第二十八話 闘志の準備
最後までお付き合いください。
「師匠!!!どう見てもやりすぎですよ!!!口割らせるなんてレベルどうみても通り過ぎて、伸びちゃってますって!!!!」
僕は気絶した満身創痍の彼の横に立って、師匠に言い寄る。あの<霹靂爆砕>という新技ははどうみても殺す気満々といった攻撃だった。少し離れたところで見ていた僕と姉弟子のところまで爆発の衝撃波と皮膚を焼くような熱気が伝わっていた。あたりは焦げ付くようなにおいが充満しており、さっきまでそこそこ形を保っていたビルも、いまにも崩れてしまいそうなほどにボロボロだ。
魔術行使をして、決闘が終わってようやくやりすぎたことに気づいた師匠は、僕の詰問に対してばつの悪そうな態度をしている。人差し指をツンツン合わせ、口をあざとくとがらせ言い訳を始めた。
「こ、こいつが私を馬鹿にするのが悪いのだ……それも決闘の誓約でどうなっていもいいって約束したのだ……」
「それは形だけの口約束みたいなもので、実際に死ぬまではやらないんですよ!!鉄塊の当たり所がよかったからいいものの、下手したらコイツ死んでましたよ!!!」
「わが愛しのお姉ちゃんでも、これは擁護できないかも……私たちですら身の危険を感じたもん。」
「む、叢雲まで……。ひどいのだ……
こいつ、わたしのことをあんなに言っといてぽっくり気絶だなんて……
おい、おい起きろ!!貴様がすべて罪をかぶるのだぁ!!!」
力の抜け、何の抵抗も見せないロケット男の体を師匠がツンツンと足で小突く。白目をむいている彼はそれに応えることなど到底無理である。ゆさゆさと体だけが揺れ、なかなかに痛ましい光景だ。またも彼に対する同情が湧き出てきた僕は師匠を傍目に彼を担ぎ上げた。
「とりあえず、医務室まで彼を届けましょう。生体鋼外殻の緊急防御術式が展開したから気絶しているだけで目立った外傷はないけど……うん、大丈夫そうか。」
「ほ、ほら!私がそこまで馬鹿だと思うのか!?て、手加減はしっかりしたのだ!!」
「師匠!!!」
僕は今まで彼女に向けたことのない鋭い目つきで彼女をにらむ。これは、僕が個人的に怒っているわけではない。今後の師匠がこのような「傍若無人好き勝手暴走」をしないように弟子として須佐時雨師匠を諫めようとしているだけだ。師匠もいつものように偉そうな態度など出るはずもなく、小動物のようにびくりと体を震わせた。
「はぃいい!」
「……反省してください。」
「猛省だね、お姉ちゃん♪」
「……はい。なのだ。」
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医務室に着く。
アウターアカデミーは士官学校、さらに言えば肉弾戦を主とした戦闘訓練が毎日行われる学校である。そこらへんの病院よりも高性能な医療機器が多いからか、それに合わせ医務室もかなり広々とした空間だ。壁や器具は白で合わされ、清潔感が溢れ出ている。医務室にはいつ行っても一人は軍医が常駐しており、そこで懇切丁寧な治療を受けることができる。
気絶した彼を連れた我々四人が医務室に入ると、机の上で書類の整理をしていた女性の軍医が振り返る。そして、我々が、とくに彼のボロボロな姿が目に入ると口に手を当て驚いた。
「どうしたのよその子!?明日九十九闘技なのよ!!」
「いやあ、決闘をしていたら熱が入っちゃって、つい……」
「気絶しているじゃない!?それにユナイトスーツもびりびりじゃない!!」
「はあ……ほんとこの人がすいません。触診を簡単にしたんですけと打撲や骨折は見当たりませんでした。でも、一応……」
「もう!!やりすぎはだめよ!!」
「ははは!!お姉ちゃん怒られてやんのぉ。うんうん、あれは確かにやりすぎですなあ、ボギャンボギャンって爆発してたもん。」
「爆発!?」
「おい、叢雲、やめるのだ!!」
「まあいいわ……うん、外傷は表面的なものね。明日の闘技には間に合うんじゃないかしら。」
僕はほっと胸を撫でおろす。九十九闘技はアピールの場であり、次のステージに進むチャンスでもある。こんなやつでもそれに出れない、しかも額面では「小さな女の子」にのされて出れないとなればメンタルがズタボロになってしまったところであろう。僕だったら学校に行くのも嫌になっちゃいそうだ。
「この子、名前は?」
「そういや聞いてなかったですね。」
「そうなのだ、忘れてた。」
「名前も知らないままこんなボロボロにしたの!?」
「何も言えませんなのだ……」
そういえば一度名前を聞いたのになんだかうやむやになって、そのまま決闘に突入となっていたので彼の名前を知らなかった。心の中では金髪だとかロケット男だとか呼んでいたのだが、よくよく考えれば、といったところだ。
女医さんに促され僕の肩にもたれかかっていた彼を白いベッドに移す。女医さんが彼の胸元を少しだけ開くとそこにはドッグタグがある。入学時に配布された身元確認のためのものだ。それを首から外し彼女がそれに目を凝らす。彼女は三十歳ほどの見た目であるが、もう老眼が来ているのか、眼鏡をはずして顔を銀のプレートに近づけた。
「うーん……フォーゲル・アンディーノ君ね。アンディーノ?聞いたことあるわね……」
「ご存じなんですか?」
「ええ、確か……イルバーン、クリフォードと並んだ竜種の名家だったと思うわ。
5年くらい前まで翼竜の三家なんて言われてたけど何かがあって没落したんだと聞いたの。……そう、そうだわ。ベネディクト・アンディーノ大佐だ。彼はなぜか軍から除名されてそこから没落の始まり、もしかしてこの子……」
「息子……?かもしれないということなのだ?」
「ええ、もしかしたら。風のうわさだから詳しくはわからないけどね。」
すると、彼が目を開ける。意識は朦朧としているはずなのにこの話が耳に入っていたようだ。目もしっかりと開けないまま彼がちぎれてしまいそうな小さな声で話を始めた。
「てめえら勝手に何ごちゃごちゃ言ってんだ………」
「……お前、名家の息子なのだな?だから、アリス=イルバーンにも突っかかって……」
彼が深くため息をついた。こうなってはしょうがなかったのだろう、彼自身について初めて彼が我々に語ってくれた。
「そうだよ、ベネディクト・アンディーノの息子だ。
そしてその噂ってのも真実だ。親父は言われなく軍から追放された。」
「なんで、どうしてそんなことが?」
「俺だって知らねえよ。
……あのかっけえ親父が何したっていうんだ。どうせ下らねえ理由で厄介払いされたんだ。
……俺は強くなって親父を嵌めたやつをぶっ飛ばす。そしてそのふざけた悪評を払しょくしてやる。アンディーノ家がここにいることを証明するんだ。」
「でもアリスさんは関係ないんじゃ……」
「いいや、あいつはライバルだ。そしてアンディーノ家のライバルでもある。
あいつに本気でぶつかって勝つ。それが初っ端の初っ端、第一段階だ。
………なのに、なのに!!!
俺はまだまだ弱っちいままだ!!!ライバルのあいつが本気出来たら負けちまうかもしれねぇ、心の中でそう思ってる自分がいるんだよ……」
彼が心中を吐露した。それはどうにも我慢ならずに、彼のプライドすら関係なく吐き出されていた。さっきまでの偉そうな態度はそこにはもうなかった。ただただ、自分を戒め、自分の無力さを責め立てる一人の男になっていた。
我々はかける言葉もない。ただただその切迫した告白に耳を貸しているだけであった。彼がなぜ胸中をさらけ出そうと思ったのかわからなかったが、その言葉には同情をも許さないような差し迫るものがある。
彼は行ってしまったことを深く後悔するように、両目を手で覆う。ため息が出る。
「はあ、だっせぇな。チビに負けてこのありさま。さらにはどこの馬の骨かもわからねえ奴らに泣き言言っちまうなんてよ。
……おまえ、名前は?」
「須佐時雨だ。断じてチビではないのだ!」
「そうか、須佐か……道理で強えわけだ。
……でも忘れるな、俺はてめえもぶっ飛ばす。九十九闘技、覚悟しておけよな。」
師匠がにやける。
「ハッ!!そんなボロボロで言われても説得力ないのだ。しかも私は単位が足りないから闘技には出れないし。
……だが気に入った。そんな古臭い口約束も悪くはないのだ。……よし、こうしよう。お前がもし我がバカ弟子に勝てたら、その勝負、快く承るのだ。」
「……え?」
「じゃあ、その日は大分近えだろうな……おいてめえ!名前は!?」
「……知里友和。」
「じゃあ、一足先に覚悟しとけ、知里。九十九闘技で当たらねえことを祈っとくんだな。」
師匠の方を振り向く。彼女は満面の笑みで親指を立てていた。
勝手なセッティングをされ、更にその相手はアウターアカデミーでも「かなり強い」に入る部類のやつ。普段なら、師匠に対して喚きたてどうにかないことにしようと抗議するところだろう。
だが、多少の恐怖とは別に心躍るものがあった。いやな奴だと思っていたが、それは違う、いやになるほど熱いやつだったのだ。彼に宿る形ない闘志は本物だと、直観で感じた。その純粋な熱さは男ならば誰でも持ち合わせたいと願っているものだと思う。一方的な戦いになったとしても、その泥臭さに触れてみたい、そんな感情がふつふつと煮えたぎる。
拳に力が入る、そのありきたりな熱い言葉に血液が迸る。僕にはない熱血が体に流れ込んできているようだ。
少し笑って、返答した。
「ああ、僕も楽しみにしてる。」
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