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Exception for Equilibrium ~僕だけ<刀>って、何事ですか??~  作者: 艸田見 寛
第二章 憎むべき過去 [半人半獣編]
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第十九話 失敗作

最後までお付き合いください。

 

 小夜は広大な実験場を全速力で駆けていた。教会の土地はそこまで広いものではないのにも関わらず、現代的な科学の空間はおかしいほどに先があった。小夜の横には人がすっぽり入るようなカプセルがそこかしこにある。中は培養液で満たされ、まだそこに人の姿はなかったがいやな予感というものがヒシヒシと小夜の肌を突き刺していた。


 小夜は視線をどうしようもなくそのカプセルの集合に向けざるを得ない。これから起きる巨悪の実験の元凶になりえる機具、その隙間を縫うように走っている。すると、その前方から大きな破壊音が小夜の耳に入り、ようやくその実験器具から目を離し音源に対して目を据えた。


「そうか……もう来たのか?しかも殻獣態シェルビーストでのご登場とは!」


『叢雲』であった。



 彼女は年相応のファッション、白いワンピースに身を包んでいるが、その口から出る言葉の数々は少女のようには到底思えない。腰に手を当て仁王立ちをしている彼女は、そのショートカットの茶髪を振り上げ、見下げるように小夜を睨んでいる。その顔は笑顔に満ちているが、それは好意などではない、ただ単にこれから起きる戦闘を心待ちにしていたような、期待に満ちた笑顔だ。


「そこにいるのは……やはり叢雲様じゃないようですね。中身のあなたのことはその姿では知らないのですが。


 そのしゃべり方、いやでも聞き覚えがありますね。あの汚らしい黒山羊といったところですか?」


「汚らしい!!ハハ!!ご名答ではあるが、それは余計だなァ!!


 そうだ、俺の名は『プーカ』!かわいらしい名前だろう!?」


「プーカ……ケルト系の霊獣ですか。黒山羊の妖精、地域によっては悪魔ともいわれている。そうですか、悪魔の部分が色濃く反映されてしまったのですね。


 ただのアウター風情が霊獣の名をそのまま語るなど……高慢にもほどがありますよ。我々の魂は人間の信心が生んだものです。ただの辺縁精神体がなぜそこまで傲慢になれるのですか?」



「傲慢で結構だ!!なによりお高くとどまっているあんたにだけは言われたくなかったけどねぇ!!


 なぁ!?『白虎』よぉ!!」



 戦闘に入る空気が、プーカの叫びとともに迫る。


 プーカは体をゴキゴキと捻じ曲げ、上半身を力無くだらんと曲げた。すると腰の筋肉が激しく波打ち、その借り物の体から黒山羊の後ろ脚が延びる。ただただ、黒山羊の後ろ脚をそのまま取り付けたようなあまりにも生々しいその融合体はさらに変態を続ける。


 少女の背中が機械的に音をたてて開く。肌の下にある金属がその背中から広がり全身を覆いつくした。展開がすべて終わると、その手のうちにはやけに大きい三本の刃を持つ槍が握られている。それはピッチフォークのような様相を呈しているが、そこから延びる歯が鋭利な刃物に成り代わっている。




「そうか、そうだよなぁ!?小夜よぉ!?今から戦闘開始だぁ!!!」




 プーカが彼女に向かって一直線に突っ込む。目の前の実験器具は槍によって問題なく薙ぎ払われ、その突進は前方に展開される魔法陣によって疾風を纏っている。足音が聞こえない。地面から少し浮いたままのプーカは周り一帯を蹴散らしていた。破壊音が、現代的な科学の破片があたり一帯にまき散る。


 小夜は装甲に身を包む半人半獣の戦闘狂を見て、呆れたように、暴れる子供をなだめるような口ぶりで言った。


「いえ、ごめんなさいね。今はいち早く時雨様の元に行ってご褒美をもらわないといけないんです。」


 小夜がおもむろに口を開けた。プーカに見せつけるように大きく開いたその口の中には、こぶし大の円筒が入っている。一直線に突っ込むプーカは足を止めることができず、そのまま小夜に激突しようとしていた。


「ちょっとのお別れですけど、置き土産です!」


「……ック……マナ・ジャミング!?」


 口に入れていた円筒を彼女はイノシシのように走りこむプーカに向かって吹き飛ばした。それは吸盤のような底面を持っていた。電撃を纏う円筒は風の壁を突き抜け、そのままプーカの体に吸着する。そして自分はプーカの体を飛び越え、彼女を無視するように背を向けて再び走り始めた。


 振り返る。だが、それ以前にマナ・ジャミングを対処しなくてはいけない。


 だが、間に合わない。プーカの胴に張り付いた円筒が長さを伸ばし、その中身から緑色の光を放ったと思うと数秒後にそのまま炸裂する。彼女は体の平衡が保てなくなり、身を震わせながらその場でへたり込む。ジャミングの効果だ。マナの乱れによって、体の制御ができない。


 プーカは走り去る小夜の背中を見て、怒りを持ってわめきたてた。


「ゥ…ゥウ……おい…待て!!お前ぇ…こんな卑怯な手で俺が納得するとでも思ってんのかァ!!!!!!!!」



 ----------------------------------------------------------------------------------------


 一方、教会の外、その敷地では。


 友和はアウターを使わずに、青い刃を持ったアンプリファーを構えていた。その巨大な混合体もそれに合わせ、関節に当たる黒い球体からそれぞれ別個にうごめく手足を伸ばす。アンドレアスはその巨体から飛び降り、それを眺めるように少し距離を取って顔面の右側にニタニタとした笑顔を浮かべていた。



 人間をつなぎ合わせた巨躯が攻撃を始める。


 自律式なのかアンドレアスの命令によって動いているかは不明だが、機械的で、単純な踏みつけが友和の頭上から迫る。巨躯に見合った速度ではあったが、鋼鉄の足裏が圧倒的な質量をもって友和を襲う。何度も振り下ろされる足は、彼を目がけ単純作業を忠実にこなし、アリを潰すような動作を続けている。


 彼は切りかかる間もなく、ただ回避行動と<観劇>を続けて分析を試みるが、そもそも人間の埒外に出た巨躯に対して分析も何もない。


「……ッチ!!!」


 ドギャァアアン!!


 彼を捉えたと思われる一撃。


 友和は考えなしになるべく最小の動作で回避を間に合わせようと、足のすれすれに身をかわす。だが、その行動はあまりにも計算が足りなかった。友和の想定の外に出る衝撃波が、砕いた地面の塊とともに彼を吹き飛ばした。彼の着ていた軍服の上からその四肢に刃物で切りつけたような傷がつく。


 それだけでは終わらなかった。


 吹き飛んだ先にあった球体状の黒い関節から手が伸びる。その手が友和の右足首をつかみ取り彼の体が宙にぶら下がる。また同じ球体から足が飛び出し、逆さまになった彼の腹や顔面に向けて何度も蹴りを放つ。力の込められた脚はそれに取り付けられた機具によって、まるで五体満足な武闘家が蹴りを放っているような威力が実現されていた。


「……くそッ!!!」


 彼は刃のないアンプリファーの峰で逆さまになりながらその蹴りを受け止めていた。剣を少しひねれば足に直接マナの刃をあてがうことができたのに、それができない板挟みがある。


 彼はアンドレアスを切りつけるのに何の躊躇もないだろう。実感として、謎の抑制が彼の攻撃をとどめることがないことを彼はわかっていた。しかし、半人半獣セリアンスロープ計画被験者が組み込まれて作られたその装置を、おもに人間で構成されている部分に傷をつけていいものか、と葛藤していた。


 もう死亡しているのか、機械にがんじがらめにされて生かされているのはわからないが、接続されている手足や上半身は確実に人間のそれだ。どうにも剣をふるう手がしり込みしてしまう。だが、この巨体に攻撃しない分にはアンドレアスに攻撃できないし、そもそも友和自身が危ない。


 この葛藤に対して、彼は妥協ではあったが答えを出す。


 彼は蹴りのインパクトに合わせ、腕を剣とともに押し出すことで襲い掛かるものを跳ね返す。そのまま片手で剣を強く握ると、彼は四本の金属製シリンダーの一本に青い刃を叩き切るために振る。金属はそれに抵抗するよう火花を散らしているが、ひるまず彼は力の限りその刃を押し付ける。


「おらああああああああ!!!焼き切れぇええええええ!!!」


 刃が直径20㎝はある円柱の反対へ届くと、その巨躯がバランスを崩すように友和の方へ倒れこむ。彼は踏みつぶされる危険を察知して、歯ぎしりするようにあごから力を込めると、右足をつかむ手を左足で振り払い、その倒れる巨大蜘蛛から安全地帯まで引き下がる。


(危なかった……)



 拍手が聞こえる。アンドレアスだ。


「おお!!素晴らしい。これで終いかと少し残念でしたが、やはり人体というものは強靭ですね!アウターを使わずこいつから逃れるなんてねぇ!!


 ヒヒヒ!!エキシビジョンにしてはよく出来すぎだ!!」


「次はお前だからな!!そこで震えて待っていろ!!」


「怖いですよぉ!!!じゃあこいつも本気で答えさせないとですねぇ!!」


 彼が手に持った端末から、浮かび上がる映像が広がる。彼が指で何個か操作すると、中心に広がる胴体が声にならないうめきをあげた。苦しんでいる様子とは言えない。ただただ命令を受理した反応としてうめきをあげているような印象がある。しばらくして、五つの声は呻吟を止めたと思うと、今度は言葉を合わせ機械音声が鳴る。


「命令をジッコウ。ジッコウ。


 マナ回路をカイホウ。カイホウ。


 魔法をシヨウ。シヨウ。」


 そういうと、姿勢を取り戻した四本脚に外付けされている、無数の手足が友和に向けられる。その向けられた手のひらや足裏から無数の魔法陣を展開したと思うと、属性がごちゃ混ぜになって、業火が、強風が、激流が、雷撃が、彼を襲った。


 絵具を入れたバケツをひっくり返したような、無秩序な攻撃。


 反撃を許さない絨毯爆撃のような攻撃を見た彼は、真っ先に逃げることを選択した。全力で彼の射程外に出ようと、足を必死に回す。しかし、その愚鈍な巨体は例にもれず追ってくる。彼の踏みしめた地面が一秒もしないうちにどんどんと砕かれ始め、そこら中に魔術による大穴が広がっていく。



「うわああああああああああああああああああああああ!!!!なんじゃこりゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


「フヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!逃げてるばっかじゃあダメですよぉ!!反撃!ほら!反撃しないと!


 丸焦げなのかなんなのか、死因がわからない死体が出来上がっちゃいますよぉ!!!」




(避けるとかそんな次元の話じゃない!!!!)




 彼が逃げ回っているのを見て、狂気の科学者は大笑いをする。バカにされているのにもかかわらず彼はそれに対し反応する隙も無い。圧倒的な物量の押し付けによって、逃げる以外の選択をすることは許されない。あんなに修行した<観劇>など意味がなくなってしまうほどの多重攻撃だ。いつの間にか手に握っていたアンプリファーは活動限界を迎え、彼は逃げるのに邪魔だからという理由だけで投げ捨ててしまう。



 だが、むやみに逃げていたわけではない。鋼鉄のランドセルを見つけると、彼はそれに身を隠すように避難した。その裏に隠していた武器が目に入る。だがまず、この盾を強化しなければならない。ランドセルの裏にある液晶をタップする。「防御壁展開」の文字を押すと、何度もスライドするように防御壁が展開する。彼は魔術の雨を浴びるなか、ランドセルにあったフックをひっかけるような穴に掘削用の杭打機を噛ませ、それを安定させた。荒れた息にようやく整える暇ができる。


「もう!逃げて隠れて!!つまらないですよ~」


 アンドレアスが残念そうに話しかける。


「無茶苦茶しやがって!!!死んだらどうするんだ!!!」


 彼は背後から語り掛ける声に息も絶え絶えながら必死に応答する。盾に背中合わせになって座る彼はこれからの打開策を考え始める。


(もう人間っぽいからとかためらっていると本気で殺される!!攻撃しないと!このままじゃだめだ!!あいつは足が遅いからそのすきをついてもいいが、まずそれには懐に入らないと。どうにかして…どうにかして…)


 そう考えこんでいると、音が止まった。


 魔術の爆撃が止んだのだ。友和は何があったのかとランドセルの液晶を通して、外側の様子を確認した。


「ッチ、オーバーヒートか!!」


 アンドレアスが鬱陶しそうに舌打ちをしている。


 その巨体に取り付けてある、腕や足が熱を持った鉄のように真っ赤にはれ上がっていた。血は流れていないのか、肉だけが部分部分裂け鮮やかな赤の塊がぶらりと垂れ下がる。


 無数の手足の皮膚が焼けただれているのを見た友和は、思わず顔をしかめる。なぜか露出させたままの手足や上半身。そのおぞましい風体を敵に見せつけ戦意をそぐためなのか、技術的にそうせざるを得ないのか友和にはわからなかったが、友和は体を切り刻んだその残酷な仕打ちに、尊厳を踏みにじる辱めに、心底怒りを覚えた。


 そして決意を改めた。


(やはり、あのイカレ野郎を直接叩く!!!仮にあの人たちが死んでいてもこんなことは許されない!!)


 ダッッ!!!!


 友和が盾の展開を解き、飛び出す。手には対抗手段としては心細い剣の生体鋼外殻アウターを持っている。一直線に巨大な融合体に走りこむ彼を見て、アンドレアスが乱暴に画面をスライドさせ、映像に浮かぶボタンを押した。


「強制だ!!強制的に魔術発動を命ずる!!」


「命令をジッコウ。ジッコウ。」


 五つの機械音声が混じり、やるべきことを復唱する。焼けただれボロボロになった腕を、痛みも感じない体を無理に動かし、またも友和に標準を合わせ一斉掃射をした。肉体的に持ち上げるのが不可能になった腕が自暴自棄になったかのように、自身の足元にある地面にも乱射している。




 無数の轟音とともに友和の影が消し飛んだ。


 その巨躯を中心とした戦場に静寂が走る。




 地面に衝撃の残滓が残る。土煙、何かがくすぶるような音、焦げるようなにおいに敷地が満たされていた。撃ち込んだ場所に友和の姿はなかった。


 アンドレアスが死亡を確認するために、前方へ進み始める。張り付いたようなにやけ顔をいまだ浮かべるアンドレアスはこの結末に十分満足したような口ぶりで叫ぶ。


「あらあら、やりすぎじゃないですかぁ!!死体も残らないんじゃ実験にも使えないですよぉ!!でも、なかなかに面白いッ…………ん?」



 彼が異変を感じたのは、歩みがいきなり止められたからだ。意味不明の現象に彼は自分の足を見る。



 手だ。



「やあ。震えて待っててくれたかなッ!?」



 足首を地面から伸びる手がつかんでいた。横を通ったアンドレアスの足首を。


 手が足首を大人二人分が通れるほどの穴に引きずり込む。彼は地の底に叩きつけられた。


 まだ状況の呑み込めない科学者は動揺を隠せない。


「なんで死んでいない?!どうやって……」


「ん?これが命令を下すコントローラーか。ええと、これか?機能停止っと!」


「おい!!」


 崩落した地面の塊の上に友和がいる。叩きつけたアンドレアスの懐からあの機械兵器を動かすためのデバイスを取り出し、操作を施したのだ。地面に這いつくばりながらこちらに話しかけてくる科学者を見下している。


「ん?ああ。少しは考えろよ。頭がおかしいからって仮にも科学者なんだろう?」


「まさか地下を通って……」


 友和がこの戦闘においてはじめて笑みを浮かべる。相手をだまし、種明かしをする快感に震えるように。


「そうだよ。気づいちまえば簡単だろう?この教会には地下が広がっていることは織り込み済みだ。さらにおあつらえ向きにも撃ち放題大サービスで地面の一部が欠落しているじゃないか?そこを通ってお前の足元に……っと。」


 彼が自慢げに話していると、アンドレアスが腕を一直線に伸ばし彼に向けていた。彼の手のひらには小さいが銃口のようなものが埋め込まれている。自身にも兵器化の改造を施しているのだろう。その異様な手に付いた親指をトリガーのように反対の手で引いた。


「終わりだァあああああ!!!」


 ドシュッッ!!


 鉛玉が発射される。


 だが。



「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 叫びをあげたのは彼、アンドレアスだった。その腕には機械が埋め込まれていたが、痛覚が残っていたのだろう。友和によって振り下ろされた鋼の塊にその骨を砕かれる。


「お前が踏みにじった<刀戯>で、骨を砕かれるのはどんな気分だ!?ああ、さぞかし痛いだろうなあ!!!」


「い…痛い!痛い痛い痛い痛い!!!やめくれぇええええ!!!!!」



 友和の笑みを浮かべた顔が、次第に冷ややかに、冷徹な表情に成り代わる。



「いったよな?憎むべき悪を断罪するのが俺の『信条』だ。


 奇しくもお前はそれに加わったんだ。師匠の受けた仕打ちを、その哀しみを。


 一片にも満たない痛みを。


 その身で味わえ!!!!!!!!!!!!」


 

 鈍い音が地下で反響する。


 友和の足元には頭蓋を叩かれ泡を吹くアンドレアスが転がっていた。

最後までお付き合いいただきありがとうございました!!



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指摘やダメ出しでも構いません!!というかむしろください!!



今後とも、『Exception for Equilibrium ~僕だけ<刀>って、何事ですか??~』をよろしくお願いします。

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