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君とオリンピックに行きたい  作者: 友清 井吹
93/137

妨害じゃないのか?

ウォータールー橋近くで、残り2kmの表示が見えてきた。

ウエストミンスターブリッジで左に曲がると長い直線がある。

決めた。

あそこでダッシュだ。


給水所にはもう誰も近寄らない。

ビッグベンが見える90度のカーブが終わった途端、スパートをかけた。

3位の選手を抜いた。

ついさっきまでトップを走っていた選手だ。


後はゴールに向けてまっしぐらだ。

前には二人だけ。絶対追いつく。

そして抜いてやる。


そこで意外なことが起きた。

突然、緑色のシャツを着た選手が、目の前に現れた。

何でだ?

道は直線でこんなに広いのに。


左に寄ってすり抜けようとしたが、また前に来る。

おまけに手の振りを大きくして、近寄ると当たりそうになった。

右に行こうとすると、また寄ってくる。

横目で、淳一の動きを見ながら反応しているようだ。


これは妨害じゃないのか?

左に移動して、そのまま突っ込むように突き進んだ。


バッキンガム宮殿を左に見る最後の右カーブ。

大歓声が聞こえる。


先頭はすぐそこだ。

あと少し。

もう少しだけ頑張れ。


500mの直線路を真っ直ぐ走る。

向こうにフィニッシュ地点が見えてきた。

先程の選手が、進路を塞ごうとするようにまた近づいてきた。


この野郎!

猛然と右に寄ってダッシュ。

もうぶつかっても構わない。

実際、肩が触れ合った。

そいつと二人、肩を並べながらフィニッシュラインになだれ込んだ。


電光掲示板は2時間8分5秒34で止まっている。


3位か。


先頭の選手と10mの差。

1秒少しの差だ。


わずかに俺の邪魔をした選手が速かったようだ。

女性の係員からタオルを渡されたが、呆然として動けなかった。


こんな終わり方ってあるのか?

その場にしゃがみこんだ。


1位、2位の選手が抱き合い、大きな緑の国旗を頭の上にかかげて走り出した。

俺は3位で銅メダルか。


いつの間にか現れた大河原さんから、大きな日の丸を受け取った。

広げて喜ぶ気にはなれない。


ゆっくり観客席に目を向けた。

足を引きずりながら由佳を探す。

探していると涙があふれ出てきた。

紫色の幕のすぐ上に、日の丸を持つ由佳を見つけた。


また大歓声が起こった。

振り返ると、4位のイギリス選手がフィニッシュをしたようだ。


唇をかんで、由佳を見つめた。

涙が止まらない。

あんなに走ったのに、まだ水分が残っているなんて。

日の丸を肩にかけて、手話をする。


「僕は負けた。君があんなに助けてくれたのに勝てなかった。本当にごめん」

彼女も泣いていた。

泣きながら頭を左右に振った。


「あなたは勝った。みんな知っている。本当はあなたが一番」


涙で彼女がぼやける。

悔しいし、悲しい。


「僕の頑張りが足りなかった。3位ではだめだ。君に謝る。本当にすまない」

彼女は首を横に振り続けた。


「何位でもかまわない。私はあなたを誇りに思う。あなたを愛している」


周りの観衆が、二人の手話に気付いた。

最初に由佳の近くにいた人たちが、ゆっくりと拍手を始めた。

それがだんだん周りに広がっていく。


彼女の母親が、泣いている由佳に周りを見るよう促した。

彼女も視線を上げ、周囲の人が自分達に拍手をしてくれているのに気付いた。


涙をぬぐい、観客に向かって、何か短い手話をした。

最後に、その場を離れる淳一に小さく手を振り続けた。



美智子は由佳の手話が分からなかった。

「さっき手話で、何を伝えたの?」

「イギリス手話で、アイ ラブ ロンドン。でも誰も分からないと思う」


確かにその場の人たちは分からなかったかもしれない。

しかし・・・




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