2. 魔法教育
胸に赤いリボンを留められて、体育館に端正に並べられた椅子のひとつに腰掛けて、俺は校長に生徒会長、新入生代表の挨拶を聞いた。
それらはどれもがありきたりで、魅力もなければ当たり障りもない、面白みがなく、かつ長ったらしいものものだった。
そして体育館でしばしの惰眠を貪ったのちに一年のクラス分けがあって、教室に入ってみると見知った顔はなかった。
自分の中学時代の友人で反ケ滝高校を受験したのは俺だけだった。
もしかしたら俺が知らないだけで、同じ中学から何人かこの高校に来ているのかもしれないが、少なくともこの同じクラスにはいないようだ。
そしてこの新しきクラスメイトたちはみる限り普通そのものだった。
いくらか垢抜けていて賑やかに話す者もいれば、その側で我関せずと本を読んでいる者もいる。
その乱雑さこそが、この反ケ滝高校がただのなんの取り柄もない、普通の学校なのだという何よりの証拠だろう。
だからこそ。
だからこそ、これから1年間我々1年3組を担当する白鐘教諭が入って来て、時間割表を配った時に見事に言葉を失ってしまった。
『時間割
月 火 水 木 金
1 基礎魔術I 美術 体育 物理I 禁書
2 数学I 美術 基礎魔法陣 基礎魔術I 地学I
3 体育 国語 数学I 体育 数学A
4 魔術実習I 物理I 英語I 国語 英語I
5 音楽 化学I 魔法史I 化学I 決闘実習I
6 国語 地学I 魔法陣実習 数学A 決闘実習I
7 自習・HR 生物I ルーン 魔法具 決闘実習I 』
国語と英語以外の文系科目がほとんどないとか、毎日7時間授業とか、それ以前に目を引く科目がいくつもある。
基礎魔術、魔術実習I、基礎魔法陣、魔法陣実習、魔法史I、ルーン、魔法具に禁書。そして金曜の午後をまるまる使っての決闘実習ときた。
この時間割のどこが普通の学校だというのか。
……全く。
つい先ほどまでに感じていたこの学校に対する評価が、俺を取り巻くクラスメイトたちへの見方が一気に反転してしまった。
彼らは俺と違って、誰一人としてこの時間割に驚いていない。
俺以外の生徒たちは皆、入学する前から知っていたのだ。
この学校が、魔法を教えるための学校である、と。
魔法学校というのであれば、入学する前の幾らかの不自然な出来事も、もしかしたら魔法学校で済まされてしまうのかもしれない。
もしかしたら、全く別の……、叔父のせいかもしれないが。
しかし、それらはこの際忘れてしまうとして。
……やはり叔父は俺を魔法使いにするつもりだったのだ。
自分の遺したいくつかのものを俺に処分させるために。
そして何よりもアレを守りきるために。
それを叔父は生前から強く望んでいたのだから。