第三十五話 当たり前の注目
最後までお付き合いください!
九十九闘技、第一回戦から第二回戦まで三日の猶予が設けられていた。
九十九闘技は特殊なトーナメント形式だ。第一回戦と第二回戦まではシードがない。第二回戦が終わり勝ち残ったもの、つまり残り25名になった時点からシードが導入される。それまではみんながみんな二回必ず戦うということだ。
そして肝心の『採血と輸血』の権利が与えられるのは、準々決勝まで勝ち残った8名のみ。鋼命闘技場で戦いたいだとか、今後の上司になるかもしれない共和国軍人にいいように見られたいだとか、様々理由はあるだろうが、アカデミー全生徒の目指すところは結局のところ『採血と輸血』である。
再チューニングの権利、『採血と輸血』。
僕も生体鋼外殻覚醒のためにこの権利を当然目指している。
僕は今、決闘の興奮が抜けきらないのか真っ暗な部屋の中で目を開けて天井を見つめている。
なかなか寝付けない。
体が痛んでいるわけでは決してない。
あの決闘は一瞬であった。実際、決闘の時間は3分にも満たないだろう。
彼の攻撃を確実に躱し、二発の重い攻撃を確実に当てることができた。
自分でも早計だとはわかっているが、これは自分を褒めてやるしかあるまい。
生身で生体鋼外殻相手に勝利できたのだ。
こんなこと自分で言うのもなんだが、前代未聞といっていいだろう。
だが、こんな小さな自信とは比にならないほど、懸念材料は山のように目の前に積もっている。
僕の目標はあくまで『採血と輸血』だ。
そのためには準々決勝までなんとしても進まなくてはならない。
ダンのように安直に近距離戦を仕掛けてくれればまだ勝機はある。
だが、例えば彼が瓦礫を利用し、それを
水に乗せて即席の弾丸を作っていたら?
無論、一方的な戦いになっていただろう。
たけちゃんの件もある。
あのムカデ、もし僕の決闘相手だったらどのように対処すればいいのか?
解決法が全くもって見つからない。
いつまでも、妄想に近い思案を頭の中でぐるぐると巡らせてしまう。
これが杞憂で終わればそれまでであるが、そうは言ってられないのが九十九闘技だ。
戦勝の夜に素直に喜べない現状が、これでもかと広がっている。
だが、弱音ばかり吐いていられない。
師匠のあの喜び様。あれを見たとき何か動機が増えた気がしていた。
あれほど汚れない笑顔を、勝ち進み続ければ見れるのだろうか?
あの笑顔だけで何かが満たされた気がした。
憎ましい過去を持った彼女が屈託なく笑ってくれる。
恩返しをするのは僕のはずなのに、報われるべきは彼女のはずなのに。
そうか、「恩返し」のために頑張ればいいのか。
単純な理由だった、考えてみれば簡単だ。
生体鋼外殻覚醒のための『採血と輸血』獲得や対戦相手への具体的な対処。
実際的な問題ばかりに気を取られていたから、目がくらむように苛まれていた。
師匠への恩返しの場だと思えばいいんだ、そう考えるとしがらみが取れたように頭がすっきりする。
ただそのためだけに勝ち進もうとする。
背中がむずかゆくなるような青臭い理由だが、それだからこそシンプルで明快だ。
結論がついた。
それと同時に興奮で隠されていた眠気が僕を襲う。
ベッドに溶け込むように僕は深い眠りについていた。
九十九闘技第二回戦まであと<二日>。
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朝の教室。
僕のクラス、一年A組にたけちゃんとともに入ると、僕の眠たげな顔にクラスメイトの視線が一斉に集まる。なんといえばいいのだろう、何か意味が込められているわけではない視線が漠然と向けられている、そんな感じだ。
ちょっと怖い。
これから教室の雰囲気が二週間近くこうなると考えると居心地が悪いと言わざるを得ないだろう。
もちろん理由はわかる。僕が昨日ダンに決闘で勝ったからだ。
自分で思っていたよりも早くクラスでは話題になっているのか、当然のように注目が集まっていた。
衆目に好き放題見られるがまま、僕たちは教室の一番後ろの席に着く。
さらし者になった気分だ。
たけちゃんが少しうろたえていた僕を見て、からかうように話しかけてきた。
「……なんだなんだ!?人気者じゃねえか友和!こりゃ大層な事やらかしたんじゃないのか!?」
「いや!!何もしてないから!!」
「これは派手にダンの野郎をぶっ飛ばしたように見える。
何したんだ?必殺技でも使ったのか!?」
「そんな大仰な技なんて持ってないから!必殺技なんてあるわけないでしょ!」
「もしや本当は生体鋼外殻が覚醒しているだとか……?
くぅ~!!いけずな奴め!!」
「なわけないでしょ!!
覚醒してたら今頃ルンルン気分だわ!
ゴキゲンスキップで校内三十周はしてるわ!!」
「ハハッ!まあそうだよな。だが、こんなに早く噂が広まるなんてな。
ああ、つくづくお前の雄姿を見れなかったことが悔やまれるぜ。」
「そりゃあもう鬼気迫るって感じだったわよ。」
教室の後ろでじゃれついていた我々に話しかけてきたのは、アリスさんだ。
フォーゲルと決闘していた時とは違ってすっきりした顔つきだ。ポニーテールで高く結ばれている金髪は教室に差し込む朝日によって、より輝きを増している。日本の血統を持つ我々からすれば、髪だけでこんなにきれいに見えてしまうのかと感心してしまうくらいだ。
「アリスさん、もしかしてみててくれたの?」
「ええ、あなたとは何かと縁があったから。なんとなくだけど気になってね。
時雨さんに聞いて見に行ったのよ。」
「ほー!?クラス一の機動士とも関りがあったのか友和!?」
「あぁ、まぁ……」
「そりゃあもうね、女子寮に一緒に入った仲だものねぇ……?」
「じょ、女子寮!?あのヒミツの花園に入ったぁ!?
きさま、ともかず!俺に何も言わずにそこまで!?
許さんぞお!
そういうチャンスは共有財産だって血の契りを交わしたはずだろう!?」
「っておい!言い方!言い方!悪意しか感じないぞ!!」
アリスさんが口角を片方だけ吊り上げる。あ、悪意のある顔だ。すっかりいつもの調子を取り戻している彼女はもう止まらないといった様子でたけちゃん告げ口を続けた。
「あの時雨さんが教室を飛び出していった日よ。『どうしても彼女に会いたいんだ』って真剣な声色で私に言ったから手伝ってあげたのよ。
まあ、そのあとは……私も知らないけどね♪」
「友和!やっぱりグレと!!」
「違う違う!!アリスさんいい加減にして!!」
「その日を境に盛り上がっちゃったのかしら?
昨日だって知里が勝ったと思うと真っ先に時雨さんがステージに駆け込んでね……」
「駆け込んで……?」
「……ハグよ。
そう、あっつぅーい抱擁よ!
観客の目前で獣のように情熱的な抱擁よ!!」
「な、ナニィ!!!」
「ちょ、ちょっと!!」
「もうキスしてたかもしれない!
いやもうしちゃってた、うん、キスしちゃってた!」
「き、キスゥ!?!?」
「鱚がどうしたのだ?
私はもちろん天ぷら派だ!
というか天ぷら以外認めないのだ!」
(あ、まずいまずい。非常にまずいぞ。)
ありきたりで盛大な間違いをしているのはもちろん純真なグレさんだ。異常な盛り上がりを見せていたこの密告大会は真打の登場によっていったん中止する。
そして問題の人物は、いつも通りお姉ちゃんにべったりならくもんである。もし彼女の耳に「キス」の二文字が入ってしまったらどうなるか。結末は言わずもがな。バラバラ死体になる。
「いや、そうそう!鱚ってうまいよねって話し!」
何とかごまかしてみる。グレなら大丈夫だろう、彼女はまっすぐなのである。悪く言えば単純なのである。
だが、容赦がないアリスさん。僕の方を見て「ふっ」と笑い片眉をあげたと思うと何かを話しにグレの耳元まで寄った。ごにょごにょと話している内容はまるで聞こえないが、みるみるうちにグレの顔が赤く染まっていく。はぁ、僕は頭に手を当てこれから起きるであろう惨事に向けて準備を進めちゃっていた。
「な、なにぃ!?友和と口づけ!?そ、そんなこと断じてしていないぞ!!
何を言っているのだアリス=イルバーン!!!」
「ええ~?あの時は……でしょ?もうお部屋にも招待していたしね♪」
「招待など断じてしていない!!してないもん!!」
(神様、これから起こる災難にどうか慈悲を……)
お決まりの流れというものは何度か体験していれば、前兆というものが体でわかってくるものだ。まだ彼女に会ってから一週間ぐらいだがもう肌で感じてしまう。
刺すような視線。自然と立つ鳥肌。多くなる瞬き。
油の差していない機械のようにゆっくりと彼女に目を向ける。
ああ、こんなお決まりはどうにか無くしていきたいものだ。
未来の僕よ、屍を超えてゆくのだ。
「知里君?ふふっ!どういうことかな?」
「ええ、はい、わかっています。」
「じゃあ、今日もまた頭ぐりぐりだね!これに懲りたら立ち振る舞いを考えないとね!」
「はい、思いっきり弁解したいところですが、ここまで来たらもう……
ええい!儘よ!」
「じゃ♪遠慮なく!
おらああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「いったああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
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今後とも、『Exception for Equilibrium ~僕だけ<刀>って、何事ですか??~』をよろしくお願いします。




