第九話 刀戯
最後までお付き合いください。
‥‥‥「いいか、<刀戯>は文字通り刀の戯。刀の交わりのなかに戯曲を定めつつ、余地、つまりあそびを見つけてそこに付け入る剣技なのだ。」
「????」
師匠の発する言葉、いいやそのつながりが僕の範疇を超え出ている。一つ一つはわかるが、文章が有意のものとは到底思えない。
「だから、自分の動きを定めることで、そこから外れた挙動を探し出すってことなのだ!!!!!!」
「????????????」
なにいってんだ、この幼女……?慣れない人種の集いにもまれて言語野に異常でもきたしているのだろうか?少し心配になってくる。そもそも、定めるってなんだ?外れるってなんだ?わからないことだらけだ。
「やはり、どんくさい亀であったか‥‥‥」
「ひどい!友和泣いちゃう!碌な説明もなしに!」
僕の胡散臭い演技に、師匠は怒りすら湧かない様子で、やれやれとゆっくり首を横に振っている。そして、一つため息を大きくついてもう一度説明を始める。
「日本には、剣道と呼ばれるスポーツと化したものや、剣舞と呼ばれる見せ物になった剣が存在していた。いいや日本だけではない、世界中に存在していたのだ。
その意向を汲みつつ、新たに実戦に生かそうとしたのが<刀戯>なのだ。つまり実戦、スポーツ、ときて実戦&スポーツと三代目の剣技なのだ。」
「なるほどなるほど。」
いまだ、言いたいことの全貌をつかめないでいるが、これ以上師匠を失望させるわけにもいかないのでとりあえず相槌を打ってその場を乗り切る。
「だから、実戦には使えない演武用の一連の「型」のようなものを、その場で独自に作ってしまおう!作れたら戦局は思いのままじゃないか!そういう発想の元、生まれたのが<刀戯>なのだ。」
「できちゃうのそんなこと?熟練した人ならともかく……」
僕はあまりに違う世界のお話のように思えて、不安や疑いをはっきりと表に出してしまう。
「無論、無理だ!」
「無理なんかい!!いや、え、無理なんかい……」
ぼくは湧き出るツッコミ欲に素直に従い、ありきたりなツッコミを勢い良くしてはみるものの、現実は甘くないという現実を突きつけられ、やはりその勢いは薄れる。
「そこで朗報なのだ!」
「さすが我が師匠!」
師匠が、僕の期待薄な囃し立てによって自慢げな顔つきになり、鼻息を荒くしながら説明を続ける。
「型、つまりさっき言った戯曲は、完璧には到底作れない。しかしこの剣技の神髄は型による攻撃ではなく、それを作るために発明された防御、<観劇>にあるのだ!
攻撃は最大の防御ならぬ、防御は最大の攻撃を目指した、いかにも日本らしいものなのだ!」
「ん~~!!なるほどッ!」
「そこでなのだ!!必殺の一撃が通りにくいこの時代!!あえて後手に回ることで、相手の動きを<観劇>の過程で読み、相手の攻撃の手が緩んだ隙を突く!!」
「ソレ!ソレ!」
「突いて!!突いて!!突きまくる!!
それが我が信奉を捧げる剣技!
<刀戯>な!の!だ!!!!!!」
「くゥ~~~!!!!!」
説明が終わったと思うと、合いの手の強烈なプッシュに後押しされていた師匠は、劇の主役、もしくはコンサート終わりの歌手のように、僕一人の拍手喝さいを全身で受けるように両手を大きく広げ、照明のないただの天井に顔をあげ、やり切ったという表情をたたえている。
一度、師匠が自身を見直す時間が十秒ほど取られると、正気に戻った師匠が思い切り上げていた顔をこちらに向けて、呆然と、ポツリと僕に聞く。
「ふざけてるのか?」
「いいえ?まったく?」
「再教育の必要は?」
「いいえ?まったく?」
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盛大な説明会を終え、意味の分からない修行(怒りを込めたしごき)が始まった。
<観劇>(相手の動きを読み、相手の次を予測する)習得のために、ただただ相手を見極めるために、自分は設定された範囲のうちでただひたすら師匠を視界にとらえつつ攻撃を一身に受け続け防御をしようという修行、だったはずだ。
だが、やはりそううまくはいかない。
徹底的な守勢に回り、耐えようとは思うものの、僕の周りをすばしっこく回りかく乱する師匠の動きは、目で追うに能わず僕は何回も何回も膝をつく。
膝をついても、そのまま竹刀による打ち込みが止まることはない。ダンの時のように魔法やアウターを使っていないのにもかかわらず、彼女は一刀を浴びせると同時に僕の意識外に潜り込み、姿を隠す。負の連鎖が続くように鋭い衝撃だけが僕の体にひたすら刻まれているような感覚、まるで拷問、いや目隠しされ体を縛られたままの拷問そのものといってもいい。
それだけではないのが、彼女を「修羅」として認定する基準を超えた要因だ。
見せ物にされた鬱憤を晴らすように、滅多打ちに加えて「修羅」の喝が入る。
喝の内容がこれまたひどい。竹刀サンドバック化のインターバル中に、腕立てを強要される。これは「修羅」にとっては休憩時間らしいが、凡人にとっては正真正銘の筋トレにすぎない。シンプルかつ、ありていにきついこの筋トレは鈍い疲労感を着実にためていく。
必死に食らいつく、というより無理やりに引きづられる具合で修行を続ける。
二時間後‥‥‥ようやく終わりを迎えた。
筋肉と気合いの根性論に塗り固められた修行が終わるころには、僕は陸にあげられた魚のように、軽いけいれんをしながらぐったりと倒れこんでいた。
「もう動けんか!!
死んだ魚とはよく言ったものなのだ!!明日はもっときついのだ!!」
「へぇ‥‥‥‥」
声にならない拒否反応を示してみる。
「三日後には腐乱魚になってるのだ!があっはははは!!!!」
そう面白くもない冗談を言う師匠は、僕の傍らをそのままに通り抜け、笑いながら修練場から出て行こうとする。
無責任にも僕は放置されている。
「あ。」
師匠が立ち止まる。忘れられていた僕は傷だらけの体を優しく介抱してくれるのかと期待に胸を膨らませ、全力で尊敬のまなざしを扉近くの彼女に向ける。
スタスタと僕の元に舞い戻ってきた、修羅改め女神さまがぼくの近くで膝を落とし、顔を突き合わせて純真で無垢な笑顔を向ける。
「ししょ‥‥‥」
目に涙が自然とたまってくる。やはりいい子だ!
「再教育、忘れてたのだ!」
「・・・・・・・・・・・・・」
やはり修羅。
彼女の中に慈悲などを望んだ僕が悪かった。彼女を思い付きでイジると、何倍とかではなく次元の違うしっぺ返しが待っている。もう逆らわない。強く心に決めたのだった。
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九十九闘技まで、あと<30日>
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