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天守閣跡から降りると、桜見物のみんながブルーシートを広げて宴会で盛り上がっている。
「今年は2年分の桜だ」と佳林が大はしゃぎ。
佳林は「見て」と踊り出す。
「みんなも一緒に…」と言うと、みんな目を見合わせる。
「私やる」と瑠々が一緒に踊り始める。
「千本桜いけそう」とアイコンタクト。
瑠々はうなづく。
瑠々が音楽をスマホでならす。
イントロが鳴り出すと、慌てて佳林は、
「スマホに撮って撮って」と自分のスマホをあかりに手渡す。
「何、どうするの?」とあかりは取り乱す。
「そのまま撮影して、生配信中だから…」と佳林は言う。
そして桜の下で二人が踊り始める。
スマホの画面を覗きながらあかりは、
「何、これ、文字が流れてる」と言う。
「声が入りますよ」と愛香はあかりからスマホを奪って、撮影を続ける。
画面を横から、あかりが覗き込む。
踊りが終わると、画面上に「8888888」の文字。
視聴者のみんなが手を叩いていた。
佳林はスマホをあかりから奪って、スイッチを切る。
そして動画を確認する。
みんなはスマホの画面をのぞき込む。
「佳林、動画配信してるんだ」と愛香。
「動画配信ってインスタとか」とあかり。
「これはニコニコ動画ですけど…」と、愛香はじっと画面を見つめる。
愛香は配信者の名前を見て画面にくぎ付けになった。
私が好きなボカロP様と同じ名前…。
同姓同名?そんなことはありえない。
佳林、かりん、カリン、カーリング。
「カーリング女子って佳林だったの?」と愛香は驚きのあまり大声を出す。
そして佳林を見て震えだす。
「何、カーリング女子って?」とあかり。
「カーリング女子は去年すい星のように現れたボカロPです」と瑠々。
「ボカロPって?」
「簡単に言えばボーカロイドで曲をつくる人だと思います」
「なんでも知ってるのね、瑠々って」
「何も知らないから、いっぱい質問するんです」
私、気になりますだからね、瑠々は…。
「どのくらい有名なの?」とあかり。
愛香があかりの方を向き直り、
「本当に知らないんですか、あかりさん」
「だって知らないわよ、ボカロPなんて…」
「パプリカの米津玄師はボカロPです」
「えっ?佳林が米津玄師なの?」
「全く違います」
「ボカロPは一人じゃないんです」
「よく分からないし、もういいや」とあかりは飽きたと言った顔。
すると愛香は佳林に、
「握手してください」と手を差し出す。
愛香は震えていた。
佳林は動画チェックをしながら、愛香の前に手を差し出した。
愛香は佳林の手を両手で握りしめる。
「ファンです。カーリング女子さんの曲でいっぱい踊ってみたをあげてます」と愛香。
「そうだったの」とみんなは愛香を見つめる。
「そんなに再生されてないんですけど、新曲が出るたびに踊ってます」と愛香は感無量と言う顔。
「名前はなんていうの?」と佳林は素っ気なく言う。
「愛香です」
「知ってる。じゃなくてなんて名前で踊ってるの?」
「イズモノシロウサギです」
瑠々が一番に動画を発見する。
そしてそれをみんなで見る。
「うまっ。愛香、ダンス、めちゃくちゃ上手じゃないの」とみんなは衝撃をうける。
「再生数は三千回って多い方なの?」とあかり。
「多分多い方じゃ…」と瑠々。
「後ろで流れてる曲が佳林の曲なの…」
と、あかりの前に愛香が現れて、「いい曲でしょ、いい曲なんですよねえ…」とうっとりした目で曲を口ずさんでる。
「ハートを撃ちぬかれるんですよ」
「おすすめの曲は」と朋子。
「全部、いい曲に決まってるじゃないですか」
「そ、そうね。ファンだもんね」
「その中でも一番って…」
「朋子さん」
「はい」と朋子は愛香の勢いに背筋が伸びた。
「恋人のどこが好きですかと聞かれて、顔が好きとか、性格が好きとか、頭がいいところが好きとか一か所だけえらべるんですか?私は選べません」
「そうかな…。私は相性だと思うんだけど」
「出た。朋子のきれいごと発言。そんなの顔に決まってるじゃないの。私は絶対顏よ」とあかりが口をはさむ。
「いいですか。私は全部です」と愛香。
「本当に…」とあかりは愛香を疑うような目で見つめる。
「私は好きな人なら嫌いな部分も大好きです」
「へえ…」とあかりは薄笑い。
由加があかりを睨みつける。
あかりはそっぽを向く。
「聞いてみてください。本当に最高なんですから」と愛香。
「ねえ、このコンピューターみたいな声って佳林が歌ってるの?」とあかりは瑠々に聞く。
「それはボーカロイドです。一番有名な初音ミク様の声です」
「誰、それ?聞いたことない人ばかり」とあかりはあくびをする。
「佳林様、顔出し初めてじゃないですか?」と愛香。
「かりん様になってるし…」とあかり。
「もう消しちゃった」と佳林。
「えっ、もう消したんですか?」
「考えてみたら、恥ずかしいし…」と佳林はうつむいた。
「でもきっと200人ぐらい見てたんじゃ」
「テンション上がりすぎちゃった」と佳林は「テヘペロ」と舌を出した。
可愛いけれど…、きっと明日すごいことになる気がするとみゆは思った。
じっと黙っていたが、みゆもまたカーリング女子のファンであった。
すでに動画はダウンロード済である。
お宝配信である。
ただみんながみんなみゆみたいな存在ではない。
「じゃあ、瑠々。踊るわよ」と佳林は急に元気になって、スマホで曲をならしはじめる。
「桜だけにさくらんぼう。大塚愛じゃなくて、にゃんこスターいくわよ」と佳林は瑠々と踊り出す。
そして愛香に一緒に踊ろうと誘う。
「とんでもありません。カーリング女子様と一緒に踊るなんて」と愛香は後ろにエビのように下がる。
「踊るわよ」とあかりは愛香の肩を叩く。
そして愛香の腕を引っ張って踊り出す。
「ほら、愛香も踊って」とあかり。
「あかりだけ、パラパラじゃないの」と朋子は仕方ないなと愛香の横に並んで踊り出す。
そして「一緒に踊るよ」と愛香を誘う。
あかりは残りのみんなの肩を一人一人叩いて誘う。
気が付くと、みんなでさくらんぼうを踊っていた。
そしてスマホを桜の木において、動画として録画していた。
動画はみんなで共有した。
その動画だけはネット上にあげることはなかった。