第二十五話 実戦訓練
最後までお付き合いください。
九十九闘技まであと一日となった。
本日17時、ついに決闘が行われる場所が生体鋼外殻用インカムを通じて通達された。そう、この九十九闘技はトーナメント戦ではあるが、相手選手の情報は闘技場に入るまでわからないというなんとも奇抜な形式をとっている。生徒全員をしらみつぶしに当たればいつか対戦相手に会えるかもしれないが、そんな足労をする輩はいない。これはエンターテインメント性を重要視しているのか、遭遇戦を想定しての訓練的な要素を含有しているのかわからないが、実際にこれに参加する側になってみればなかなかに厳しいルールである。
そして放課後、僕たちはいつも通り修練場で、とはいかなかった。そう、我々がいるのは第四訓練場、そこらじゅうビルが建っている訓練場だ。そして一回戦の舞台がここになったのだ。普段なら師匠の監視のもとエセ剣豪君を使って修行をしているのだが、今日は何か趣向が違うらしい。
訓練場について早々、師匠が腰に手を当てふんぞり返っている。その横に目をやれば、ふざけて隣でそのまねをする姉弟子が立っている。よくよく見てみれば、姉弟子の方が身長が少し高い。なんだかおもしろい構図だなという曖昧な所感を口に含みながら、彼女らの話を聞くことにした。
「よし、バカ弟子!!今日は何すると思うのだ!?」
「ええ……学校見学ですかね?初めて来たし。」
「ふふふ!知里君はもしかしておバカさんなの?お姉ちゃん?」
「ああ、だからわざわざ弟子の前に二文字つけているのだ。
もう一回だけチャンスをやろう。次ふざけたらここの外周20周はしてもらうのだ!!」
「師匠、僕もそこまで馬鹿ではないですよ。いやな予感というか確信があるのですが口に出したくないです、はい。ほら、漫画とかでめちゃくちゃ強い敵の名前は口に出すのも憚られる的な!」
「早く言わないとお姉ちゃんポコポコに怒っちゃうよ?」
姉弟子の無邪気な指摘を聞き、師匠のほうを向く。やはり、我慢の限界なのかその視線は冷たい。さすがにこれは忌むべき言葉でも口に出さなくてはと思い、一つため息をする。
「はぁ、師匠が生体鋼外殻を装着して実戦訓練、ですか?」
「正解なのだ!!!じゃあさっそく……」
「いやいやいやいや!!!さすがに師匠!!あの雷神みたいなモードになったらさすがにやばいですよ!!
攻撃したら感電しますよ!!骨が透けちゃうやつですよ!!一日前なのに早速リタイアしちゃいますよ!!」
「なに?霊獣の霊魂なのだから、神にはなれないのだ?」
「ふふふ!知里君はもしかしておバ……」
「そうじゃなくて!!…………はぁ、まあ一戦やってみましょうか?」
二人の華麗な勘違いに翻弄される。相乗効果というやつらしく、二人そろえば彼女たちが示す道から外れることは困難を極めそうだ。話が勝手にあちらこちらへ迷子になってしまう。僕はもう反論をしてもどうにもならないことを悟り、あきらめをつけた。さすがの師匠でも生身相手には手加減というものをしてくれるだろう。そう思って泣く泣く承諾したのだ。
あくまで泣く泣くである。
「おお、やる気なのだ!!じゃあ、小夜、展開だ!!」
「はい、時雨様。」
師匠が展開をする。あのおどろおどろしいシルエットからその姿が明らかになった。厚底鋼鉄製ブーツによって20㎝は身長が伸びている師匠はそれだけで威圧感マシマシである。背部から後光が差し、いつか命名した修羅という別名がぴったりな状態になっている。脳波感知センサーの猫耳が二本角に見えてきちゃうぐらいだ。
「よし!!定番の最終試験といったところなのだ。
私とやっちまえばもう安心!!どんな奴が来ても私よりは弱いのだ!!」
「そりゃそうだ!!てかだからこそやばいって!!」
「よし、防御術式発動、決闘開始。文句は言わず、さあやるのだ!!ドーナツの電力は死なない程度にしてあるのだ!!」
そうして、勝ち目のない戦いが始まった。
僕がまだ心の準備に手間取っているうちに、四つの<ドーナツ型>が隊列を組んだように横一列で飛んでくる。すでに放電を開始していて、雷がそのまま形を保って迫ってきている。前が見えないほどの光が前方を覆っていて、師匠の姿が視認できない。
(あそこだ!)
隊列に隙間があった。後ろに下がっても逃げ場はなかったのでその隙間を前進して抜けることで、難を逃れようとした。だが、追撃するように<ドーナツ型>が急旋回して僕の背後から鳥の鳴くような高音をあげて迫る。
しかし前方。真の「難」というのはそこで待ち構え、笑いながら双刀を持つ師匠だった。挟み撃ちになり、横へと避けるスペースがない僕はそのまま師匠に突っ込むしかない。仁王立ちの師匠。その顔を見ればやはり鬼の形相(笑顔)といった様子、可愛い猫耳をつけている可愛い女の子っていうメルヘンな発想は浮かんでこないだろう。
「あはは!わざと作った隙間に入ってくるなど愚策も愚策!!!叩きのめしてくれるのだ!!」
待ち伏せていた師匠は圧倒的戦力差によって生まれる勝者の享楽に身をよじらせ、二本の剣を思い切り振り上げている。ぼくは自分の足を無理やり踏み止め、体をまたも無理やりな動きでねじりながらその斬撃に備える。アウターを頭上に構えた。
「そして!!」
ガキン!!!!
「不用心に魔術を帯びている剣と鍔迫り合いなぞしたら感電死するのだ!!!!!
フハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」
(……え?さすがにそこまで……しないよね?)
「<雷法・刃帯電>!!!!!」
「ぼへええええええええええ!!!!!!」
「決闘終了。知里友和の防御術式の全損を確認しました。」
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「‥‥‥‥‥‥‥い…おい!!起きるのだ!!!」
「……ハッ!」
暗い昏倒の世界から戻る。視界がチカチカと点滅して、焦点が定まらない。
「いやぁ、すまなかったのだ!!ちょっとびりびりしすぎたのだ。大丈夫か?」
「お姉ちゃんやりすぎだよぉ!!!体から変な煙がバスバス出てたんだよ!!」
「ああ、うん……。死んでなくてよかったです。ええ、本当に。」
神のご加護に感謝しつつ、僕はしびれた体をどうにか起こす。
体で覚える系修行だと思っていたが、ここまでしみ込んでしまうとなかなか忘れなさそうだ。簡単なひっかけ、不用心な防御、これでは「採血と輸血」の権利にはまだまだ遠いことを痛感してしまう。
<観劇>は防御の技術、綿密な観察によって相手の挙動の癖やパターンを読み、隙をつくことを主とするものだ。それを活かせないのは言うまでもなくさっきのように一撃でやられてしまうこと。そう、単純な剣戟だけに注視してしまうと、このような簡単なトラップにも引っかかってしまうのだ。
「やっぱり、戦闘慣れしないとだめですね。アンドレアスにはなぜか勝てましたけど……」
「そうなのだ。生体鋼外殻を使った戦闘は、選択肢が大幅に広がるのだ。単純な剣の交わりとはわけが違う。私みたいに複数の魔法を同時展開できる輩は少ないだろうが、やはり魔法戦闘では広い視点を持たないとだめなのだ!」
「はい、そうっすね。……やっぱりもう一回手合わせお願いします!!」
「よし!では行くぞ!!!」
……三時間後。
僕の体はすでにズタボロだった。師匠も三時間の間攻撃の手を緩めることはなく、彼女に対して攻勢に出られたのは五回にも満たないだろう。だが、決闘の成果は確実に、ただの修業とは違い、即効性のある経験として蓄積された。
「……はぁ……はぁ……やっぱ一撃も当てられないなぁ。」
「フハハ!!格の違いってやつだな!!まあ最後の方は動きがよくなってきていたのだ。これなら並みの機動士ぐらいなら、余裕で対処できるのだ。そしたら攻撃力のないお前でも正気が見えてくるのだ。」
「まあ、明日になってみないとわかりませんね。とりあえず頑張ってみます。」
「知里君ならいける!!お姉ちゃんの攻撃も少しづつ見切れるようになっていたし!!」
「姉弟子、ありがとうございます。姉弟子も早く生体鋼外殻が届くといいっすね。手合わせお願いするかもしれません。」
「おうおう、強気だねえ!!その意気や良し、姉弟子が相手に、…………ん?なんか来てるよ?」
姉弟子が途中で話すのをやめると、広い道路の先を指さす。僕と師匠がそれに反応するように目を向けるとすさまじい勢いでこちらに向かってくる「何か」が確認された。豪速の飛翔体は高度を変えることなく迫る。このままだと激突コースである。
「何か」が何か叫んでいる。よく聞き取れないが、しゃべるということは人であることは確かだろう。よくよく目を凝らしてみればなかなかに焦っている様子だ。僕らも急いでそのコースから逃げようとするが、そんな暇はなさそうだ。師匠が不穏に動き始めた。その様子を見た僕はこちらの心配よりも、あっちを心配してしまった。
二基のドーナツ型が我々の前方に出る。
「<雷法・白雷壁>。」
(ああ、かわいそうに……)
「ぎゃぎゃがやがやああぎゃあああああああああああ!!!!」
激突した彼は雷のクッションで速度をなくしその場で宙に浮きながら電撃に悶えている。クッションというより、アウターの鋼を利用して、磁力で強制的にとどめているといったほうが正確そうだ。まるで、僕と師匠の最初の手合わせを客観的に見ているようだった。
(ああ、こんな風に人って感電するんだなァ……)
ばたん。
全身がしびれた彼は、その場でなすすべもなく地面に落ちた。ぴくぴくと痙攣する彼を見るのは何とも痛ましい。同情。当事者同士、同じ傷をなめるように僕はその痛みを思う存分に共感してやることにした。
「あの~大丈夫ですか?」
「うぇ、うぇ、うぇ!」
「舌までしびれちゃったんですか?ああ、なんて惨いことを。僕の師匠がすみません。」
「何勝手に謝っているのだ!!そいつがいきなり突っ込んでくるのが悪いのだ。
……ていうか、そいつ何か見覚えないか?」
「ああ!お姉ちゃん!この人おととい中庭で決闘やってた人だよ。この金髪がチャンチャン立ってる人だから間違いない!!」
「ああ、そんなことあったな!!!探り入れるって言ってたけど、闘技前の熱にほだされてなにもしてなかったですね。」
金髪が顔をゆがめながら何かを言っているが、耳を貸すだけ無駄、言語がわからないとか声が聞こえないとかのレベルではなく、彼は今口がきけないのである。声に意味を載せられないのである。ジェスチャー?いやいや、体中がしびれているのだ。
「うぇ!うぇうぇうぇえええうぇうぇ!!!!」
「ちょうどいいのだ。こいつを尋問すれば事情はきれいさっぱりまるわかりなのだ。」
「……そうか、女の子に聞き質すよりかは男をいたぶるほうがいいですね。なんだか偉そうにしてたし、さっきまでの同情はどこへやら……」
「ええ~ひどくない?かわいそうだよー!!」
「いいや、こいつは二度も無抵抗な人間に手を出したのだ。しかるべき罰を!」
「しかるべき罰を!!」
「そっかぁ、これはバキバキに正当な行為なんだね♪お姉ちゃんも言ってることだし。
しかるべき罰を!!!」
「うぇ?」
「「「ふへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」」」
「うぇ!?うぇうぇうぇうぇううぇえええええ!!!!!!」
最後までお付き合いいただきありがとうございました!!
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今後とも、『Exception for Equilibrium ~僕だけ<刀>って、何事ですか??~』をよろしくお願いします。




