケでもなく仕事熱心な軍人の皆様の職務は続く


最初は、数日で要塞都市を全て制圧し

攻撃用設備を撤去して紛争集結という戦闘シミュレーションだったのが



 要塞都市付近の発電所などのインフラ制圧指示



 要塞都市の市長も兼務している政府高官のいる大都市にも

 攻撃用ロボットを潜入させて、要塞都市の市長の中でも


 ”知られたら困る不都合な昔話を知っている都合の悪い存在”暗殺指示



 軍需産業の熟練デザイナやエンジニアを懐柔か暗殺するかしろとの指示



次々に戦闘オプションが増えていき

戦闘シミュレーションの画面の中で実行されていく


脳みそ筋肉女、いや、ノーキンとかは、まさに、”水を得た魚”という感じで

暗殺指示のあった、”都合の悪い存在”を周囲にいる取り巻きの市民ともども

遠隔操作の爆撃ドローンや遠隔操作ロボットを操作したりして次々に消していく


本当に人を殺しているとは思わずに

自分の優秀さを発揮するために、それはもう楽しそうに。





要塞都市に入って1ヶ月が経過して3月になると

外国人退去法という法律が制定され

出稼ぎ外国人は全員、国外退去という事になり

担当職務をノーキンに引き継いで要塞都市から出て行く事になった


「大変、短い間でしたが、お世話になりました」



引継ぎが終わった後、ノーキンとか関わった人間が同じ別れの挨拶


要塞都市を出て自国内に戻ってから

炎上ショーを実行する指示が何故、無かったかが理解できた。


喫茶店とか店の中にテレビのある店などで繰り返し映されているのは

全て戦闘シミュレーションで映っていた場所と同じ景色


ただ違っていたのは、怒りの声を上げる住民の言葉が流れている事



要塞都市内では、最高決定権利職として賛美され神のように崇められている人間が


あの国以外では悪魔のような存在で、今すぐに権利職を辞めるべき人間


というような非難がテレビの中で語られている




これは、ちょっとや、そっとの炎上ショーを開催しても

しばらくは何の効果も無いと判断して当然だ



要塞都市内にいた時に流れていた権利職の言葉が

何かのはすみで心に蘇る


「人間は自分に都合の良い事だけを見て聞いて信じる

 自分に都合の悪い事は忘れて無かった事にしょうとする


 資金力を信じる者は対立する相手から資金力を奪おうとする

 強さを信じる者は対立する相手に弱い事を思い知らそうとする


 そして自分の信念を通す事以外は、どうでもよくなる

 自分の信念を語れるほどの地位や名誉を手に入れたら

 当然、そうなって、邪魔なものを心の中から消し去り忘れる


 たぶん、どんなに多くの人に反感や憎悪を招く事だったとしても

 自分の信念だけのために他の全てを忘れている人間にとっては

 相手が抱える反感や憎悪すら、どうでもいい事


 どんな真似をしても勝てば全てが正しいとされ

 どんなに道徳的で人道的に正しくても負けたら全てが誤りとされる」


要塞都市内では、言われてみれば、その通りです、神様の言うとおり。と思えた言葉が


血迷った残虐な悪魔が自分の仲間を増やすために呟く呪文のように聴こえるから不思議だ。


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