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文学少女になりたい私と

作者: キマ

この日は、青々としていて雲1つ無いのが印象的な空だった。

「先生、お腹が痛いので保健室に行ってきます」

私はそんな、不良がさぼりに使う常套句を口にし、教室を抜け出した。文句を言う先生は誰もいない。成績優秀、愛想も良く、先生からでなく友達からの信頼も厚い。そんな私は学校では敵なしなのだ。運動はちょっと苦手だけど。

少し廊下を歩いてから、私は作っていたポニーテールをほどいた。長い艶やかな黒髪がふわっと宙に舞い、静かに背中を撫でる。目的地までそう遠くないが、優等生らしく、背筋をピンとし、凛々しい足取りを保つ。

目的地の地学実験室に着くなり、ふぅ、とため息を口から吐き出し、大きく伸びをした。ここは先生も滅多に来ない。窓際に近づき、窓を開ける。とたん、爽やかで教室の埃臭さと混じった落ち着く風が、私を包んだ。

私はポケットからタバコを取り出し、火をつけた。煙を肺いっぱいに吸い込み、大きく吐き出す。

青々とした空を見上げながら、ふと、私っていつからこうだったっけ、なんて考える。授業をサボり、隠れてタバコを吸って、それで満足している。不良にもなり切れず優等生にもなり切れない、中途半端な私。

ぷかぷか煙と戯れながらそんなことを考えていると、ガラッと教室のドアが開いた。

「見つけた」

萌花はにこっと笑いながらそう言った。

「またタバコ、吸ってたの?駄目じゃない、学校で吸っちゃ」

そう言いながらサラサラとした黒髪をなびかせながら近づいてくる。私はごめんと微笑んで、タバコを揉み消した。

萌花は私が唯一信頼している友達だ。おとなしくて可愛らしい、本が好きな女の子。一緒のクラスになってから気が合って、こんな私を受け入れてくれた。

でも一つだけ言えないことがある。私は昔から、文学少女に憧れていた。高校に入って萌花を見たときから、私の心は動かされていた。羨ましくて堪らなかった。

「ちょっと暑いね」

萌花はそう言ってセーラー服の胸元をパタパタさせた。私はそうだね、と言って学ランを脱いだ。

髪を伸ばしてみても、薄い化粧をしても、本物の女の子にはなれない。学ランだって、着たくない。今すぐ粉々に破り捨てたい。私は、清楚でおしとやかな文学少女になりたかった。

そんな叶わない願いへの葛藤と痛みが、この日の空と正反対に私の心を嵐のように通り過ぎていった。


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