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いつもとは違う帰り道

夜ふと空を見上げると、真っ暗な海に無数の輝きが広がっていた、なんてこともあるだろう。どうせ夜に空を見上げるのだから、そのくらいであってほしいと思わなくもない。しかし残念ながらこの街の夜空はどこまでも重い雲に覆われて、たくさんの明かりによって、大して暗くもなく、星もあまり見えない。まるで星が地上に降りてきてしまったみたい、といえば雰囲気はいいのかもしれないが、たくさんの街の明かりは、この世界から、飲み込まれそうで恐ろしい暗闇も、息を飲み心奪われてしまうような輝きも、どちらも消し去ってしまったようだ。


そう、わたしはそんな世界に生きている。


この街には一つの高い塔がある。高さは、他の街のそれと比べると大したことはないのかもしれない。でも、この街の多くの人にとって、その塔はかつて憧れそのものだった。そこに行けば、日常から逃れることが出来る。そこに行けば、出会ったことも無いような景色に出会うことが出来る。この街の真ん中に立つそれは、いつだって人々の思いが集まる場所だった。


星の光が失われた薄明るい夜に、その塔はぼんやりとオレンジ色に光を放ち、雲に覆われた夜に溶けていた。オレンジは雲に反射し、ただそこにあることを、昼間よりもずっと、雄弁に語っていた。


いつかは行ってみたい。いつかは上ってみたい。みんなそういってその塔を眺めていた。だが、結局その塔に上った人はどれだけいただろう?いつでもそこにある塔は、いつでもそこにある為に、あえて行くところではなくなっていってしまったのかもしれない。そこに行きたいというと笑われてしまうような、そんな存在に、いつからかなっていた。


日常の中の一つ、変わらない風景、いつもと同じ。暗闇と輝きが消えた夜空の下で、多くの人がいつもの家路につく。たくさんの当たり前が家のドアを開けるとき、私の一歩は、ふと家とは違う方を向いていた。


あの塔に行ってみよう。


理由はまだわからないまま、じんわりと浮き上がったその気持ちに、わたしの体は乗っていた。今日、いつもと違う道を歩く。オレンジに光る塔へ、わたしは向かうことにした。



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