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Exception for Equilibrium ~僕だけ<刀>って、何事ですか??~  作者: 艸田見 寛
第三章 目くるめく変化する現在 [九十九闘技編]
33/38

第三十一話 風と霧と決闘と [武野 VS ジルイ]

最後までお付き合いください!!



「今回、第一回戦二十五試合目・武野航VSジルイ・ドーリの決闘立会人をさせていただく、二年A組 エマ・ウィリアムズです。


この決闘は九十九闘技特殊ルールに基づき、執り行われます。なお、決闘での戦闘内容は一切の責任を本人に帰すものとします。


それでは。綯総よりふさの神に、愛する国家に、誓いを。」


「誓いを。」 「誓いを。」


「戦闘開始!!!」




14時。ついに決闘が始まる。



凸凹でフラットな部分のないこのステージで、二人が対峙していた。観覧席にはすでに手に汗握ってしまっている我々三人。我々から見て左側にはたけちゃん、右側には対戦相手であるジルイ・ドーリが立っていた。


ジルイ・ドーリと言われているその人は長い黒髪をそのままに下げ、腰まで伸ばしていた。

前髪を一対一に分けてはいるもののしっかりと顔が見えるわけではなく、性別すらわからない。

細い腕、細い足は女性を思わせるような弱弱しさを感じるものの、体全体の輪郭自体は丸みのない角ばったものだ。

きっちりと襟の立った皺ひとつない軍服とあまりに不釣り合いな格好は不思議な雰囲気を醸している。




そしてジルイに隣りにいるのが、生体鋼外殻アウター特有の不自然な大きさを持つムカデだった。本来のムカデにしてはあまりに大きく、その身は毒毒しい赤をペンキで塗りたくったような質感がある。蠢く生体鋼外殻アウターは小さなサイズのムカデとは違う気味悪さを持っていた。




対峙するたけちゃんは、少し遠い場所からでもその屈強な体躯が見てわかる。年不相応の大きな体は岩場にフィットする硬質なシルエットを見せ、威厳を持ってそこに仁王立ちしていた。先ほどまでチアガール妄想をして、グレにぶん殴られた人には見えない。だがしっかりとグレに殴られた口元は切れていて、強靭な威圧感に押されていた僕に少しの安心を与えてくれていた。


そして、たけちゃんの直径の大きい腕に猿のように巻き付いていたのが、彼のアウター、モウ太である。こんな時まで可愛い。反則的だ。



(やっぱ、こう見るとすごいでっかいな。口元切れてて、少し情けないけど……)



そんな二人。



戦闘開始の宣言がなされると、両者、生体鋼外殻アウターを展開をした。



たけちゃんは両腕をそのまま肥大させたような生体鋼外殻アウターである。肘の30㎝ほど先まで覆い隠すような装甲の先端には、魔術行使のための噴射口がある。

ここから魔法陣を展開することでパンチの威力を増したり、移動速度の向上が見込める。拳にはメリケンサックのように打撃面に牛の角を模した鋼鉄の棘が二本ずつ取り付けられていた。



一方、ジルイ・ドーリ。彼は生体鋼外殻(アウター)の展開を殻獣態シェルビーストで留めていた。もともと異常なサイズであったムカデはさらにその大きさを増して、二十ほどに分かれる節々の生物的な繋がりはなくなり電車で使われるような連結フックでつながっていた。

ジルイの周りを囲むように従うムカデはその頭に付けた牙を異常に発達させ、ほとんど大型の枝切りばさみのようになっている。



ジルイは展開を終えてもその場から一歩も動かない。そもそも殻獣態シェルビーストまでで展開を終えるというのは大変に珍しいことである。そもそも本格的な戦闘には向いていない形態で臨むということは、何らかの思惑があるに違いない。彼はたけちゃんの攻撃を誘うように待ち受ける。



「お前、殻獣態シェルビーストまでってどういうことなんだ?装殻態シェルになるまでもないってか?」


「別に人の戦闘スタイルなんだからいいでしょう。口出ししないでください。」


「それもそうだな。」


「さあ、はじめましょう。」


「よし!じゃあ行くぞ!!!」



たけちゃんが肘の先から魔法陣を展開した。

すると、口の小さい円筒から強い風が噴射され、腕にまとう装甲が隙間を広げるようにさらに展開する。

魔法を纏った状態のアウターだ。




岩盤にたたずむジルイに突っ込む。



10m前方まで接近する。するとジルイもそれに呼応するように行動を開始した。


「毒虫ども。散ってください。はい、散開です。」


彼が命令を下すと、二十個ほどの体が一気に分裂しそれぞれ独立した行動を始める。

ムカデの分裂体はそれぞれ四本ずつ足を持っており、彼の周りから一気に分散した。

そこら中にあるごつごつした岩の影に小さなムカデたちは身を隠す。


走りこんでいたたけちゃんは一度足を止めてしまう。ジルイの周りには攻撃を防ぐものはもう何もないが、これだけ敵の生体鋼外殻アウターが散り散りになってしまってはどこから攻撃が来るかわからない。外見上は岩の上に立つ一人の生身の人間、だがそこには近づいてはならないという緊張感が漂っている。




二人がにらみ合う。またも攻防のない静かな均衡状態が生まれてしまう。しかし仕方のないことではあるだろう、ジルイの戦闘スタイルからすればブービートラップにかかる獲物を待たなくてはならない、たけちゃんが攻撃を当てるには、目の前で張り巡らされた罠に自分から突っ込まなくてはならない。



決闘にふさわしくない、動きのない状態が続く。観覧席がざわざわし始めた。ただの友達が観戦に来ているのならこの状況に対して理解を示すだろうが、なにも観客は一年生だけではないのだ。二年生も三年生も見に来ている。彼らは後輩の成長を見に来たなどというお節介な理由で来ているのではなく、純粋な生体鋼外殻アウター戦闘を楽しみに見に来ているのだ。



「おいおい、なんであいつら動かねえんだよ……」


「さぁ?何ビビってんだ、そこの大柄!!!早く突っ込め!!!」



いやなヤジが飛んでいる。友達がいわれのない批判をされるのは気に障ったが、別に言い返す気にもなれない。グレが見かねたように小声でしゃべり始めた。右にいる彼女は少し不機嫌そうだ。



「しょうがないのだ、あれほど見え透いた罠に突っ込むやつがどこにいるのだ。」


「……確かにそうっすよね。でもこれじゃどっちから仕掛けるのか……」


「うーん、たけちゃんならあの程度どるーんって吹っ飛ばしちゃいそうだけど。」


「まあ、相手の素性がこれ以上なくわからないのだ。属性も、どんな罠なのかも。それに対してたけちゃんは面が割れているといっても過言ではない。戦闘スタイルも分かりやすい接近戦型なのだ。」



グレの言うとおりだ。たけちゃんはわかりやすい戦闘スタイル、破壊力を実現するための生体鋼外殻アウター、鍛え上げられた肉体、どう見ても白兵戦が得意なタイプだ。一発さえ当ててしまえば勝機はあるだろうがそこまでに10mという長い道のりがある。



しびれを切らしたジルイが、とどまったままあたりを警戒する彼に話しかけた。顔全体はよく見えないが、髪から覗く口元は少しだけ口角が上がっている。



「おやおや、どうされたのです。その痛そうな僕を拳を殴りつけに来たのでは??」


「‥‥‥‥‥‥‥‥」


「まあ、あなたはわかりやすいですからね。観客も盛り上がってますよ?あなたが動かないというなら、僕から動きましょうか?まあ、柄でもないですが。」




ジルイがおもむろに手を前に出す。


「<陰法・黒霧>」



ジルイが魔術行使を始めた。彼がインカムを通して命令を下すとたけちゃんの周りの岩陰から黒色をした霧が彼を囲うように噴射される。観覧席からはたけちゃんの姿を視認することはできるが、彼の視点からはどこを見ても黒い霧で視界がふさがれているだろう。

まずは目を潰す、といったところか。



すると、この霧に呼応するようにたけちゃんが空手の構えになった。

今から襲い掛かってくる敵に対し腰を落として、右手を後ろ、左手を前に。

突きの構えだ。



「来い!!!」


彼が気合を入れるためか雄たけびを上げて待つ。

すると、黒霧の中からムカデが彼に飛びつくように襲う。

分裂した小さなムカデはそれぞれに刃がついており、単体でも攻撃力をしっかりと持っている。一匹でも見逃してしまえばダメージを負ってしまうだろう。



だが、それを許さない。



彼の周りから飛びつく脅威を、丁寧に突きで吹き飛ばしていく。その突きには風魔法の威力が乗り、霧を突き抜けてどんどんと吹き飛んで行った。ムカデが吹き飛ばされた道は彼の纏った風によって視界が開ける。

次々に黒霧が晴れていく。

次々にムカデが彼の周りから離れていく。



連打は丁寧に執り行われる。隙を見せない彼は背後から襲うムカデも、側面から襲うムカデもすべてを把握するように丹念にさばく。一発一発が重い。吹き飛ばされたソレはもう一度彼の元へと向かうが、何度アタックしても彼は攻撃を許さなかった。



すると最後の仕上げ。

というべきなのか、襲うムカデが少なくなってきたところ、彼が構えを変えた。

左手を地面に据え、右手を腰の横まで引いている。

力をためる。彼の装甲の隙から緑色の光が漏れる。




一発。



ドゴンといった鈍い音が鳴り響く。観覧席が細かく揺れる。



彼は地面を殴っていた。鈍い音が響いたあと、一時の静寂が訪れる。ムカデも攻撃をやめていた。



パンチの風圧によって黒霧は晴れたが、それ以降何も起こらない。




拍子が抜けたと感じたのだろう。ジルイは呆れかえったように、霧が晴れて姿の見えたたけちゃんに向かって話しかける。



「あれあれ?ただの八つ当たりですか?なんだなんだ、大仰に振りかぶるから何か大技が来るもんだと思って警戒しちゃいましたよぉ。」


「……………………………」


「いいや、参った参った。これだから意味のない行動には理解ができないんですよ。

霧が晴れた?だからどうしたんです?もう一度、霧を充満させればいいんですよ。あなたは近づけないし、一方的な攻撃が続く。ただ一直線に殴るスタイルは良くも悪くも簡単ですね。

芸もない、策もない。


一撃必殺?ならば距離を詰めさせなければいい。」


「……………………………」


「動かないでどうしたんです?万策尽きたってところですか?


 じゃあ、仕上げですね、あなたの息が続かなくなるまで私の毒虫たちが襲いますよ。


 もう一度。」



黒霧が再びたけちゃんの周りを覆い始める。たけちゃんの周りで臨戦態勢であったムカデが再び彼に迫り来ている。たけちゃんは拳を地面に当てたまま石像のように動かない。




僕たちは当事者ではないがその様子を見て焦ってしまう。


「たけちゃん、なにしているのだ!!来ているぞ!!!」


「まずい。たけちゃんもういっそ距離を詰めろ!!!」


僕たちは精いっぱいの声で彼に届けようと叫ぶが、彼は微動だにしない。あきらめてしまったのか、いやそんなことはないと心中がぐるぐるし始めている。






「いやあ、岩盤ってのはやっぱり固いもんだよな。お前が無駄話してなきゃ削れなかったよ。」


「………なに?」


「万策尽きた、ね。なんで俺は屈んだままなんだと思う?なんで()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「………まさかッ!!」



ジルイが足元を慌てて見る。地面に細いひびがジルイの周りだけに入っている。



ビギィ!



ジルイが気付いた時には、ひびが連なるようにどんどんと広がっていく。

足元を中心に岩盤が揺れ、崩れ始める。



たけちゃんがにやけた。




「行くぞ!!!<風法・ウィンドバースト>!!!!」



彼はは噴射口をこぶしの先に移動させていたのだ。地面に差し込み風魔法を送り込み続けることで、10mというこの状況においてなかなか届かなかった距離を地中から詰める。

彼は杭打ちのように腕に備わった円筒を魔術とともにもう一度地面に思い切りたたきつけた。


地面がジルイの足元につながるように割れ始める。

隙間から風が吹き出る。彼の目の前に降りていた黒の幕が切り裂かれるように霧散する。

その風が急速に接近したと思うと、岩盤が激しく揺れ始める。



ボゴォ!!!



形を持った風の塊が、ジルイを突き上げた。



ジルイの足元から噴泉のように彼の体を持ち上げるほどの風圧が襲う。

岩盤からあふれ出る風の塊が彼の体を宙へ吹き飛ばした。

生身一つで飛んでしまったジルイはどうすることもできず、また地面で蠢いていたムカデも動きを止めてしまう。

人の体が単体でそのまま吹き飛ばされる、ここでなければ目にできない異様な光景だ。

ジルイの体は自由が利かない様だ、力の抜けた体が風に振り回されている。



10mほど飛んだ。ジルイはそのままなすすべもなく釣り上げられた魚のように地面にたたきつけられる。吹き上げられた石塊も同時に雨のように降り注ぐ。彼のすぐ横には大きく空いた穴があり、風の通った道がつながっていた。





ジルイが地面に打ち付けられた場所には、たけちゃんがすでに待ち構えていた。ジルイは倒れたまま動き出せない。おそらくだがもう防御術式は破壊されてしまっているのだろう。気は失っていなかったがピクリともしない。


たけちゃんがジルイのそばに立ち、話しかける。



「お前を直接殴れなかったのは残念だが、俺は無抵抗の相手をいたぶるのは好きじゃない。降参するんだな。」


ジルイの顔があらわになる。隠れていた顔の上半分は見たところ女性のようだった。髪で隠すのにはもったいないほどの大きな目だ。その顔は痛みにあえいでいるようには見えたが、まだ反抗の色は抜けきっていなかった。


観覧席にいるもの、立会人である上級生、そしてたけちゃん自身がもうこの戦闘は「終わった」ものだと思っていただろう。



だが、そうではなかった。



彼女の口が動く。小さく呟いている。我々の耳には届いていない。


彼女が両手をあげようとしている。これは降参の合図だろう。この場にいる全員がそう思っている。





次の瞬間




何の音沙汰もなしに、たけちゃんがばたりと倒れていた。

最後までお付き合いいただきありがとうございました!!



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指摘やダメ出しでも構いません!!というかむしろください!!



今後とも、『Exception for Equilibrium ~僕だけ<刀>って、何事ですか??~』をよろしくお願いします。

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