第2話 知らない世界と触れた優しさ
第2話できました。
空が召喚士になるきっかけや、新キャラのキャラクターが伝われば嬉しいです。
窓の外から、聞き覚えの無い鳥の鳴き声がした。
「やべぇ、仕事の時間だ!!!」
俺はいつものごとく、ベッドから跳ねるように飛び起きた。
眠りから目覚めるこの瞬間には、睡魔と言う名の魔物が住んでいると思う。
だからこそ、魔物の誘惑を振り払うかのように、勢いよく起きるのが寝坊しないコツだと長年かけて分かったのだ。
「……あっ、俺もう無職だったわ」
昨日まで、俺はどこにでもいるフリーターだった。
それが突然、異世界に来て召喚士とやらになった。
召喚士ってフリーターよりは上位だよな?
そんなどうでもいいことを思いつつ、空はまだまどろみの中にいるのであった。
小柄な牛人の魔物と一緒に冒険する夢。
確か俺はミノたんとかいう、よくわからない名前で呼んでいたっけな。
初めて他の魔物を倒した瞬間を思い出すだけで、ドキドキして、胸が熱くなる。
まるで自分が、ゲームの主人公になったかのようだった。
あれは本当に現実だったのかと、一人物思いに耽ていると、左手の小指に夢で見た指輪があることに気付いた。
「あいつを呼ぶにはどうすんだっけかな」
「マスター、『サモンミノたん!』と力の限り呼べばいいのですよ」
俺の独り言に、間髪入れずに渋い声が返答した。
これだけで、昨日のことが現実だったと実感する。
「サンキューミノたん! これは夢かと思って、少し混乱していたところだったぜ」
「それは構いませぬ。主よ、昨日我が輩を連れ出すにあたって、一つ約束してくれたことを覚えていらっしゃるか?」
「あぁ、もちろんだとも。お前は他部族に尊敬され足る族長になるだけの力を身に付けたい、俺はこの世界で何かを成し遂げたい。その手始めに、闘技場で優勝することに決めたんだよな」
俺が自信たっぷりに答えると、自分の望む返答があったことに、ミノたんも満足しているようだった。
「そうです。まずは手始めに、あのダンジョンをサクッとクリアしてしまいましょう。まぁ、我が輩とマスターにかかれば余裕でしょうがな」
ブフォブフォ!
などと独特の笑い声まで聞こえてきた。
「おし、腹が減っては戦はできぬ。とりあえず飯食いに行こうぜ相棒!」
そう言って、俺たちは食堂へと向かうのであった。
食堂へ着くと、既に先客が数人食事をしていた。
「この世界の人はみんな早起きなんかね」
そんな独り言を呟くと、
「あんたも十分早いわよ、ツンツン頭の召喚士さん」
カウンターの奥から女性が出て来た。
「女将さん、おはようございます。昨日は右も左も分からない俺を拾ってくれて、本当にありがとうございました! おかげでなんとか帰ってこれました」
「見れば分かるわよ。とりあえずお座り」
愛想の良い笑顔を浮かべ、こちらに目配せをくれる年配の女性。
彼女はこの街で一番人気の宿、『心の安楽亭』の女将であるアンナ=ヒューリーであった。
見た目は50代ぐらい。詳細は不明。
どっしりと構えた雰囲気から、そんじょそこらのことには物怖じしない豪胆さが伝わってくる。
歯に衣着せぬ物言いと、我が子を心配する母のようなフレンドリーさから、大好きな女将さんランキングナンバーワンに毎年選ばれているとかいないとか。
「いやいや、ウチは宿屋だからね。お客さんをもてなすのは、きっちり対価を貰っているから気にしなくていいんだよ」
俺は文無しだ。
昨日彼女にお世話になったのにも関わらず、まだ何も支払えていない。
俺を気遣ってくれる、アンナさんの優しさが伝わってきた。
「路頭に迷っていた自分に道を示してくれて、更にご飯まで食べさせてもらったこと。俺はこの恩をきっと一生忘れません。今日から本格的にダンジョン攻略していくつもりなので、何か必要なものがあれば取ってきましょうか?」
一宿一飯のお礼から、俺は自分に出来ることはないかと提案する。
「はっはっはー、駆け出しの癖におばちゃんに手土産まで持ってきてくれるつもりなのかい?その気持ちだけで嬉しいから、また無事に帰っておいで」
俺の発言がツボにハマったのか、彼女は心底面白そうに笑っていた。
「とりあえずこれでも食べな。今日もダンジョンへ行くんだろう」
そう言って朝食を用意してくれた。
--アンナさんは、初めて会った時から優しかった。
自室で指輪をつけた後、気付いたら俺はエルドラドにある街の一つ、【アルベリオン】という所に飛ばされていた。
ここは何処だと戸惑っていたら、突如髭面の爺さんが現れ、手慣れた様子でガイドされたのであった。
なんでもこの世界では、召喚士と呼ばれる職業が一番カッコ良くてやりがいがあるとかないとか……。
召喚士は誰にでもなれるわけではなく、魔物を守護精霊として使役するための触媒が必要だそうだ。
俺の持っている指輪も、その触媒の一つに当たるらしい。
爺さんは言った。
「こりゃ、お主はもう召喚士になるしかないな。そんな駆け出し坊やには、ワシが最初の相棒をプレゼントしてやろう。ほら、この三匹の中から好きなやつを選ぶがいい」
急展開に、ついていくのがやっとだった。
そんな俺に、初パートナー選びという重要イベントが突然やってきた。
爺さんの手には、赤、緑、青色の三者三様に輝く小さな宝石があった。
どうやら話の流れから察するに、この宝石の中に相棒となる魔物が封じ込められていているようだ。
俺は少しだけ考え、赤の宝石を選んだ。
「ふむ、差し支えなければ、どうしてそれを選んだのか教えて貰えないじゃろうか?」
爺さんの眼差しは、軽い口調とは裏腹に真剣そのものであった。
「信じて貰えるか分からないけど、俺はこいつから声が聞こえた気がしたんだ」
赤い宝石を空にかざしながら、俺は事も無く告げた。
「宝石が喋るわけないと俺も思う。でも、確かに聞こえたんだ。我が輩を選んでくだされという、祈りのような声が。だから俺はコイツに決めた。あとはまぁ、レッドは戦隊モノのリーダーだからな。俺もこの世界で主役になりたい」
最後の理由は、咄嗟に出て来た言葉であった。
今になって考えると、あの言葉が俺の行動原理になったのかもしれない。
異世界で物語の主役になるような活躍をしたい。そんな子供じみた英雄願望が……。
「そうか、そうか。お主には聞こえたか」
ボソリと爺さんが呟いた。
「爺さん、今何か言ったかい?」
「いんや、お主の気のせいではないかい。ではこれにて召喚士としての適性試験を終えるとしよう。その宝石にはベビータウロスという魔物が入っておる。パートナーとして大事にしておくれ。」
そう言い残し爺さんは去って行った。
「おう、大切にするぜ!」
なんて大層なことを言ったけど、爺さんがいなくなった後、この宝石の使い方を聞いていないことに気付いた。
急いで後を追ったが見つからず、どうしたもんかと街をウロついていたところをアンナさんに拾われたのであった。
アンナさんには、飯を食わせて貰いながら、召喚士としてのイロハを教えて貰った。
彼女も以前、召喚士としてダンジョンを冒険していたことがあるとのことだ。
俺が貰った宝石は、魔法石と呼ばれる貴重なものらしい。
魔物を倒すと、稀に魔石と呼ばれる石に変わることがあり、その魔石の中に消えゆく魔物の強い思念が入ることで、召喚士が魔法石と呼ぶ結晶に変わる。
魔法石の中には魔物が封じ込められていて、俺の持つ指輪のような触媒を使うことで顕現させることができる。
顕現させるには、一度消え去った魔物の魂をこの世に繫ぎ止めるため名前をつける必要があるとのこと。
「なるほど。アンナさんの説明はだいたいわかりました。その名前付けというものをコイツにしてやれば、俺の前に姿を現わすってことで間違いないですかね?」
「それで間違いないよ。爺さんはその子をベビータウロスって呼んだんだろ? 多分ミノタウロス族の魔物が入っているはずさ。あんたの召喚士としての初仕事だ。良い名前をつけておやり!」
「ミノタウロスって、確かあれだよな」
この世界にくる直前に食べた晩御飯は、某牛丼チェーン店の牛丼だった。なぜか今、そのお店のデフォルメされた可愛い牛のキャラクターが頭に浮かんだ。
「決めた。こいつの名前はミノたんだ!」
俺が叫ぶと同時に、アンナさんは苦笑した。
俺の相棒は、こうしてミノたんという名前になった。
魔法石からミノたんを顕現させた後、この世界のことや召喚士としての目標、それに指輪の使い方などをアンナさんから教えて貰った。
「習うよりも馴れろ。まずはダンジョンに飛び込んでごらん。だけど、今日は絶対に一階層より先に進まないこと。ある程度冒険したら、今日は必ず帰ってくること。この二つは約束しなさい」
俺は二つ返事で頷くと、早速ダンジョンに挑戦したのであった。
食べ終えると、俺は出掛ける前の挨拶をアンナさんにした。
「それじゃあ、ちょっくらボス退治に出掛けてきます。土産は俺で!」
「あぁ、行っておいで!今晩のお代は、それで勘弁してやるからね!」
商売人とは思えぬ発言に、今度は俺が笑いだす番だった。
アンナさんのおかげで、異世界二日目の朝を最高の気分でスタートすることができた。
空はダンジョンに向かう途中、優しい女将さんの笑顔を何度も思い出したのであった。
第2話でダンジョン探索が始まる予定でしたが、アンナさんをもっと書きたくなってしまいました………。
次話からついにダンジョン探索に入ります。構成はできていますが、描写が難しくなるので上手く伝えられるか心配です。
過去に掲載したお話は、新しいお話を書く際に見直したりしますので加筆修正する可能性が高いです。活動報告に記載しますので、話が上手く伝わらなかった時は見返して頂ける幸いです。
第3話 動く鎧は伊達じゃない 仮
どうぞお待ちください。