第三十二話 決闘前の微熱
最後までお付き合いください!!
「……し、勝者 ジルイ・ドーリ!!!」
決闘終了宣言が叫ばれた。二人して硬い岩の上に寝転がっていたが、目をしっかり開いているジルイに対し、たけちゃんは完全に昏倒していた。
会場全体が唖然としており、勝利に対する称賛の声が上がり拍手が起こるまで少しの間があった。だが、僕たちは素直に拍手など出来ない。
どう見てもおかしい倒れ方だった。我々が普段無意識のうちに体を支えている力すら一気になくなってしまったような倒れ方。さっきまで地面を割り、魔術行使を問題なくこなしていた人がわけもなく唐突に倒れたのだ。
たけちゃんの周りに救護員が駆け寄る。僕らはただただ心配で観覧席からすぐに訓練場に飛び降りた。三人の救護員に囲まれて、担架に移されたたけちゃんの元へ行った。
「たけちゃん?たけちゃん!?」
「ちょっと君たち!どいて!」
「たけちゃん大丈夫なのだ??」
「後から医務室に来てください!!今は治療です!!」
救護員が僕たちを嗜めて強引にその間を割って医務室に向かった。我々の呼びかけがたけちゃんに届いたのかどうかすらわからないが、救護員はかなり焦っている様子だ。何が原因で彼が倒れたのか、観覧席から見ていた僕ではわからなかった。突然の昏倒。横にいるグレとらくもんの二人もひどく心配しているようで、もう先に行ってしまった救護員の集団をいつまでも目で追っていた。
(……こういうモノなのか。九十九闘技は。)
僕はもちろんたけちゃんの容態も憂慮していたが、この決闘の結果や救護員の迅速な対応を見て、九十九闘技がほとんど「実戦」であることを痛感した。
相手が戦闘不能になるまで決闘を辞めない、というルール。「戦闘不能」という言葉の中にはもちろん気絶や昏倒、骨折などの重傷も含まれるが、「死亡」だってありうるということだ。そして何より、このルール上であれば暗に「殺しても構わない」と言っているようなものだ。学校の事情というものに疎い僕ではあるが、五年前は生徒が死亡したなんて言う根も葉もないうわさが大っぴらに流れていて、僕も小耳にはさんでいた。
そして今、その根も葉もないうわさが実際に起こりうることを体感したのだ。
先ほどとはまた別の種類の、アンドレアスと対峙した際に感じたのと同じ緊張感が湧いてきた。背筋が伸びたまま固まり、体全体から不快な汗が噴き出る。いつのまにか腰に掛けていた生体鋼外殻の柄に手のひらを載せ、これからの戦闘に対して身を引き締めるように、強く、強く握っていた。
するとグレが師匠の顔になって緊張で硬直する僕に話しかける。
「友和、お前の決闘まであと一時間半しかないのだ。
これはつらいかもしれないが、お前が勝鬨をあげるまで、たけちゃんのお見舞いはナシなのだ。」
「……はい、わかりました。」
ジルイの姿はもうない。彼女はたけちゃんとの決闘を終えてすぐに訓練場を出てしまっていた。あの攻撃は何だったのか、たけちゃんが突然倒れた原因はなんだったのか。多くの疑問が残る中、僕たちも次の決闘に向け、後腐れをそのままに第二訓練場を後にした。
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15:45 第四訓練場
第四訓練場に設けられたステージは、瓦礫であふれていた。ビルの破片、アスファルトの破片が区切られたステージにこれでもかというほどに集められ、山のように積み重なっている。隠れられるような場所はそこら中にあり、なぜかは知らないが師匠の起こした<霹靂爆砕>の爆心地のほど近くに設置されていた。このステージが建てられたのは実際はあの幅広の三車線道路の上なのだろうが、その表面は七割方見えなくなっている。
そしてなぜか観覧席は満員だった。二年生、三年生は事前にトーナメントが告知されているのだろうか、何か目当てがあるようだ。決闘前の熱で、皆さん声が大きくなっているのか、観覧席の麓で集中のために瞑想めいたことをしていた僕の耳に騒音のようなおしゃべりがどんどん入ってくる。
「いやあ、いまだ生体鋼外殻が覚醒していないやつがいるなんてな。
それもお構いなしに九十九闘技出場だってよ、アカデミーも酷なことするよな。」
「ワンチャン死んじゃうんじゃね?
そこまでいかなくても、成すすべもなく殴られて、そのまま降参だろうな。ハハハハ!!」
(むむむ……)
「おいおい、不謹慎だぞお前!!
プッ!!でもこんなボコボコにされるの決定みたいな決闘にこんなにも人が集まるなんてな。
こいつらド畜生だぜ!!」
「俺らが人のこと言えるかよ!!俺らだって後輩がボコられるのを見に来たようなもんじゃねえか!」
(むむむむむむ………)
「いやいや、俺はオネンネしたままの生体鋼外殻機動士にも期待してるぜ?まあ、闘牛みたいなもんだ。ほら、牛がマタドールを殺すなんてこともあるだろう?
エキシビジョンとしてはこれ以上ない。いやあ、楽しみだなァ。」
「牛の立場が人間ってのが人権に反しそうだけどな。でもこの決闘は国に認められているし合法だ。いやぁ、楽しみだなァ。」
(……こいつら。この人でなし!!!)
どのように僕のうわさが広まったのかは知らないが、この観客たちはどうやら僕目当てでSMショーを見に来ているらしい。なかなかに癇に障る理由である。そもそも、人がボコボコになるのを楽しみに来るなんて人倫に反する行為だとなぜわからないのか、てかむしろ応援してくれ!!!
「友和、お前目当てで来ている人がたくさんいるのだ!これは気張らなくてはな!」
「理由が不純すぎてむしろやる気がそがれましたよ……」
「まあ、しょうがないことなのだ。私はそんなのを見たいとも思わないがそういう趣味の人は一定数いるだろうな。だが、友和、逆に考えてみるのだ……」
「逆?」
「そうなのだ、これはチャンス!お前を見せ物に仕立て上げようとしているこいつらの鼻っ柱をぶん殴るチャンスなのだ!!!」
「え?」
「そうだ、『見返す』ッ!
これほど素晴らしいカタルシスはこの世にそうそう無いのだぁ!こいつらの顔がお前の決闘を見て阿呆面になる。あれだけバカにしていた奴の阿呆面、これほど笑えるものはないのだァ!!!」
「………師匠。……あなた。
やはり天才ですか!!俄然やる気が出てきた!!」
「フハハ!ほめよたたえよ、お前の偉大な師匠を!」
「フゥ!フゥ!ヨッ!天才!!」
「………お姉ちゃんも知里君もなにしてるの?」
らくもんが怪訝そうな顔をしてこちらに近づいてきた。彼女がツッコミ役に回るなんて珍しい話である。我々二人は盛り上がっていた師匠の独擅場を辞め彼女の方に向く。
「ほら、知里君。準備しないと!あと十分もないんだから!」
「え……?あ、ホントだ!!」
もう決闘まで五分ほどしかなかった。僕たちは急いで、ステージの外で準備をはじめた。まあ、僕に関しては生体鋼外殻の最終調整が必要ないのでさほど準備することは多くないが、訓練用の靴に履き替えたり、ユナイトスーツに着替えたりはしなくてはならない。
急いで準備をしながら、バカ話をして緊張をほぐす。さっきまでの緊張は少しずつなくなっていくのを体感する。緊張よりも戦いに対する楽しみが増えてきた。
理由もできた。そもそも『採血と輸血』を取る。
そしてこいつらのありきたりな予想を裏切る。
時間だ。
二メートルほどの壁に囲まれた特設のステージの扉から入場する。
目の前にはこれでもかと瓦礫の山が広がり、鋭い鉄塊が無造作に落ちている。
対面する相手が見えた。
「おお!これはラッキーだ、チリじゃないか。
あの時、存分に格の違いってのを見せたのに、残念だったな?
今回はもっと早めに終わらせてやるよ!!!」
またも一つ理由ができる。
リベンジだ。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!!
リベンジが始まります!以前の決闘は『第六話 再会』をご覧ください!
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今後とも、『Exception for Equilibrium ~僕だけ<刀>って、何事ですか??~』をよろしくお願いします。




