休息と星痕
約5年ぶりに作品の続きを執筆しました。
当時感想をくださった1人の読者様へ感謝を込めて。
今回はタイトルの星についてのお話になります。
【アルベリオン】の空は今日も快晴だった。
あの後ロイドと別れ、帰還の呪文を唱えた俺は無事見慣れた街へと戻ってきた。
「はぁー、死んだかと思った」
大きな溜息と同時に、心の底から言葉が出た。
それもそのはず、本来ロイドクラスの魔物と戦闘し、5体無事で帰還できることなど有り得ない。
そんなことは駆け出しの俺でも分かる。
今回はロイド本体がいて、分身体とやらとは戦闘することが無かった。
•••冷静になった今、ふと考える。
果たして、俺とミノたんは分身体に勝てたのだろうかと。
ロイドの話だと、例えやられそうになっても助け船を出すとのことだった。
でも実践で魔物に負けたら殺される。
レベル5になってイキがっていた俺たちだけど、あの時の選択は正しかったのだろうか。
『心の安楽亭』へ向かう道中、空はそんなことばかり考えてしまうのだった。
宿に戻ってすぐ、俺は女将さんに今日の出来事を報告した。
「それで、坊やは何に悩んでるんだい?」
女将さんが覗き込むようにこちらを見つめて聞いてきた。
凹んだ気持ちを紛らわすため、俺は少しだけ笑って答える。
「いや、悩んでるって言うよりも反省してました。ダンジョンは俺が思っていたよりも何倍も怖かったです。今回は運良く生き延びましたけど•••。正直自分の判断が合っていたのか今でも不安で」
「そりゃそうだ、あんなところが怖く無い訳ないじゃないか」
女将さんは鼻で笑って言い切った。
「いいかい坊主、召喚士は選ばれた人にしかできない仕事だ。危険も多くダンジョンでは常に命の危機に晒される。
その時々の選択が運命を決めてしまう、そんな過酷な状況がこれからも多発するだろう。その度に過去を振り返る機会も増えるはず。
でもね、生きて帰ってきたこれたのなら、それがその時の最善なのさ」
ほら祝杯だ!
憂いを流すかのように、アンナさんは乾杯を促してきた。
俺は勢いよく頂いた酒を飲み干すのだった。
「そういえばアレを確認しないとな、サモンミノたん」
自室に戻り、見慣れた相棒を呼び出す。
「我を呼びましたかな、マスターよ」
ブフォブフォ!
と聞き慣れた声が響き、指輪から小さなミノタウロスが現れた。
「なぁ、ミノたん。最後にロイドに言われたこと覚えているか?」
俺はミノたんと向かい合うようにベッドに腰掛けていた。
「マスターが気になっているのは、星痕のことですかな?資格を得たと、ロイドという魔物が言っておりましたな」
「あぁ、そうだ。魔物と守護精霊の違いはその星痕の有無だそうだ。そして始まりの試練をクリアしたものには一つ目の星が与えられると」
帰り際、ロイドが親切にも教えてくれたことがある。
なんでも魔物というのは、レベルが上がるだけではいずれ強さに限界がくるらしい。
そりゃそうだ、ゲームでもレベル上限があるのが普通だもんな。
だから強くなりたい魔物は人間とパートナー関係を結ぶ。そうして守護精霊と呼ばれる存在になると、星痕と呼ばれる痣が身体のどこかに刻まれる。その証が魔物と守護精霊の見分け方とのことだった。
「意識すると、魔物の特定の部位が光って見えるようになったはずとかなんとか言ってたよなぁ•••」
俺はミノたんをガン見した。
何も見えない。
さすがにあの鎧が嘘をつくとは思えない。
俺は更に力を込める。
1分ほど意識を集中した時だった•••
「見える、見えるぞ!」
俺は驚きのあまり叫んでしまった。
ブフォ?
となんだか気の抜ける声が聞こえたけど気にしない。
ミノたんの左頬には元々一本の傷があった。
その傷が白い輝きを放っているのである。
「左頬の傷が白く光ってるように見えるんだ」
俺はミノたんに見えるままを伝えた。星と聞いていたから、ずっと星形のイメージがあった。でも、多分これだと感覚的に分かる。
「なるほど、我が輩の頬の傷にはそんな意味があったのですな」
ブフォブフォ!
と小さな牛は、相変わらず身の丈に合わない大きな笑い声を響かせるのであった。
久しぶりに1話書きましたが、なかなか思うように文章を作るのは難しいですね。
今話はタイトルの意味を回収するお話になります。
次話から物語が進みます。
3層へ向かう主人公、そこで出会う新しい仲間お楽しみください。