銅から銀へ
もう疲れ切っていたが、容赦なしのインタビューが立て続けにあった。
今まで大したサポートもしなかった大河原コーチが、人が変わったように愛想よくテレビ局の人と応対している。
質問は、同じことばかりだ。
今の気持ちとか、誰に感謝しているとか、ぶつかりそうになった時どう思ったかとか。
大河原さんに「もう帰ります」と言ったら怒り出した。
「テレビ局の取材がまだ二本残っている。腹が減っているんだったら、後でサポートセンターでたらふく食わせてやる。もう少しがまんしろ」
「もうすぐ表彰式ですが、それはキャンセルしていいんですか」
「ああ、それは、・・・忘れていた。なんで早く言わん」
頭に来たが、マラソンの表彰式が行われるスタジアムへ急いだ。
閉会式直前にメダルの授与がある。
やっと着いて、時間通りに表彰式があると思っていたのに、なかなか始まらない。
閉会式準備のため、フィールドでは大勢の人が機材を持って走り回っている。
観客席も八分くらい入っていて、華やかな雰囲気が盛り上がりつつあった。
由佳たちは閉会式のチケットが取れなかったので、ホテルのテレビで見ると言っていた。
淳一も閉会式には出ず、表彰式後ホテルに向かうつもりだった。
今朝、『ザ マル』のスタート地点で彼女と別れたきりだ。
早く会いたい。
待機部屋には、1位と2位の選手はいなかった。
フィールドが見える部屋にいるのも飽きて、トラックの端に座り込んだ。
そのうちに何となく座禅の姿勢になり、目を閉じた。
走るのを妨害されたのは悔しいし腹が立つ。
でもその前にあいつを抜いとけばよかったのだろう。
結果がどうあれ全力は出し切った。
やるべきことはやった。
彼女に渡せるメダルがあってよかった。
目を開けた。
金メダルは取れなかった。
けれど自分自身の課題をやり遂げた気がする。
この結果を由佳は喜んでくれると思う。
早く君にメダルを見せたい。
そして力いっぱい抱きしめたい。
30分遅れても、まだ表彰式は始まらない。
夕闇が近付き、巨大な会場は人で埋まっていた。
セレモニーの準備も終わり、もうすぐ閉会式が始まる時間になっている。
そこにフィールド種目担当のコーチが走って来た。
「ここにいたのか。確かに待ちくたびれたろう。いい知らせだ。2位の選手が君を妨害したことをIOCに抗議してね、さっきやっと決まったよ。1位はそのまま金メダル。2位選手の君への妨害行為が認められ、彼は失格した。銀メダルは君に繰り上がり、銅メダルは4位だった英国選手になったんだ」
2位の銀メダルか。
今となってはどちらでもいいような気がしてきた。
電光掲示板にマラソンの順位と名前が映された。
3位イギリスと表示された瞬間、場内に大歓声がわき起こった。




