ハードオフのジャンクコーナーという魔境
突然だが、自分は「ハードオフ」という大手リサイクルチェーン店が大好きだ。
近所の行きつけ店だけではなく、遠出のドライブやどこかに旅行した時などでも、行った先でハードオフを見つけると必ず入店する。正直、「グルメよりもハードオフ」と言っても過言ではない。
「オフハウス」や「ホビーオフ」などの系列店もあるが、楽器や機材が大好きな自分にとって、やっぱり一番は「ハードオフ」。
自分がハードオフに入店すると、まず真っ先にギターコーナーに行く。
ハードオフのギターコーナーは店舗によっては、単なるリサイクルショップレベルを遥かに超越した、楽器屋顔負けの品揃えだったりするからだ。
例えばプロの定番ギター、ギブソンUSAのレスポール、フェンダーUSAのストラトとテレキャス、マーチンのD-28やギブソンのJ-45なども普通に見かけるし、憧れの高級ギター「PRS」の限定モデルや、1960〜70年代のビンテージアコースティックギターがしれっと置いてあったりする。
かと思えば3万円前後で買える、エピフォンやフェンダーJAPANなどの高コスパギターも充実しているし、1万円以下の入門モデルも選び放題。
何を隠そう、自分が愛用しているフェンダーのストラトも、ハードオフで買った。
ひとしきりギターコーナーを眺めた後はシンセやエフェクター、パソコンやゲームなども物色し、昔使っていた機材やゲームと再会すれば思い出に浸り、時には「え、スーファミ本体って今こんなに高いの!?」なんて驚いたりする。
そして次第に「魔境」に近づくにつれ、自分の胸は密かに高鳴り出す。
その「魔境」とは、個人的にはハードオフの真髄だと思っている、「ジャンクコーナー」だ。
さて、このエッセイを書くにあたって、ハードオフのサイトを改めて見てみると、なんとこう書かれていた。
「ハードオフ名物!」、と!
https://www.hardoff.co.jp/hardoff/112/
嬉しい、ジャンクコーナーを愛するのは自分だけではなかったようだ。
「ジャンク」と称するだけあってサイトにも、
・「ジャンク」とはガラクタを意味する言葉です。商品価値のないもの、製品としての動作はしないもの等を集めてあります。自分で修理したり、パーツや実験の材料としてお使いください。
と、これだけでご飯一杯いけそうな文面がバッチリ書かれている。
そんなジャンクコーナーに足を踏み入れ、棚に並ぶ青いカゴをそっとのぞいてみると、そこには配線やPCパーツ、ゲームのカセットやCDなどがぎっちりと詰め込まれ、それらを漁っているうちに心は少年時代にタイムリープ。
旧式のプリンターは床に直置きされ、縦に置かれたビデオデッキ達は隊列を組み、時には全く色ツヤのない「フルート」が3000円台で売られていたり、CD/MDをひとたび飲み込めばメディアの読み込みもせず吐き出しもしない、ブラックホールのようなオーディオプレイヤーがじっとこちらの様子を伺っている。
ちょっとした「怖いもの見たさ」的なドキドキ感を感じたり、その一種異様なオーラに圧倒されつつも、自分は思うのだ。
今はこうして「ガラクタ」などと称され、100円かそこらで売られている物たちも、数千〜数万円の値札をつけ、ピカピカの新品として売られていた時があったのだと。
そう、ここに売られているのは決してガラクタなんかではない、電化製品の歴史そのものなのだ。
そして、それぞれの形で持ち主の人生に寄り添ってきたのだと。
ボロボロのファミコンカセットも、元の持ち主が期待を胸に、発売日当日にゲームショップで並んで買ったのかもしれないし、カセットにマジックで名前が書いてあったりするとほっこりする。
ふと見れば、ワゴンにはレンズのついていないカメラ本体が無造作にぶち込まれ、レンズはと言うとすぐ横のワゴンにゴロゴロと転がされている。
もしかするとその中には、元はセットで使われていたカメラとレンズがあるかもしれない。
そのカメラとレンズを「夫婦」としよう。
きっとその「夫婦」は、元の持ち主の日常風景を切り取ったり成長を記録したり、どこかへ旅に出たりして、沢山の思い出を写しとめてきた。
今ではジャンク品として乱雑に扱われ、別々のワゴンに引き離されてしまったがそれでも、「楽しかったなあ」『ええ、幸せでした』「母さんと一緒で良かったよ」『私もです』なんて、お互いにテレパシーを送りあって会話してるかもしれない。
ああ、悶える。
こんな風に、ジャンクコーナーの品々一つ一つにもそれぞれのストーリーがきっとあり、それらに(勝手に)妄想を膨らませていると、単に品々に感じるワクワク感だけではなく、どうしようもなくエモーショナルな気持ちになれるのだ。
「ぷはー、えがった」的な。いや、某仙人のような変態ではないのだが。
さて、ジャンクコーナーのエモさ(あくまで個人的にだが)を堪能した所で、最後にもう一つ、魅力をご紹介したい。
それは、品々に書かれた「コメント」だ。
普通の売り場の品々にもそれぞれコメントが書かれているが、ジャンクコーナーのコメントは一味違う。
実の所、ジャンクコーナーで「どんなジャンク品に出会えるか」という期待感以上に、「どんなすごいコメントに出会えるか」を楽しみにしている自分もいるくらいだ。
そこで触りとして、よくジャンクコーナーで見かけるコメントを3つほどご紹介したいと思う。
いずれも、ジャンクコーナーに眠る歴戦の猛者たちを讃えるにふさわしいコメントばかりだ。
・その1 「電源入りました(入りませんでした)」
もはや、そこからである。
派生として楽器類には「音出ました(出ませんでした)」なんてのもあるが、ジャンクコーナーの猛者たちは、電化製品なのに電源が入るかどうか、楽器なのに音が出るかどうかという、そのレベルから問題になってくる。
そもそも店側も「自分で修理したり、パーツや実験の材料としてお使いください」と断りを入れているように、ジャンク品を買うような玄人は、電源が入るかどうかなど眼中にはないのだろう。
我々素人は、生半可な覚悟では手を出してはいけない。
・その2 「動作未チェックです」
この丸投げ感がたまらない。
きっと、買取時は無料引き取りかまとめて1円だったかとも思うが、むしろ「無料で引き取ってくれてありがたい」レベルのものも多分に混じっている。
店員も匙を投げた「動作未チェック品」、むしろどんなツワモノなのか、逆にワクワクしてしまう。
・その3 「現状お渡しです」
またまた丸投げキター!
というか、そもそも売り物って、「現状お渡し」が当たり前ですよね?
「現状お渡し」なんて普通、書く必要ないですよね?
それをわざわざ書くってことは、どんだけ凄い「現状」なんだ。
震える。
まだまだ魅力は語り尽くせないが、今後も行きつけ店や出先にあるハードオフに足を運ぶだろうし、こちらの心をあの手この手で揺さぶってくるジャンクコーナーに、どっぷり浸るだろう。
そう、自分にとってハードオフのジャンクコーナーは、その中毒的魅力から一向に抜けさせてくれない、まぎれもない「魔境」なのだ。
もしかしたら皆様の中には、既にジャンクコーナーの虜になってしまっている方もいるかもしれないが、まだ未体験の方は、用法・用量を守ってほどほどに楽しむことをオススメする。
これ以上、自分のような犠牲者が増えないことを心から祈っている。
魔境とは。
1 悪魔や魔物の住む世界。魔界。
2 どんな危険がひそむかわからない人跡まれな地域。
3 遊里や賭博場など、人を誘惑して逃れられなくさせる場所。