第三十三話 刹那:怒りと逆襲と [VS ダン戦]
最後までお付き合いください!
ダン・ドグラ。
彼は僕が初めて経験した魔法戦闘、最初の相手であった。そしてまた惨敗した相手でもあった。
背丈は僕よりもちょっと低いぐらいで小太りの彼は、僕を普段からあからさまに見下している奴だ。
その理由はもちろん僕が生体鋼外殻を覚醒させていない、ということだろう。
このアウターアカデミーにおいて生体鋼外殻を覚醒していない人など僕以外一人もいない。
この事実に対して僕の怠慢だと言われればそれまでだが、なにせなぜ覚醒していないのかは僕にもわからない。
だが、彼はそんなことお構いなしで、ただ僕に「落ちこぼれ」というレッテルを貼れればそれでいいといった風に、問答無用で彼は僕を責める。
こんなことをいちいち気にしていてはこっちが疲れると思いまともに相手をしたことはないが、やはりうっとうしいものはうっとうしいもの。ここでその口を封じられると思えば、大きなチャンスだ。
そう、この決闘は今までの修業の集大成をぶつけるリベンジマッチだ。
決闘まであと少し。
目の前で腕を組んでいる彼は口をつぐむことなく、ずっと僕に向けて嘲笑の言葉を投げつける。
しゃべり続けないと死んでしまうのかと思うほど、彼は軽蔑の言葉を吐き続けた。
「お前よぉ、どれだけすっ呆けてれば、生体鋼外殻が覚醒しないなんてことが起きるんだ?」
「さぁ?僕に聞かれても。」
「はぁ。身の程を知れってんだ。あの時、気絶までさせてあげて格の違いを教えてやったのに、なんでまた分を弁えないでこの神聖な九十九闘技にまで出張ってきてんだ?ああ?」
「そんなこと僕の勝手だろ?なんで君にそんなところまで決められないといけないんだ。」
「ああ?神聖っていっただろう、神聖ッて?この伝統ある九十九闘技にお前みたいな落ちこぼれが出たら品が下がるって言ってんだよ。どうせ勝てもしない試合をわざわざお前の汚い血で穢すなって言ってんだ。」
「…………………………。」
「ああ、そういえば須佐と一緒に練習してんだってな?あいつもバカだな、こんな将来のないやつと修行だなんて、なんだ、お遊戯でもやってるのか?いくらお前に技術を教えたからって生体鋼外殻が使えないんだ、無駄なことだろ?はあ、無駄無駄。」
「…………閉じろ。」
「あ?」
「そのうるせえ口をいい加減閉じろ。」
「ハッ!ハハハハハハハ!!
いいじゃん、さっさとかかって来いよ。出来るもんなら俺の口を閉じてみろ!!!」
「……両者静粛に。時間です。
この決闘 第一回戦四十八試合目 ダン・ドグラ VS 知里友和の決闘立会人を務める、三年Ⅾ組ポール・ベルナルドです。
この決闘内容はその如何にかかわらず、責任はすべて当事者に帰するものとします。また、この決闘は九十九闘技特別ルールに則るものとします。
では。綯総の神に、愛する国家に、誓いを。」
「…誓いを。」 「誓いを。」
「戦闘開始!!!」
リベンジマッチが始まった。
僕は珍しく怒っていた。
あいつがいくら僕を侮辱しても今まで気にしないようにしてきたが、さっきあいつは師匠までもバカにした。
頭に血が上る。師匠を、そしてあの修行を踏みにじるようなあの嘲笑はどうにも許容できない。
(絶対に勝つ。今までの修業が無駄ではなかったことを証明する!!!)
「生体鋼外殻、展開だ!!」
ダンが叫ぶ。彼の横で舌を出して荒い息を吐いていた犬がその四肢から青の魔法陣を展開する。犬がダンの脚へとよじ登ったと思うと、その体がどんどんと分解をはじめ鋼の装甲へと姿を変えると、彼の脚に装着した。
この装殻態を見るのは約一か月ぶりだ。
足に付いた装甲は彼のふくらはぎの直径を二倍近くに広げ、その足裏には高速移動を可能とする水魔法の噴射口がついている。このブースタのおかげで彼は空中浮遊、高速移動を可能としている。
水魔法を行使して空中に浮遊しながら相手を翻弄し一撃を与えるといった戦法だ。
以前の決闘で負けた原因はやはり彼の攻撃をまともに剣で受け続けたことだろう。あの無理やりな防御によって段々と防御術式が削られ、地面に縫い付けられたように僕はほとんど動くことができなかった。
だが、今は違う。
剣の防御に頼らずとも回避術<観劇>がある。
師匠との修行以外で僕は<観劇>をほとんど使ったことがない。授業での訓練ではどんどんと生身の格闘訓練が無くなり、魔法戦の訓練が多くなっていたからだ。僕は授業で訓練に参加することがほとんどなくなっていたのだ。その分師匠との修行の時間は増え、毎日五時間の修業は僕を確実に強くした。
さらに、僕の成長を師匠以外ほとんどの人が知らないということは、生体鋼外殻のつかえない僕にとって数少ないアドバンテージだ。
あいつは絶対にナメてかかってくるだろう。
<観劇>
これは技というより技術といった方が正確かもしれない。相手の動きの癖、相手の攻撃パターン、更には相手の筋肉の動きを読み取る観察術だ。今までの修業によって、意識せずとも相手の動きの「余地」が見えてくるようになった。目を見開き、相手の動きに合わせてこちらも動く。
師匠の踊るような足さばきが一番の理想だが、マナの祝福によって短期間の修業とは言えど僕にも多少は扱えるようになっているのだ。
そう、もう以前の僕ではない。
「行くぞ!!すぐに終わらせてやる!!」
ダンが前の決闘と変わりなく、ジグザグ走行でこちらに迫ってきた。
瓦礫の山を縫うように走る。
彼は空中に寝そべるように体を倒し、高速で迫ってきている。
<観劇>を始めた。
僕は刀を下段に構える。体の力は入れずに、リラックスした状態で迎え撃つ。
今から起こる衝突に備えて、彼の飛行を瞬きせずに隅々まで観察する。
(右足、左足は水を噴射。姿勢の制御は足に付いているバランサー?いや、腕を飛行機の翼のようにして姿勢を制御しているのか。右腕を下げれば、右に、左腕を下げれば、左に。ダンの目も転換する方向に向いている。わかりやすいな。攻撃の初動は………)
彼が僕の向かって左側に旋回する。
僕の剣が右側に切っ先を落としていたからだろう。空中を滑るように僕の左側を目がけて飛ぶ。
(今だ。来る!)
そう思ったのと同時にダンが体を起こした。
右足を後ろに、体をひねるようにして僕に一撃を与えようと構えている。
傍から見れば、高速で接近する生体鋼外殻機動士とそれに対して動けない生身の人間にしか思えないだろう。
だが、違う。
「遅いな。」
思わずつぶやいていた。
ダンの回し蹴りが僕の頭を目がけて飛んでくる。これが側頭部に一度でもあたってしまえば気絶まっしぐらだ。いくら防御術式が展開されていても僕は生身、彼の脚は鈍器だ。
しかし、それならば、当たらなければいい。
今の僕の目には、彼の動きが緩慢で、無駄が多く、隙だらけに映っている。
「オラァ!!」
僕は少しだけ頭を下げる。
頭の上に水流を纏う足がすぐそばを通り過ぎた。
彼の脚が僕の髪を削るようにすり抜ける。
だが、当たらない。
彼は突っ込んできた勢いのままに僕の頭上を高速で飛んでいく。
「おお、少しは学習したみたいだな。だがな!!!」
またも迫る。次は左足。
僕から見て右側からの攻撃。
次は腹を目がけている。
<観劇>によって彼の動きを目で追うだけではなく、体の挙動によっておおよその攻撃の方向性がわかる。頭では的が小さすぎると思ったのだろう。さっきの構えよりも足の位置が少しだけ低い。
あからさますぎる。
彼が足を振る。
僕は最小限のバックステップを。
腹をかすめる寸前まで足が接近した。
だが当たらない。
ダンが足を振り上げる。
かかと落としか。
半身になって最小限に。
彼の脚が地面を抉りこむ。
彼の噴射する飛沫が顔にかかる。
腰をひねる動き。
顔に力がこもっている。
背中を狙う回し蹴りか?
左足が背中を捉えんとする。
身を翻す。
ああ、怒ってるのか?
攻撃が荒くなる。
無茶な態勢。
右足か。
蹴り上げ。
躱す。
頭に血が上ってるな。
次はパンチか。
無謀な。
顔の横を通る。
あ、
「余地だ。」
剣を絞るように握りこむ。下段で構えていた刀を半円を描くように後ろに回し刀を立てる。
彼はパンチを避けられ僕の右肩の上を通り過ぎていた。
彼の「余地」。
それは攻撃の後生まれる隙。
さらに、生体鋼外殻が装着されていない上半身。
無防備にも僕のすぐ上でさらされている腹。
上を向いた柄。僕は刀身ではなく柄を。
ゴスッ!!
突き立てる。
用意されていたようにそこに勝手に現れたみぞおちに、抉りこむようにあてがう。
「ぐはっ!!」
彼の体が僕のすぐ真上で山折りになる。
だが、まだだ。
防御術式はいまだ破壊されていない。
刀を刀身が上を向くように翻す。
彼はいまだ僕の上。
背負い投げのように肩の上に剣を構え、彼の方向に体を向ける。
上段の構えだ。今度こそ刀を思い切り彼に振り下ろすため力を、今までの想いを込める。
彼が僕の様子を確認しようと、こちらにぎょろっと目を向けた。
こちらも目を合わせる。
予想外といったような、目の色。知らないものを見るような目を向ける彼。
この目だけで、彼の感情が読み取れる。
「そんな馬鹿な、ってか?」
「ヒィッ!」
笑ってやった。あいつが一番悔しがるよう、笑ってやった。
そして斬撃のため、ほほえみを引っ込める。
歯を食いしばる。
「おらああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
山折りになった彼の体。
頂点にある腰を力の限り、叩く。
「ふべぇえ!!!」
彼の体が水の制御を失い、重力と刀に込められた渾身の力によって地面にたたきつけられる。
瓦礫でできた硬く鋭い地面も相まって、彼の体を挟み込むような衝撃を与えた。
「あ……あ、ああ。」
終わった。
一瞬の戦闘。
たったの一撃で、彼の傲慢を打ち砕いた。
気持ちのいい静寂がこのステージを包む。
周りを見渡す。
バカみたいに口を開け、目を見開く観客たちが目に入る。まさに鼻を明かした。
観客席に、手を広げて大きく振る、師匠と姉弟子の姿が見える。
相当喜んでくれているみたいだ。
二人が目に入って、はじめて勝ったという実感がわいてくる。
今までの苦しかった修行が報われ、僕の胸のうちに、清流に洗われるような爽快感が満ちる。
(ああ……修行して、強くなれて、勝つことができて。
……よかった。)
「勝者、知里友和!!!!!!」
最後までお付き合いいただきありがとうございました!!
やっとこさリベンジマッチまで来ました!正直言ってこの時を僕が待っていたくらいです!
気に入っていただいた方は、感想や☆☆☆☆☆をいただけると、とてもうれしいです。
続きが気になるという方!!ブックマークに登録していただけると、とてもうれしいです。
これからの執筆活動の一助にさせていただきます。
指摘やダメ出しでも構いません!!というかむしろください!!
今後とも、『Exception for Equilibrium ~僕だけ<刀>って、何事ですか??~』をよろしくお願いします。




