第3話 動く鎧は伊達じゃない 進入編
第3話できました。
空達の冒険スタートです。
宿屋を出た空は、真っ直ぐダンジョンへと向かう。
道中、街中で商いを営む露天商から何度も声を掛けられることになった。
しかし、残念なことに先立つ物が無いこの現状。魅力的な誘いをグッと堪えて、空はただただ前へと足を進めるのであった。
「ようやく着いたぜ。」
空の目の前には、教会のような建物が建っていた。
入り口には門番が二人おり、侵入者に対して見張りをしている。
二人とも熟練の召喚士なのであろう。彼らと共に佇む守護精霊は歴戦の勇者の様な貫禄を醸し出してた。
ダンジョンはゲームのように甘く無い。死んだら二度と帰ってくることはできないのだ。
そのため、覚悟が出来ていない人間や、子供のように力無きものが迷い込まないよう彼らがいる。
また、昔はダンジョンから魔物が街へと侵入してくることが頻繁にあったらしい。
そりゃそうだ、こちらから向こうに行けるのだから、あちらからも来れるのがモノの道理というものだ。
そのため、いつしかダンジョンの入り口を建物で囲い、そこに門番を立てるようになったとアンナさんから教えて貰った。
魔物は強者の気配に敏感だ。
門番の彼らよりも弱い魔物は、基本的に立っているだけで抑止力になっているらしい。
「お疲れさまです!通ります。」
軽く会釈をした後、彼らに向けて指輪を見せる。
特に何も言われることなく、俺はすんなり中へと入ることができたのであった。
建物の中には、杭としめ縄で囲まれた魔法陣が一つあるだけだ。しめ縄には魔物除けの札が大量にぶら下がっており、ここは特別な場所なんだと嫌でも伝わってくる。
外の陽気に反して、この場所は空気が冷たい。墓場や曰く付きの場所で感じる、冷えびえとした独特の空気が漂っていた。
「そんじゃまぁ、今日も張り切って行きますか」
空はこの空気を振り払うかのよう、勢いよく魔法陣に飛び込むのであった。
「サモンミノたん!」
ダンジョンに着くなり、空は真っ先に相棒を召喚した。ここから先は遊びじゃないのだ。
周囲を警戒しつつ、今後の方針を頭に浮かべる。
「ふぅ、ようやく我が輩の出番ですな。」
俺の内心とは裏腹に、呑気な声をあげながら相棒が現れた。
こいつには緊張感というものが無いらしい。
「ミノたん、今日の目標は分かっているよな?」
「もちろんです主様。ここ、始まりのダンジョンのボスである、リビングアーマーとやらをブッ飛ばせばいいのでしょう?」
「あぁ、そうだ。アンナさんの話だと、リビングアーマーとやらは動く鎧の魔物らしい。
何でも、見た目以外にも特徴があるから、会えばすぐにわかるはずと言っていた。」
アンナさんから聞いた話によると、ダンジョンの先に進むためには、ボスと呼ばれる魔物に勝たなければいけないとのことだ。
魔物相手に、勝つという言い回しを使っていたことが少し引っかかるが………。
「とにかくだ。昨日の冒険でミノたんはレベル5になった。俺が知る限り、最初のダンジョンのボスというのは、知名度があるだけで、実力はたいしたことが無いというのが定番だ。」
そこで、降り掛かる火の粉は払いつつも、最短距離でボスへ挑むというのが先ほど立てた作戦である。
この作戦には二つの意味がある。
このハイテンションのまますぐにボスへ挑むことで、メンタル的な不安を感じる前に勝負をかけてしまおうという意味合いが一つ。
これは俺自身の不安から来るものも大きい。
ボスと呼ばれる、得体の知れない化物と戦うことに抵抗が無いわけがない。
負ければ死ぬかも知れないのだから。
ただ、俺の短くもない人生観から、理解していることもある。
目に見えない精神的な壁は、時間が経てば経つほど高く感じ、ひいては挑戦する気力すらを奪ってしまうということを。
だからこそ、俺だけでなく、ミノたんもテンションが高い今が挑戦しどころでは無いかと判断した。
もう一つはミノたんの体力を温存する意味合いである。
どうやら守護精霊となった魔物は、レベルアップした時に怪我などが治る加護を受けるみたいだ。
昨日はそのおかげもあって、連戦しつつもなんとかこの世界の勝手を掴むことができた。
レベルアップという概念は、あくまでも召喚士側にあるだけで、戦っている守護精霊は認識していない。
何故か急にやる気が湧いてきただの、疲れが取れただのと、自覚症状はあるみたいだが。
ボスまでの道中、予想に反して襲って来る魔物は少なかった。
ホーンラビットという、一本角が生えた小型のウサギのような魔物が三体。
ベビーウルフと呼ばれる犬型の魔物が一体。名前からすると、一応狼科に属する魔物なのかもしれないが、見た目はどう見ても小型犬だった。
「よし、着いた。」
草が生い茂る、草原のようなダンジョンの奥地にソレはあった。
青と黒が渦巻く螺旋の紋様。
この風景にはそぐわない、明らかに場違いなもの。
ダンジョンに入る時に飛び込んだ、あの魔法陣に良く似ている。
俺が覚えている入り口の魔法陣は、かなりの大きさで、赤と黒が渦巻く螺旋の紋様だったはずだ。
だが、この魔法陣は色も違うし、サイズも人が一人通れる程度の大きさしかなかった。
「ついにここまで来たな。ミノたん行くぜ!」
空の掛け声と同時に、二人は魔法陣へと飛び込んだのであった。
たった一つ、空達が見逃したものがあった。
魔法陣の横には一本の立て札が落ちていたのである。
人の手か、はたまた魔物の仕業かわからないが、そこにはこう書かれていたのだ。
『新米召喚士の墓場へようこそ』
と。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
第3話でボス戦に突入予定が、描きたいことがどんどん湧いてきて次話に持ち越しになってしまいました。楽しみに読んで下さった方には謝罪致します。申し訳ありませんでした。
第4話は、空達とリビングアーマーとの戦いがメインになります。
リビングアーマーのキャラにも注目しながら楽しんで読んで頂けたら幸いです。