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みゆは思った。
西公園も来た記憶はある。
でも桜が咲いてることすらあまり記憶に残っていない。
同じ風景なのに、感じ方が違って見えるのは少しは大人になったからだろうか。
それよりもみんなと一緒に来たおかげかもしれない。
坂を上ると光雲神社があった。
「おみくじがあるね」とひとみ。
「ひかない」とひとみが口にする前にみんながおみくじの前に列をつくった。
「この前のリベンジよ」とあかり。
「そうよ、みゆだけが大吉だったからね」と朋子はおみくじを開く。
「今度は末吉だって」
「私は吉」とひとみ。
「最後、みゆの番よ」とみんながみゆを見つめる。
まだ誰一人大吉を出していない。
「大吉です」とみゆは申し訳なさそうに言う。
「またか」とため息が漏れる。
「そうだ、大宰府でまたみんなが同じクラスになりますようにって祈ったの、私だからね」と朋子。
「だから…」
「だからみんな同じクラスになったんでしょ」と朋子。
「関係ないと思います」と瑠々。
「どうして?」
「ほとんどの場合、お友達同士が離れ離れにならないように先生が配慮すると聞いてます」
「じゃあ、何、私と由加はお友達だって言うの」とあかりが言う。
「それはこっちのセリフよ」
「私は末吉だからね。由加は小吉でしょ。私の勝ちよ」
「あかりさん、多分、小吉の方が末吉より上だと思います」と瑠々。
「じゃあ、大宰府はどうよ。私、半吉よ」
「多分中吉かな」
「どっちの勝ちなの、瑠々」とあかりは聞く。
「多分、由加さんの方が上だと思います」
「じゃあ、瑠々は?」
「私は2回とも中吉です」
「みゆは二回とも大吉か…」とあかりは空を見上げる。
空をカラスが旋回してる。
ふと何かがおちてきた。
「やだ、フンじゃない、汚い」とあかりは飛びのいた。
フンはあかりの横をかすめていった。
「運が良くなるようにって神様がカラスに命令したんじゃないの」と由加は笑う。
西公園の展望台から博多湾を見る。
「ああなんか彼欲しくない」とあかりは声をあげる。
「バイクとかの後ろに乗って、この景色を彼と見たくない」とあかりは目を輝かせている。
「来年の桜は彼と見に来たいかも…」と朋子。
「彼氏ほしいよね」とあかり。
「末吉さんには無理よ」と由加。
「何、由加。分からないじゃないの」
「多分無理だと思う」
「どうしてよ」
「だってあかりが誰を好きか知ってるし…」と由加は言う。
あかりは急に真っ赤になった。
「何、どうして分かるのよ」
「そりゃ幼馴染だし…」
あかりはじっと由加を見つめてる。言うんじゃないよ、それ以上と念を送ってる。
「言わないわよ、心配しないで」
あかりは少しホッとした。
「あかりが告白する前に失恋すると思うし…」
「どういうこと」とあかりは不安げな顔を浮かべてる。
「だってあかり、好きな人には冷たい態度とるじゃない」
そうだっけとあかりにはまったく自覚がない。
「あかりが好きをアピールすればするほど相手はあかりを嫌いになってるし」
全然分からないんだけど…。
「いじめっ子ハンターが唯一いじめる相手は好きな人だし」
そうだっけとあかりは記憶をたどる。
幼稚園の頃好きだった佐藤君。
確か靴の中にトカゲを入れたりした。
小学校の時好きだった高橋君にはぞうきんを投げつけた。
中学の時好きだった山田君は画びょうを椅子の上に置いた。
「あかりは好きな相手にはいたずらをしたくなるのよ。自覚なかった?」と由加は勝ち誇ったように言い放つ。
勝ったわ。圧勝よ。今までで一番の大勝利と由加は舞い上がりそうな自分の気持ちを抑えていた。
しかし顔はニヤついてしょうがない。
永遠のライバルに勝負がつこうとしていた。
あかりは由加のいうことが全て思い当たることだった。
「つまりあかりが今好きな男子もきっとあかりを嫌いになると思うわ」
「そうね。きっとそうだ」とあかりはそれを受け入れた。
「ねえ、あかりの好きな人って誰か分かる?」とさゆきは朋子にきいた。
「知らない。そんな話しないし…」と朋子。
「まさか、木本?」
二人はじっと考えて、ないないと否定した。
「そう言えば朋子が好きな男子って野球部の杉本君だよね」
「えっ?」
「だって朋子が吹奏楽部に入ったのも、杉本君を応援するためなんでしょ」
「しっ!」と朋子はさゆきの口を押えた。
「秘密だからね」
由加が勝ち誇り、あかりがうな垂れてる空間に瑠々が近寄っていった。
「じゃああかりさんが由加さんといつも口喧嘩をするのは」と瑠々がキラキラした目で、
「あかりさんが由加さんを大好きだからなんですか」ときいた。
「なわけないでしょ」とあかりに生気が戻った。
「でもあかりさんは由加さんに冷たいし」と瑠々。
「由加は違うよ。由加は女だし、好きな相手じゃないし」とあかりは真っ赤になっていた。
「顔が赤いわよ」と朋子が茶々をいれる。
「うるさい、うるさい、そんなはずないんだから」とあかり。
そんなあかりを見て由加はニヤニヤしてる。
その顔があかりを苛立たせた。