第3話 三犬
俺は人並み以上のことは出来なかった。人よりも劣ることもなかった。所謂「凡人」だ。いや、「凡人」よりも凡人すぎた。俺は、「相手の能力をコピーし、使う」能力。そう、相手と状況を一緒にするだけ。そいつより強くなることは出来ないし、弱くなることも出来ない。確かに能育では負けなしだったが、同時に勝ちなしでもあった。俺みたいなやつは使い物にならない。
能力者として生まれた者は、出生証明書がない。つまり、存在しない人間だ。医療などのサービスは本部か提供してくれる。しかし役立たずと判断されれば、その権利を剥奪される。つまり、死だ。
「待ってください! 流木はちゃんと役に立ちます!」
10歳の時に母が上に訴えてくれたことを思い出す。能育で必要以上の成績を収められなかった俺は、役立たずの印を上から押されてしまった。そんな俺を、母は守ってくれたのだった。
「もう一度、チャンス、やる。君、3年。厳しい訓練、耐えられる?」
白衣を着たメガネの男にそう言われた。自分が何も役に立たない人間だと認めたくなかった。母のためにも、自分が役に立つと上に証明したかった。俺はその男の提案をのんだ。
「これでよしっ、と」
男を捕縛用テープでぐるぐる巻きにし終わった尾山が呟く。
「こ、今回の任務、僕、何の役にも立たなかったですぅ」
御影は自分の不甲斐なさを嘆いていた。
「ま、俺も最後のいいとこ持っていっただけだったし、2人がいなかったら失敗だったよ。あ、そうだ。任務の報酬で焼肉行こうぜ焼肉」
「お、いいなそれ。御影もくるだろ?」
「な、何もしてないのにお腹すいたですぅ。ご一緒させていただきますぅ」
「こちらが、任務の報酬となります」
受付の人が黒いケースを渡してくる。
「ておい、ボーナスとかなしかよ。休日潰されたんだぞ」
ケースの中身を確認しながら尾山は不満そうに言う。
「まあそう言うな、うちは財政難なんだよ。」
「あ、おやっさん」
尾山がおやっさんと呼んだ人物は、俺の父親、須藤醍護。「体を鉄にする」能力とシンプルな能力だが、攻守優れた能力と頭が切れるため、宮本派の重役の傍で守る「十守護」の1人である。ちなみに十守護は存在自体秘密なため、父親以外の十守護の名前は誰にも知らされていない。が、父親は色んな所に顔を出しているため顔を知られてしまっていて、よく他の十守護や重役を困らせているらしい。
「父さん、こんなとこ出てきて。また怒られるぞ」
俺は呆れた。
「アイツらが硬すぎるんだよ。なんだよ自由行動禁止って。俺はロボットじゃねえんだよ」
「それ、面と向かって行ってこいよ」
「やだぁーん減給されちゃぁーう」
と、気持ちの悪い仕草をしながら父親は言う。
「父さんは今日家に帰るか? 俺たちは焼肉行ってくるけど、父さん飯どうするんだ?」
「ん? 母さんいないのか?」
「暫く帰れないらしい」
「まあ適当になんか作るわ。俺の分まで焼肉、楽しんでこい!」
「 母さん、父さんのこと役立たずって言ってたけど、料理作れるの?」
「ま、まあ何とかなるんじゃねえか?」
ははは.........と父さんは笑う。その後、焼肉から帰ってきたらキッチンが物凄いことになってたことは言うまでもない。
「いいかお前ら、最近は佐々木派との戦闘が激しさをましている!」
団長が朝の集会で俺たち第3連団に叫ぶ。
「色んなところに佐々木派が出没しているとの情報が入ってきている。気を抜くな。それでは各自任務に行ってもらう。解散!」
団長がその場を去ると、団員はバラバラと散っていく。
「おーい、俺たちはどこに行けとの命令だ?」
尾山がこちらに走って来て聞いてきた。
「どうやら昨日のビルの調査みたいだな。アイツらがなんであんなとこにいたのかも、あの爆発音も気になるしな」
「ふーん、調査ってことは俺たちは2人で行動か」
俺たち宮本派は2人1組のペアを組んで行動することになっている。状況に応じてペアを合体させてグループを作る、と言った形だ。そして尾山と俺はペア同士だ。
「ちょっと待て、お前ら」
団長に呼び止められた。
「お前らの任務地域は『三犬』が出たとの情報が入っている」
「『三犬』!? 人類最強と呼ばれているあの!?」
「そうだ」
尾山が驚くのも無理もない。三犬は1人で200人の軍人分の力を持っていると言われている。十騎士ならともかく、オレたちみたいな下っ端では歯が立たないだろう。
「も、もう行きたくなくなってきたぜ.......」
「いいか、見かけたらすぐに逃げろ。戦うなんてことは考えるな。ま、安心しろ。お前らごときの命なんぞ取ろうとは考えないだろうからな」
そりゃ酷いぜ団長。その通りだが。
「そうそう会うことはないだろうから大丈夫だ。ま、頑張れよ。」
団長、それ、フラグです
「さて、またここに帰ってきた訳だが、爆発痕ぐらいしかないな」
尾山が昨日戦闘を行った部屋を見渡しながら言う。
「アイツらがここにいたってことは、何かあるってことだろ」
「そうだな、もう少し探してみるか」
「ん? なんだこれ」
尾山が何かを見つけた。
「何かあったか?」
「おい、これ見てみろよ」
尾山は爆発痕の中心を指さす。
「.......何も見えないが」
「ほら、ここ。よく見てみろよ」
言われるがままに顔を近づけて見てみると、うっすらと見たことがない言語?が描いてあることに気づいた。
「なんだこれ、見た事ないな」
「俺もだ。なんかの暗号か?」
「とりあえず俺らじゃどうしようもないから櫻井博士に相談だな」
「そうだな、博士なら佐々木派の残したこの暗号を解ける気がするし、そうした方が良さそうだな」
尾山はケータイを取りだし、爆発痕の中心の写真を撮り、よく使う電話番号から櫻井博士に電話する。
「もしもし博士? 尾山だけど」
「尾山か、どうかしたか?」
櫻井博士は能力者開発計画に関わった人物の一人だ。第1世代は、胎児の状態の時にある薬を注射して誕生させたらしいが、その薬を開発したのが櫻井博士らしい。博士は元々佐々木派の人物だったが、佐々木派の待遇の悪さに嫌気がさして仲間と共に逃げ出してきたらしい。
「あのさ博士、この写真の暗号を解読してくれないか?」
尾山はさっき撮った写真を送信する。
「.......ふーむ。これは、わしらが使っていた暗号とは変えられているようじゃ」
「えっ、じゃあ解読は無理ってことか?」
「.......ちょっと待っとれ。時間はかかると思うが、何とか解読してしてみるわい。何かわかったらすぐ連絡する」
「分かった。ありがと博士」
「どうだった?」
「ちょっと時間かかるらしい。また連絡してくるらしいからここら辺で待っとこうぜ」
「そうだな」
俺たちはビルから出たあと、近くの喫茶店に入ることにした。
「ふぅ」
コーヒーを2杯注文したあと、俺はため息をついた。
「どうした? お疲れか?」
「うーん」
俺は机に突っ伏した。
「まあ確かに休みが少なすぎるよなー。もう少し休みをくれてもい.......」
尾山は急に黙った。
「どうした?」
「お、おいあれを見てみろよ.......」
尾山が俺の後ろを指さすので振り向いてみた。ガラスの向こうに見えたのは、猫背の大男。首に大きな真珠が巻かれている。あの特徴的な顔の傷。昔、要注意人物として教えられてきた、
「まさか、あれ、三犬?」
団長。フラグ、回収しました。