第二十六話 手ぬるい尋問
最後までお付き合いください。
我々三人からの手厚い「くすぐり三点攻め」を受けた金髪ツンツンの彼は、苦汁をなめる舌も、割ろうとする口もしびれているからかなかなかに堕ちなかった。ここまで耐えられると故郷の話でもしてかつ丼を差し出すというのが定番らしいが、そこまで丁寧でなくともいつか口を割ると思い、われわれは果てしなく尋問を続けた。
「ほら、ほら、吐くのだァ!!!ここから逃れたくば事情を説明するのだ!!!市内引き回しになりたいのか!!!」
「‥‥‥‥あ、アー、アー!ほら!!出た!!声出るようになったからやめろッ!!!!」
「お、ホシがやっと口を割る気になったですぜ、叢雲警部!!かつ丼要らなかったらしいですぜ!!」
「うむ、ではボンボン話してもらうぜ!!!
さあ!!ケツの穴からきれいさっぱり、あることないこと全部出しちまいな!!これからムショで散々使うことになるからな!!!!フハハハハハ!!!!」
「なんなんだてめえら!!!いつから警察ごっこが始まったんだ!!てかいろいろ世界観がごちゃ混ぜだぞ、せめて統一しろ!!!」
陸にあげられた魚のようになりながら彼がわめきたてる。何にも押さえつけられていないのに立ち上がれずに体全体をバタバタ動かしていた。こう言っちゃなんだが「無様」という言葉が一番ふさわしいだろう。人の必死になる姿というのはこんなにも面白いものなのかと、新たな道に歩みを進めそうになるのをぐっとこらえ、ふざけた雰囲気から一転、まじめに事情を聞き出すことにした。
僕が先頭を切って問い質す。
「で、君、名前は?
こんな時間に爆走人間ボウリングなんかしちゃいけないじゃない?それにアリスさんのことも。」
「う、うるせぇ!!てめえらが道の真ん中で堂々立っているのが悪いんだろうが!!それにアリスのことは関係ねえだろ!!」
「啖呵切るのもいいけどそろそろ自分の現状に目を向けないと。ね?
まあ僕たちのことはわざとじゃないから大目に見てあげるけど、アリスさんのは完全に意図的だったよね?」
「そうだよ!そうだよ!あれはさすがにギャンギャンにやられても文句言えないよ!!」
「のだ、のだ。」
姉弟子も、それに合わせうなずく師匠も彼に迫る。彼は弱いところを突かれ少し挙動不審な態度をとってはいるが、見ての通り多少高慢な部分がある。少しのかわいらしい動揺が終わるとすぐに胸を張り開き直る。体も順調に機能を回復しているようだ。
「別にてめえらには関係ないだろ!!」
「いいや、関係あるね。アリスさんにはたんまり貸しを作っているんだ。このまま『はいそうですか、ではおかえりください』とは引き下がれなくてね。」
「そうなのだ。聞いた話、アリス=イルバーンのおかげで少しの戦力と私の相棒があそこに駆けつけてくれたのだ。あの救援がなかったら今頃どうなっているか……」
「少しの戦力……」
「お姉ちゃん、そのことは……」
「あ、しまった!……コホン、とにかく関係あるのだ!別に友達でも何でもないが、貸しを作ったままでは気分が悪い。」
彼がおもむろに、重そうな体を起こす。我々があれやこれや騒ぎ立てているうちに体を動かせるようになったらしい。生体鋼外殻装着状態だからか回復も早く済んだのだろう。首を左右に一回ずつ曲げコキコキと音が鳴るくらいにストレッチをする。アスファルトの上で固まった体をほぐし終えると、彼はにやりと笑った。
「俺は別にしゃべるつもりはねえよ。ただどうしてもって首を突っ込むなら力ずくで聞き出すんだな。
空を飛べる俺にお前らが勝てるとでも思ってるのか?さっきは不覚を取ったが、小っちゃい女に、そっちは噂の生体鋼外殻覚醒してねえ奴、更には生体鋼外殻すら持ってなさそうなやつだろ?
黙って道を開けたほうがいいと思うがな。」
「はぁ……」
僕はどうしようもなくため息が出てしまう。やってしまった。師匠入学以来三人目の被害者誕生である、このままでは被害者の会結成も近いかもしれない。明らかに様子が変わっていることは振り向かずともわかっている。というかもう振り向いたらあのトラウマが蘇ってしまいそうで安易には振り向きたくない。
師匠がゆっくりと口を開いた。その声は震えている。
「貴様…………今私のこと何と言ったのだ?」
「あ?『小っちゃい女』だけど。事実じゃねえか。」
(まずいまずいまずいまずいまずい!!!!!)
「そうか、そうか。ふふ……ふははははははは!!!!
ふぅ、うんうん。
ひひ……ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒhhhhhh!!!!!!!!」
「お、お姉ちゃんが壊れた!!!知里君、どうしたのこれ!?」
「まずい!!おい金髪、今すぐ謝れ!!なんか変な笑い方始めてるし!!」
「ああ?なんで俺が……」
「ふん……」
師匠が急に笑うのをやめる。底気味の悪い閑寂にふさわしい言葉といえば、もちろん「嵐の前の静けさ」というやつだ。彼女は超手に握る刀の柄をひねりつぶしてしまうのではないかというほどに、手の甲に血管を浮かべてこぶしに力を入れていた。それが目に見えてわかる。
そして、師匠が静けさを少しづつ破るように、ゆっくり話し始めた。
「わかった。わかったのだ。だがたけちゃんの時の反省もある。」
「たけちゃん?誰だそれ?」
(君がこれからたどり着く末路に先に逝ってしまったものだよ……)
僕は正直物凄くビビっていて、話に入ろうとは思えない。さらに言えば、あの人間スピーカーのようにうるさい姉弟子ですらその雰囲気に気圧されているのか、一言もしゃべろうとはしていなかった。
なのにこの馬鹿野郎、師匠の尋常ならざる雰囲気にすら気づけていない。空気は読みませんってタイプだろうが、鈍感にもほどがある。女の子に愛想着かれてしまっては、男の名折れではないか。
「決闘がいいのだ。だが、防御術式は最低限。戦闘不能または降参で終了とするのだ。お前はボコボコかつ発声がしやすいように口から喉にかけて大手術が必要なのだ。さらに言えば私に対する不敬を詫びるための脳も作り替えなくては。」
(ああ、アーメン。)
「おお、ちっちぇえ癖に態度はデケえな!!さてどこまでやれるのかな、お嬢ちゃん?」
(ああ、南無三。)
「ああ、そうさそうさ。今のうちにきける口はきいておくのだ。よし、友和。立会人をやるのだ。防御術式は各自展開。お前が展開を確認するのだ。」
(ああ、……え?)
「……師匠?まさか本気じゃな……」
「キィィ!!!」
「ひっっ!!」
彼女が動物の威嚇のように僕を促す。このままでは矛先の一部が僕に向いてしまうかもしれない。とばっちりを受けるのはまっぴらごめんだったので、彼の今後の健勝を祈りながら立ち合いをすることにした。
「……じゃあ、決闘の立会人を務めさせていただくのはわたくし、知里友和です。
この決闘中に起きるすべての戦闘行為は合法のものとなり、どのような結果もすべて自己責任になります。
では、綯総の神に、愛する国家に、誓いを。」
「誓いを。」 「誓いを。」
「では。戦闘開始!!!」
最後までお付き合いいただきありがとうございました!!
気に入っていただいた方は、感想や☆をいただけると、とてもうれしいです。
続きが気になるという方!!ブックマークに登録していただけると、とてもうれしいです。
これからの執筆活動の一助にさせていただきます。
指摘やダメ出しでも構いません!!というかむしろください!!
今後とも、『Exception for Equilibrium ~僕だけ<刀>って、何事ですか??~』をよろしくお願いします。




