幕間二十・二十一 悲劇も喜劇もない日常へ
最後までお付き合いください。
叢雲が崩れた教会の前で目を開ける。口が勝手に動いたかのように彼女は時雨を呼んでいた。
夢の中でしゃべっていたことをそのままベッドの上で口走ってしまうように、ゆっくりかすれた声で呼んでいた。
「お姉ちゃん……」
「叢雲!!ああ、叢雲なんだな……よかった、よがったぁぁ……」
横たわる叢雲の頬に涙が落ちる。彼女の顔の上で、ぐしゃぐしゃになっている時雨の涙だ。
「お姉ちゃん、泣かないで……」
「だってぇ……」
「ほら……『約束』。守ってくれたんでしょ?ありがとうお姉ちゃん。」
叢雲が首に下げた銀十字を握る。『約束の証』だ。
一方、時雨は神に散々愛想をつかしていた。
孤児院で毎日のように祈りをささげた。監獄の中で祈り、祈り、祈り続けた。
あの時銀十字に込めた想いは無論、「自分は本当に助けられる」という確信ではなかった。神の加護を与えてほしかったのだ。ただそれだけだったのだ。
そして、『約束』は一日もたたないうちに破り捨てられ、最後の最後に無残にも叢雲は奪われた。
これで信じていられるだろうか?
しかし、『約束』は違う形で果たされた。
「私はね……信じていたんだ。絶対、絶対にお姉ちゃんは助けてくれるんだって。これをくれた時からずっと信じてたんだ。お姉ちゃんの記憶が流れ込んできたとき、あの暗い中で全部思い出したの。ドミノ倒しみたいにお姉ちゃんの記憶から全部がわかったんだよ。楽しい記憶も、悲しい記憶も。全部全部。
暗い中で見ていた景色も色がついたみたいに全部分かった。私の体でいろいろひどいことしたんだね、ごめんなさい。
でもね、『約束』通り、私の全部をあそこから連れ出してくれた。やっぱりすごいや。ありがとう、お姉ちゃん。」
叢雲は信じていた。『お姉ちゃん』が助けてくれるんだと。暗い中で闇に溶けてしまうように自我を失っていた叢雲に残された最後の光がこの十字架だった。無意識のうちに身に付け、プーカの意識で支配されていたはずの体が勝手に、プーカの意向のように動き、毎日毎日後生大事に首から下げていたのだ。
そしてその十字架に守られた叢雲の願いは「お姉ちゃんが助けてくれる」、シンプルなものだ。
交錯する想いが一つの収束へ。また次のステップへ進もうとしていた。
「このワンピース、とってもかわいいでしょ?」
「ああ、お似合いなのだ。」
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「……はい、そうです。アンドレアスを拘束、排出された生体鋼外殻は意識混濁、こちらも身動き取れないようにしました。叢雲さん以外の被験者全員は脈や呼吸を調べましたが、完全に死亡していると思われます。人体の構造を利用した兵器だったようです。」
「そうか、本当に痛ましいな。丁寧に扱ってくれ。」
「はい、二人には見せないようにしたいと思います。兵器のコントローラーは手に入れ、目につかないところへ移動させておきました。」
「ありがとう友和。すまなかったな、娘が迷惑をかけた。俺もそちらに向かうから、少し待っていてくれ。
ところでケガはないか?戦闘には……」
「僕と時雨さん両方が交戦をしました。どちらも軽症です。むしろ時雨さんに至ってはほぼ無傷ですよ。」
「そうか、あの子のことだからそうは負けないとは思っていたが。」
「わかってはいましたが相当強かったんですね。駆けつけた時にはほとんど終わってましたけど、はたから見た分でも震え上がるような威圧感でした。」
「ああ、あの子は強さだけでいえば最も六大竜機士に近いアカデミー生といっていいだろうな。まあ生体鋼外殻が竜種じゃないから無理だが。」
「やっぱり竜機士じゃないといけないんですね。」
「あれは帝国に対するプロパガンダ的な意味合いが強いからな。軍の機密の問題なのか詳細は公表されていないが竜機士っていう字面だけで国民は心強いんだろうな。まあ竜種が幻獣化しやすいのは事実だし、選ばれているのはみんなすごいやつらばかりだけどな。」
「お知り合いで?」
「知り合いも何も、俺がそうだからな。」
「……え?」
「あれ?言ってなかったっけ?てかこれ言っちゃいけないのか!!しまった!!!」
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」
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「師匠!!!轟さんに連絡しときましたよ!!」
「ああ、バカ弟子か……って違う!!!」
「おっとぉ、あれぇ?もう師弟関係復活ですかぁ??」
「ち、違うのだ!!さっきのは癖というかなんというか……ってお前が『師匠』って呼ぶからなのだ!!もう他人なのだ!!」
「へぇ?必死にここまで駆け付けたのに?ひどい人だなぁ??」
「……まあ、来てくれたのは素直に……ってなんてこと言わせるのだ!!!お前、またもや再教育が必要なのか!!!!!!!」
「止めてください!!……とでもいうと思ったんですかぁ?あのですね、この国には暴行罪というちゃんと刑罰に値する犯罪が用意されているんですよ。もう師匠じゃないならただの暴力で訴えてもいいんですよ?」
「っこ、こやつ、いつも以上に悪知恵を働かせているのだ!どう考えても私が悪者になってしまうように仕向けられているのだ!!!!」
「ふふふ、これでもうあの残虐非道の仕打ちから正当な理由をつけて逃れられるのか、ふふふ、ふはははははははははは!!!!!こんなに嬉しいことはない!!!!!」
「く、くぅ……どうにかして、どうにかして合法的にこいつを殴る方法を……」
「って、そこまでして殴りたいのかい!!!どこからその有り余るエネルギーが生まれてくるの!?!?もう恐怖なんか通り越して感心しちゃうよ!!!!」
「……そうか!!正当防衛!!そうだ、友和!!私に切りかかるのだ!!!」
「なんでわざわざこちらから殴られに行かないといけないんですか!!!」
「そりゃもう師匠じゃないからなのだ!!!」
「……というか、まじめな話。なんであんなこと言ったんです?理由だけでも教えてください。」
「……急にど、どうしたのだ!!!さあ早く切りかかるのだ。この爆発しそうな感情にはけ口を……」
「師匠!!!」
「…………はぁ、しょうがないのだ。簡単に言えば私と同じところに来てしまうからだ。」
「え?」
「私が思うに、おまえの攻撃の『トリガー』とでもいうべきものは『憎しみ』などのネガティブな感情だ。魔獣を討伐する、という前に『憎むべき』といったのだ。何故かわからないがその言葉を聞いた時物凄く嫌な予感がしたのだ。おそらく、他人に対してはじめて殺そうなどと思った日には、その次はトリガーも軽くなっていくだろう、そう思ったのだ。
……おそらくもう、あの抑制とやらはなくなっているだろうな。」
「じゃあ……」
「そうだ、私と同じ場所に来てしまう、他人を憎み剣を修行する。いつか私の影響で無意識のうちでも、私のように汚れた理由で剣を修行することになると思ったのだ。だから……」
「じゃあもう師弟関係復活じゃないですか!!!なにを迷っているんですか?」
「……え?」
「もうすでに同じ穴の狢ってことですよね?確かにアンドレアスには殺したいほど憐憫を覚えましたし、その抑制が取れた感覚は確かにしました。
でも汚れた理由とは言いますけど、そんなことないと思うんです。人を想って人を憎む。当たり前の感情ですよ。僕も師匠の事情を知って、彼を憎んだんですから。ネガティブだからって汚いわけじゃないですよ。」
「違うのだ!!あんな心境に支配されたらそれこそ……」
「いいや、もっと言ってしまえばその理由はきれいですよ。むしろ師匠の事情を知った上で足がすくんでいた僕の心境の方がよっぽど忌むべき感情です。……そう、実感しました。」
「……きれい?あれが……?」
「はい、きれいですよ。尊いとすら思います。」
「…………そっか、そっかぁ。……そう言ってくれるなんて思ってもみなかった。嬉しい、嬉しいのだ……」
「……だから、時雨さん。また師匠になって腰の引けた僕に<刀戯>を教えてください。
……お願いです。強くなりたいんです!!!!」
「…………うん。わかった。」
「……やった。やったああああああああああ!!!!!」
「か、覚悟するのだ!!!これからはもっと厳しくしてやるのだ!!!!ばかでしぃ!!!」
「はい、師匠!!!」
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今後とも、『Exception for Equilibrium ~僕だけ<刀>って、何事ですか??~』をよろしくお願いします。




