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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

どん底の、さらに底。

因果応報。しかし……

「判決、被告を死刑に処する」


ようやく訪れた結末に、長い息を吐き出す。

それは、この世の苦しみから解放される祝福のように感じた。

長い半年間だった。しかし、これでも大分早く判決が出たというのだから、普通の裁判はいったいどれ程かかるのだろう?


「被告人、何か言いたいことはありますか?」


気の毒そうな裁判長の視線を真っ向から受け止め、大きくうなずく。


「死刑を、即時執行してください。守るべき家族はもういません。復讐は果たしました。思い残すことはありません。刑を、速やかに執行することを望みます」


清々しい気持ちで、堂々と、言い切った。

その様子を見た裁判長は、顔を片手で覆って、大きなため息を吐いた。


「……分かりました。そのように意見を出しておきましょう」


ありがたい。


その時、傍聴席から立ち上がり、騒ぎ立てる少女がいた。

ふざけるな、父を返せ、殺してやる。

あらんかぎりの罵詈雑言を投げ掛け、暴れて、拘束され、(しま)いに泣き出してしまった。

俺の家族を殺した男は、家族思いの良い父親だったようだ。


だが、だからといって、他人の家族を殺していいとはならない。


しかし、だからといって、残された家族が憐れだというのは、事実として目の前に転がっていた。


「裁判長、発言の許可を」


仕方なく、手錠で繋がれた両手を上げて、聞いてみる。

少女が排除される前に、言わなきゃならんことがある。


「どうぞ」


「こちらの少女は、私が殺害した男性の娘さんでしょうか?」


「そのようですね」


「こちらの少女に、私のように復讐を成し遂げさせることはできますか?私には、家族は殺されましたし、親戚ももういません。訴える相手がいないなら、死刑に処される私を殺害しても問題がないのでは?」


「問題しかありません。未来ある少女に、殺人の罪を着せるつもりですか?貴方の刑は速やかに執行されます。それをもって、遺族の慰めとするのです」


「……はあ」

淡々と言う裁判長に、大きなため息と共に、落胆の声を吐き出す。

まあ、罪は、償うさ。さっさとやってくれればいい。


「因果応報。罪は、償われるべきです……被告人を退席させなさい」


毅然とした態度の裁判長。命令形なのにはちょっと不満だが、……ああ、言わなきゃならんことが残ってた。


「警備員さん、その子は優しく扱ってやってくれ。被害者遺族なんだから」


俺がそういうと、真剣な表情で少女を拘束していた警備員が少女を視界から外し、力を緩めた。その隙を付いて少女は拘束を振り払い、俺に向けて突貫。飛び蹴りをかましやがった。しかも、運悪く下腹部に。


その後も殴る蹴るは続くが、少女はすぐに拘束、手錠を掛けられる羽目になった。


あーあ、また言うことが増えた。


「被告人、何か言いたいことはありますか?」


あまりにも冷静な裁判長に、今度はイラッとしたが、言いたいことは今は一つだけ。


「少女の怒りは当然のもの。罪を問うことを望みません。どうか、見なかったことにしてあげてください」


すぐに刑が執行される俺のことで、人生棒に振るのは間違っている。


裁判長は、無言で首を振っていた。

だめかー。まあ、仕方ないわな……。


下腹部への飛び蹴りで、ため息吐くのも辛い状態で、警備員に抱えられて退席するのだった。





死刑判決が下されて、早三日。

実際のところ、独房は快適だった。

屋根があって、布団があって、食事はきっちり出て、至れり尽くせりというやつだ。


すぐに刑が執行される俺に、食事も不要だと抗議のハンストしたら、出された食事が残っていた場合、捨てると聞いたので、もったいないオバケの存在を聞かされて育った身としては、完食する以外の選択肢はなかった。


退屈は、一番の敵だということを感じながら、独房で静かに過ごす。すると面会があると連れ出される。



「司法取引が成立した」

痩せ型で、メガネに白衣姿のあやしげな男性は、俺の姿を見るなりそう言いやがった。


「何の話だ?」


こいつは、一方的に言うだけで人と会話をしないタイプだ。

半ば本能的に感じ取り、めんどくさくなる前に用件を済ませようと話を促す。


「君をここから出す。そして、私の研究に付き合ってもらう」


単なる事実を突き付けるだけのあやしい男に苛立ち、舌打ちと共に拒絶を突き付けた。


「断る。死刑が執行される俺に、外へ出る資格はないしそのつもりもない」


だが、相手の方が上手だった。


「無意味に死を迎えるよりは、人類の未来のために協力したまえ」


嫌な手を。復讐を果たし、満足して死んでいく俺に、役目を課してくれるとは。


「人類の役に立つのなら」


短い葛藤の後、あやしい男の目をしっかり見据えて返事をすると、口が三日月のように不気味に開かれ、ギラギラと血走った目は、さらに見開かれた。


……どうやら俺は、悪魔と取引したらしい。





「VR麻薬?」

聞けば、日々進歩しているVR技術を悪用して、麻薬的なデータを直接脳に叩き込む不届きな技術が開発されたらしい。

別名、電脳麻薬というそうだ。同じ意味じゃないか?

それは、普通の麻薬と同じように脳を侵して破壊し、廃人、脳死、中毒から来る犯罪者を量産しつつあるらしい。

また、取引されるのは白い粉や錠剤やカプセルではなく、暗号化されたデータやゲームに偽装されたデータの入ったUSBメモリー等の記憶媒体だという。

VR技術が触覚すら再現しつつある今、電子データのやり取りは、電脳世界にめっぽう強いサイバー警察の存在により、ネット上より人の手の方が確実に渡すことが出来るようだ。


しかし、このVR麻薬、本当に、普通の麻薬と同じ効果のある電子データがやり取りされているそうな。


そんなこと、今まで知らなかったんだが。と言えば、

情報が規制されていたからね。と、気持ち悪い含み笑いと共に返された。

こんなやつが、犯罪組織に対抗する頭脳とか。

世も末だな。


……うん、何というか、最新技術の無駄遣い。

そう思っていれば、用意が出来たようで、ゴーグル型のVR機器を渡される。

いろんなコードが付いたそれを、自分の意思で被り、説明された通り、側面のスイッチを押し込んで、VRゴーグルを起動する。


目を閉じていても、網膜を通じて麻薬的データが脳に直接叩き込まれる。


脳が破壊されそうな多幸感。

口からは、言語を忘れたような叫び声が勝手に吐き出される。


これは、麻薬なんかじゃない!!

脳を破壊する別の何かだ!!

これが、人類の未来に……


目を閉じていても、破壊的な情報の流入は止まらない。


無意識に、男の方を向けば、


「きひひ……失敗失敗。いきなり脳の致死量三倍は無理だったか」


……この、悪魔め……地獄に堕ちろ……


俺の意識は、そこで途絶えた。







「やあ、おはよう。気分はどうだい?」


俺は、自我を保ったまま目を覚ましてしまったようだ。

口は動くか? 声は出るか?なら、言うことは一つだ。


「……ころせ……」


返事は、嘲笑と拍手喝采。


「きひひひひひっ!まさか、常人では即脳死してもおかしくない量の電脳麻薬を叩き込まれても、まだ自我を保っているとは!!何という精神力!!喜びたまえ!君の脳と精神のデータはしっかり取った。これが、未来の人類の役に立つのだよ!!」


ばかな。ひとをくるしめるぎじつに……


「さあ、次の実験だ!!まずは四倍から!!」





や、め……







あ く ま め 。 じ ご く に お ち ろ

未来の技術が、このようなことに使われませんように。

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― 新着の感想 ―
前半部分のこの主人公の気持ちはなんとなくだけど、理解できますね…きっと何度も何度も思案して、どうしようもなくて、事に至ったんだろうな…と感じました。相手には相手の家族がいる事も承知の上だったでしょうね…
[一言] ニヒリスト気取りのナルシストには、ちょうど良い最期じゃないです??
[一言] 前半も後半も、それぞれ別の意味でゾッとする内容ですね。 VR麻薬については「近未来的」と言いたいところですが、技術は日進月歩ですし、もう実在していそうだなと思いました。 もしそうだったとし…
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