第2話 謎の男
「こっちは問題なし。そっちは何かあるか?」
俺は尾山と御影の状況を確認する。
「こっちも問題なし」
「ぼ、僕も大丈夫ですぅ」
「ていうかまだここ三階だぜ? 爆発音がしたのはもっと上だろ。もっとサクサク行こうぜ」
「慎重という言葉を知らんのかお前は。ここに潜んでる可能性もあるだろ」
「へいへい」
尾山は退屈そうにあくびをする。緊張感というものがないのかお前は。
「ここ、みたいだな」
俺たちは頑丈そうな鉄の扉の前に着いた。隙間から見える限り、中の電気は消えているようだ。
「御影、お前の能力で中の様子を確認してきてくれないか?」
「は、はいぃ.......、分かりましたぁ」
御影は扉の間へと消えていく。と思ったらすぐに帰ってきた。
「ご、50人くらいが銃を扉の方にかまえてますぅ! こ、怖かったぁ」
「サンキュー御影。尾山。3匹、頼めるか?」
「了解、今すぐ準備する」
「よし、じゃあ開けるぞ」
俺は思いっきり扉を開いた。
ダダダダダダダ、パンッパンッパンッ。
銃声が響く。俺たちは今扉の影に隠れているが、射線に出ようものなら蜂の巣になるだろう。
「流木。準備が出来た。召喚するぞ」
「ああ、頼む」
と、俺が言った瞬間、俺には形容しがたい「バケモノ」が紙からでてきた。
「こいつらを蹴散らせ!」
尾山が命じると、3匹のバケモノは勢い良く部屋に入っていった。
「うわあああ!」「ぎゃあああ!」
バキバキバキ
人間が潰れた音が響く。
尾山の能力はモンスターを召喚するものだと説明したが、モンスターの力は召喚数によって決まる。同時に出す量が多ければ多いほど力は分配され、一体一体は弱くなっていく。力の量を増やすには、彼自身の筋力量と絵の上手さが関係してくるらしいが、前にも言ったように絵は下手くそなので、脳筋の道を進むことにしたらしい。
「私が"右手を握る"と、"私は化け物を触るだけで化け物が消せる"」
と、中から声が聞こえてきた、と思った瞬間。化け物は消滅してしまった。
「さ、早くそこから出てきなさぁい。私と一緒に遊ばなぁい?」
高らかな声が中から聞こえてきた。
「俺のモンスターを簡単に消しやがった.......。どんな能力だ?」
「分からないが、触れると発動するタイプか?」
俺たちは恐る恐る中へと進んでいく。そこには、マジシャンのような格好をした男が立っていた。
「私は触れただけで化け物を消してしまぁいました! 種も仕掛けもござぁいません」
「くっそお! よくも俺のポチとタマとナンシーをぉ!」
おい、いちいちアイツらに名前付けてたのかよ。.......人名混じってるし。
「気になりまぁすか? 気になりますよねぇ?」
オホホホホと、高らかに笑う男。
「ならもう一度見せてあげまぁす! 私が"左手を握る"と、"太陽の光は物を通り抜けるようになる"」
と男が言った瞬間、部屋中に光が入ってきた。
「ぎゃああああ!」
御影が大声で叫んだ。
「だ、大丈夫か御影!?」
「肌がぁー!痛よぉー!」
御影は急いで日傘の下に蹲る。俺たちが引っ張ってきたせいで、忍者装備を家に置いてきてしまったせいだった。
「日傘を持っていらしたのぉで、太陽の光に弱いのかと思いまぁして。はい、まず1人潰しまぁした。そこの方、紙に書いた化け物を具現化する能力のようですね。」
男は小山の方を向いた。
「では、私が"右目でウインクする"と、"鉛筆では紙に何も書けない"」
「え? 、まじかよ!」
尾山は紙に書こうとするが、そこには何も映らない。そして男は俺の方を向く。
「さて、あなたの能力が分からなぁいんですよねぇ。ま、好き勝手動かれるのは困るのでぇ。私が"左目でウインクする"と、"人間は足を動かすと足の骨が折れる"」
「くそっ、移動が封じられた!」
「さて、イージーな仕事でぇしたね? 早速本部に連絡しましょうかぁね」
この男は、体の動作をトリガーとして能力を発動させている。1度動作を行うと、その動作をトリガーにすることは出来なくなる、と。そして能力自体は、さしずめ「ウソをホントにする」能力と言ったところか。.......この推理が間違っていたら足の骨が折れ作戦は失敗。佐々木派に似るなり焼くなり好きにされる。俺が失敗するわけにはいかない。.......行くぞ。
「俺が"右手を握る"と、"人間は足を動かしても足の骨は折れない"!」
俺は大声で叫ぶ。
「え?」
俺はケータイを耳に当てていた男の方へ走っていき、男の顔面を全力で殴った。
パンッという音と共に、男は壁に叩きつけられた。
「な、なぜお前は動けている!?」
男は驚いて声を上げる。
「これが.......俺の能力だよ」