第二十九話 チアガール論議
最後までお付き合いください。
「さあ、今日は九十九闘技第一回戦!!!アンナ先生もみんなの活躍に期待しているからね!!!
知ってるとは思うけど、第一回戦は百人の選手が勢ぞろい、五十戦の決闘が予定されているよ。決闘は十戦ずつに時間が分けられているから、友達の応援なんかもできちゃうかも!!対戦相手が伏せられてるから聞きまわるのはタブーになってるけど、仲のいい友達くらいならしっかり聞いて応援してあげてね!!
特に須佐姉妹!!出れない分、みんなの可愛いチアリーダーとして張り切っちゃって!!!」
アンナ先生がいつものテンションである。グレとらくもん(彼女にそう呼んでと言われました。可愛いあだ名です。)が指さされ、クラスの生暖かい呆れ笑いが起きた。二人は転入生であるから出場のための必要単位が足りていない。そもそもらくもん(姉弟子)はまだアウターが届いていないので出場できないし、グレ(師匠)は出場しなくって良かったぜ、といったところだ。
グレの実力はクラスのみんなからはほとんど周知されていない。彼女が「生体鋼外殻なしでも敵ではないわ!!!よく見ておけ、友和!!!」と大見得を切って以来、変な意地を張っているのか魔法戦訓練でも生体鋼外殻を使わずに戦っていた。まあ、それでもそれなりに戦っていたが、「すげえ」の前に「なんだこいつ」が勝ってしまい、クラスのやつらから歯牙にもかけられていない。
指さされた二人はそれぞれ違う反応を示していた。クラスの顔がこちらに向く。
グレさんは予想通りといったところか、顔を真っ赤にして机とにらみ合いをしている。この人見知りを見ると、いつもの激情型殺戮マシーンの彼女の影が霞んでくる。いつもこんな風にしおらしかったらただの可愛い女の子なのに、と理想論を語ってはみるものの、そうはいかないのが現実の厳しさというものだ。彼女は髪をふんわりとまとめた結び目の低いツインテールで顔の両面を覆い隠し何かぼそぼそ唱え続けているが、なんなのかはわからない。おそらく自前のリラックスBGMか何かだろう。
一方、人間スピーカー兼人間照明器、あふれ出る明るいオーラ、我らのらくもんは笑顔を振りまきクラスの男子の期待に応えてくれていた。恐ろしい子、入学してまだ一週間もたっていないのに男子からの支持率が半端ではない。姉様とよく比較され、なぜこんなにも性格も外見も違う二人が姉妹それも双子なんだと、その裏に隠れるものを皆がそれぞれ妄想してひとつの胡散臭い都市伝説ができてしまっているほどだ。女は愛嬌、まったくその通りである。
二人がそれぞれの役割を忠実にこなしている中、クラスの雰囲気はやはり緊張感に満ち満ちている。現在午前10時、一番初めの決闘は正午スタートである。男子はらくもんを見て心の癒しを得てはいるものの、やはりその顔はどこか強張っていた。無論、僕も想定通りがちがちに緊張している。これまでの一か月ここにいる誰よりも修行を積んできた自覚はある、放課後毎日5時間のつらく厳しい修業、この短い人生のなかで一番濃い時間を過ごしていた。
だが、やはり負い目になるのは生体鋼外殻が覚醒していないことだ。どう考えても物凄いハンデだ。対生体鋼外殻戦を想定して修行をしていたのは事実だが、それでもまだ不安はある。
でもそうは言ってられない。僕の決闘は午後4時開始、一番最後の時間帯での試合になっていた。アンナ先生の九十九闘技開始宣言が終わる。まだまだ時間はある。今日の授業はすべて無くなり、クラスのみんなはそれぞれの時間を過ごす。生体鋼外殻の魔法術式を再調整したり、友達同士で食堂に行ったり、一人静かに集中したり。
僕も数少ない友達であるたけちゃんと教室で談笑していた。
「たけちゃん、決闘の場所はどこになったの?」
「ああ、14時開始の第二訓練場だ。」
アウターアカデミーは学校にしては広すぎるくらい広い。僕はそれに加えて修練場と本校舎を往復する生活を続けていたのでまだ足を踏み入れてない訓練場がたくさんある。荒野の第一、ビル群の第四に入ったことがあったが第二には行ったことがなかった。
「第二?行ったことないな。どんなところなの?」
「うーん、岩場そのものって感じだな。山岳地帯の戦闘を想定しているんじゃないか?共和国と帝国の国境は山脈だらけ、そのおかげで第一次魔法大戦ではユーラ大陸の四分の三程度の侵攻で抑えられたわけだし。もし戦争がまた始まればそこがまた激戦区になることは間違いないしな。」
「なるほど。じゃあ結構隠れる場所はありそうなんだね。まあたけちゃんの肉弾戦スタイルからしたら邪魔な物陰かもしれないけど。」
「それもそうだな!!まあいっちょかましてやりますよ。
ところで友和、お前は?」
「僕は16時開始の第四。ビルの多いところだね。」
「お、じゃあ時間的にも観戦はできそうだな。お前のボコボコになる姿は正直言って見たくないが、これも友人としての務め。しっかり目に焼き付けてやるよ。」
「うむ。わしも一緒に行こう。」
相変わらず息ぴったりのたけちゃんとモーさんはなぜかにやけている。語尾もなぜか笑みを含んでいる。なぜか、うん、そういうことにしておこう。
「ボコボコって負けること前提じゃん!!よく見ておけよ、絶対勝ってやる。」
「おお!すばらしい意気込みなのだ。」
グレだ。すっかりたけちゃんと仲良くなり、ようやく友達ができてた彼女は安息の地を求めてきたのか、僕たちの会話に参加した。後ろにはらくもんも一緒に従順な忠犬のようにひっついてきていた。
「お!チアリーダーの登場じゃないか!?
いいのか?ほかの男どもも須佐姉妹に応援してほしそうにこちらに熱い視線を送っているぞ」
「う、うるさいのだ、たけちゃん!!また教育しちゃうのだ!」
「え~!!お姉ちゃんがタンクトップミニスカなんか着たらパリパリに似合うと思うけどなァ。
……ふふふひひひ、おっと、まずい鼻血が……」
(イジョウなアイジョウ。くわばらくわばら……)
「おう、そうだよな!!らくもん!!
グレは奇行さえなければらくもん同様にめちゃくちゃ人気出ると思うぞ、まじで。見たいなあ、今日は無理だろうけど二回戦からは応援してほしいな~!絶対みんな大喜びだぜ。
……姉妹でチアガール、萌えだな、萌え。最高!!!!なあ、友和!?」
「……たけちゃん、その萌えに敏感なキャラ、顔つきとあまりにかけ離れているからアカデミーで封印するんじゃなかったの?」
「……いいや、もうこうしてはいられん。ここで語らずして何が萌え豚だ!!!!」
「まあ確かに、グレは小柄だけどスタイルいいし似合うとは思うけど……」
「だよなだよな!!!!想像するんだ!!!!
タンクトップから伸びる華奢で白い腕!ダンスの最中に見えるチラリズムの王道、細く薄いおなか、そしてなにより、そこにちょこんと座る控えめなへそ!!
丈の短いスカートから見えるのは、透明感抜群、肌理の細かいFU☆TO☆MO☆MO!!!」
「たけちゃんわかってるじゃん!!これは妹として負けてられん!!!!
その太ももから伸びるのは、程よい筋肉のついたふくらはぎ!下だけではない!!この手!!赤ちゃんのようなこの手!!!細く折れてしまいそうな儚い指先!!
そしてなりより、顔!!!ボコボコにキュートなこのお顔!!殺人級のご尊顔!!!
……ふう。」
「……らくもん。貴様のグレに対する愛、この武野航、しかと受け取った……
……そして、言わずともわかっているな?最後のリーサルウェポンを……」
「ああ、たけちゃん。口に出すのも惜しいくらいだ。だが、ここで言わずして、何が愛を語るものだ!何が妹だ!!!!」
「ああ、そうだよな、じゃあ逝くぞ。」
二人が真剣なまなざしを突き合わせる。そして同時に深呼吸をしたと思うと語りが再開された。
「控えめに布地に反抗する……」 「あまりにいじらしく主張する……」
「「胸!!そう!!!おっぱ……あへぼぐぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!」」
たけちゃんとらくもんの息ぴったりな熱弁は、師匠の参戦によってあっさり幕切れとなった。たけちゃんは大丈夫なのだろうか、数時間後に決闘が待っているというのに………
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今後とも、『Exception for Equilibrium ~僕だけ<刀>って、何事ですか??~』をよろしくお願いします。




