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第4話 動く鎧は伊達じゃない 邂逅編

第4話です。

バトルシーン有ります。

気がつくと、俺とミノたんは先が見えないほど奥へと真っ直ぐに伸びる、一本の通路に立っていた。


「草原から急に物騒な雰囲気の場所に飛ばされちまったな。」


「うむ。ですが、この様子だと道に迷うことは皆無ですな。」


慌てた様子も無く、ミノたんが的確に状況を伝えてきた。

呑気で太々しいコイツの性格に、今は助けられる。


一本道は、迷わない代わりに逃げ道もない。

この先にボスがいるのは間違いない。


腹決めて行くぜ…


空とミノたんは進み始めた。






--どのぐらい歩いたのだろうか。



二人の前に巨大な扉が現れた。


「この中にボスがいるんだな。」


空の声は緊張を含んでいた。


「でしょうな。主よ、ボスとやらをさっさと倒してしまいましょう。」


なんて頼りになる相棒だ。


空は苦笑しつつ、ボスの間へと踏み込んだ。







広間の中心に、豪華な椅子が置いてあった。


椅子には漆黒の騎士鎧が腰掛けており、その椅子の周りには剣と盾が無造作に置かれている。


「いやー、やっと来てくれたね。ここには何もないけれど、ボクは君たちを心から歓迎するよ!」


目の前の魔物から、やけに人間味溢れる声が発せられた。


魔物がしたのは声を出しただけ。

だけど、俺はそれだけで分かってしまった。


「ミノたん、ブルホーンだ!!!」


今、不意を突いて殺さなければ、こちらが殺されるであろうことに。


ミノたんも俺と同じ空気を感じとったのだろう。有無を言わさず、全力の突進をぶちかます。




ブルホーンとは、武器を背負い、頭から四つん這いになりながら全力で突進する、牛の突進のような技だ。


ボスに来る前に、試し打ちも兼ねてベビーウルフに放ったところ、一撃で倒すことができた大技だ。

助走をつけるなどタメが大きい技だが、当たりさえすれば致命傷は逃れまいと俺は勝手に思っていた。


ましてや、奴のサイズはパッと見俺より少し大きい程度。2メートルあるかどうかの魔物など、取るに足りないと第一印象から判断したのだが。


「あれれぇ、可笑しいな。ボクの自己紹介がまだ終わっていないんだけど。」


そんな俺達を嘲笑うかのように、ヤツは椅子に腰かけたまま笑った。

兜に表情がある訳がない。

でもその時俺には、ヤツが本当に笑ったかのように見えたんだ。


そして、ミノたんの突進を右腕一歩で受け止め、再び話始めたのだ。


「ボクはリビングアーマーのロイド。巷では絶望を告げる死神なんて呼ばれてるよ。」




なんだこの化物は。


俺は、ヤツとミノたんとの間に圧倒的な力量差を感じてしまった。


だが、ここで負けたら全てが終わってしまう。


あらん限りの大声で次の指示を出す。


「その体勢のままスラッシュだ! どこでもいいから奴を切り払え!」


ミノたんは角をかち上げ、抑えつけていた右腕を跳ね上げる。そして、隙だらけの右脇腹目掛けて全力で大戦斧を振り切った。


「ひゅぅー、やるねぇ。今のは僕でもちょっと危なかったよ。」


いつの間に拾ったのであろう。


ロイドの左腕には、床に落ちてあったはずの漆黒の剣が握られ、またもやミノたんの技は受け止められていたのであった。


二人の力が拮抗し、場が一瞬膠着した。


今しかない。


俺はそう判断し、ロイドへと話しかけた。


「なぁ、あんた。ロイドとか言ったか。俺たちが悪かった。降参するから今回だけ見逃してくれないか。」


両手を上げ、日本式の降参のジェスチャーをしながら伝える。


たった二度の攻防で分かってしまった。

ヤツは全然本気じゃない。

このままでは取り返しがつかなくなる。

一旦逃げなければと。


「へぇ、キミは自分の守護精霊が戦闘中でも勝手に降参しちゃうんだ。」


「俺は自分の命と、そいつの命が大事だ。何と言われようと構わない。」


普段なら割って入るような能天気な相棒も、少しでも力を緩めまいと、ヤツへの全力の打ち込みを続けていた。


永遠にも感じる沈黙。


実際は数秒の出来事だったのであろう。


「よし、合格。」


先に沈黙を破ったのは、ロイドの方からだった。


ヤツは今なんて言った………。


「キミ、思ってることが顔に出やすいってよく言われない?ボクは合格って言ったんだよ。」


ロイドはふざけた調子で俺たちに告げると、ミノたんを軽くあしらい再び話し始めた。





「ボクはこの階を守るリビングアーマーだけれども、実のところ本当の門番、キミたちが言うところのボスではないんだ。」


既に戦闘を終えた俺たちは、ロイドの前に座って話をしていた。


「普段、この広間にはボクの分身体のリビングアーマーがいて、そいつを倒すことができれば合格にしているんだ。そして、新米召喚士が万が一にも殺されそうになった時には、助けに入るのがボク本来の役目というわけ。

もちろん、分身体は能力をだいぶ劣化させているよ。ここでリビングアーマーというボスに打ち勝つことで、召喚士としての自信をつけさせ次のダンジョンへと向かわせるのが真の目的さ。」


「あんたの言っていることは理解できた。でも、行動の意味がわからない。どうして魔物であるあんたがそんなことをする必要があるんだ?」


俺はロイドに疑問をぶつけた。

当然だ。これではまるで、ロイドは命令されてこんなことをやっているみたいじゃないか。それこそ、俺たちのような新米召喚士を心配するおせっかいな誰かに。


「キミ、考えがまた顔に出てるよ?」


そう言って、ロイドは笑った。


兜に表情があるはずがない。

声の抑揚からそう感じるだけだ。

俺は戦闘中にも、同じように場違いなことを考えていたなと、一人で思い出していた。


「とにかく、これ以上詳しくは教えられない決まりなんだ。無いとは思うけど、キミが僕に勝てるようになったら、この話の続きを教えてあげるよ。」


聞きたいことは山ほどあったが、これ以上教えてはくれまいと、沈黙で肯定を示すことにした。


「さて、それじゃあ試験に合格したキミたちに次のダンジョンへ向かう資格を与えよう。さぁ、ボクの後に付いて来たまえ。」


ロイドが立ち上がり、奥の扉へと案内を始めた。


「ロイド殿。そう言えば、さっきの話だと我が輩たちは合格の要素を満たしていないではありませんか?」


道中、俺の相棒ミノたんが疑問を口にした。


思っていても余計なことは言わなくていいんだよ………。


そう思った瞬間、


「キミ、分かりやすいね。」


ロイドが俺を見て言った。


俺は内心の焦りを隠しつつ、


「ミノたん、俺たちは実力で合格した。ロイドさんは仕事が忙しいだろうから、余計な面倒はかけずに済ませよう。」


と適当な言葉で濁そうとした。


「ハハッ、そうだね、目的地まではもう少しかかるから教えてあげようか。」


願ったり叶ったりの状況に、俺とミノたんは素直に頷くだけだった。


「ボクが合格を決めたのは、召喚士を守るため全力でぶつかって来たミノたんくんの勇気と、戦況を冷静に判断して降参の意を伝えたその聡明さに敬意を払ったからさ。」


ロイドが解答を告げてきた。


俺たちが驚いた顔をしていると、


「ボクがここに門番として存在する理由はただ一つ、新米召喚士くんたちの驕りを正すためだからさ。人は他者よりも強い力を手に入れると、自分が突然選ばれた者にでもなったかのように錯覚する。今の自分なら何でもできると思ってしまうんだ。無謀と勇敢は違う。ダンジョンで死ねば遺体も残らない。この先の冒険を少しでも長く生き延びるために、歪んだ心を早いうちから叩く必要があるんだ。キミたちは運悪く、本体のボクがいるタイミングで来てしまったから特に大変だったろう。」


再び予想の斜め上をいく答えが返ってきた。


………労いの言葉付きで。





「さぁ、着いたよ。」


俺たちの目の前に、ここにきた時と同じような魔法陣が浮かんでいた。


「ここを通れば次のダンジョンだ。召喚士の持つ触媒には、ダンジョンの記憶が刻印されることは知っているかな?」


「いや、初耳です。」


今までの話から、俺は先輩に敬意を払う後輩

のような心境になっていた。先輩とはもちろんロイドさんのことだ。口調も自然とそれに相応しいものへと変化していた。


「ここを通ると、キミは新しい呪文が使えるようになっていることを実感するはずさ。ワープと呼ばれるその呪文を唱えると、一度行ったことのあるダンジョンのスタート地点に行くことができるよ。」


「そうなんですね。ありがとうございます。そしたら、今日はロイドさんと別れたら、一度宿屋に戻ろうと思います。」


「それがいいね。先に言っておくけど、もうボクのような役割を与えられたボスがいると思ってはダメだよ。ここから先はキミたちの命が賭け金になる。ゆめゆめそのことを忘れないようにね。」


はい/うむ、と俺たちの返事が響いた。




こうして俺たちは、二日目の目標を無事達成できたのであった。


考えていた構成とは少し変わってしまいましたが、ロイドさんというキャラクターを出すことができました。


バトルシーンを始めて描いたので、少しでもイメージが伝わってくれると嬉しいです。

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