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君とオリンピックに行きたい  作者: 友清 井吹
92/137

入賞じゃだめだ

10km地点を通過。

まだ4分の1だ。


日本人選手は3人とも2位集団にいる。

先頭集団とは10秒位の差だ。


ロンドン橋が見えてきた。

橋の中ほどに巨大な五輪がかけられている。

新旧の不思議な取り合わせだ。


先頭が入れ替わった。

今度はアフリカ勢だ。

速い。ぐんぐん飛ばしている。

ついていくか迷った。

キロ2分40で最後までいけるはずがない。


彼らが必ず落ちてくる保証はないが、後1周はこのままでいい。

自信はないが、多分大丈夫だろう。


左にテムズ川を眺めながら走っていると、大きな公園が近づいてきた。

ここの給水所でスペシャルドリンクを取る。


ペットボトルに『YUKA』のロゴがあるからすぐわかった。

今朝作ってくれたが、少し酸味が強い。

中身は、レモンソーダや蜂蜜が入った由佳特製ジュースだ。

半分飲んで道端に転がした。少し元気が出た。


森藤さんが水を頭にかけている。

まだそんなに暑くは感じないのに。


淳一に気付いてペットボトルを渡してくれた。

首のあたりに水をかけ、彼の背中を見て走る。


しばらくすると、森藤さんがスピードをがくんと落とした。

どうしたんだ?

今回一番期待されていたのに。

彼の横をすり抜けて走る。


セントジェームズ公園に戻って来た。

後2周だ。

観覧席の彼女を探す余裕はもうない。

でも君は絶対俺を見てくれている。


先頭は100m先。10何秒かの距離があいてしまった。

直線コースで少し詰めよう。

テムズ川から左に折れた時、今度は高井さんが落ちてきた。


まだ半分来ていないのに、俺が日本人トップになのか。

二人ともどうしたんだ?


今のところ周りはアフリカ勢ばかり。

2位集団の先頭辺りにいる。


石畳に入ると足の感触が突然変わり、地面が固く感じる。

人見さんにクッションをやや厚めにしてもらったシューズを履いている。

効果があると信じよう。


カラフルな店のすぐ横を走る。アーケードの中を走るのは新鮮で楽しい。

二度目だから先程見た景色を覚えている。


日の丸は思ったより多く、日本人らしい子供がたくさん応援してくれているのが不思議だ。

そうか。日本人学校の子か。


ロンドン橋近くの給水所。先頭が給水にミスったのか、少し後戻りしたように見えた。

チャンスだ。

ここでピッチを上げよう。

スペシャルドリンクを取らず、エイドの横を走り抜け、一気に3人抜いた。


先頭集団にようやく追いついた。

問題は、どこまでくらい付いて行けるかだ。

びわ湖マラソンでも、アフリカ勢に追いついたものの先頭の二人は抜けなかった。

今十位以内に入っているはずだ。

前方には2時間3、4分台の選手ばかりが走っている。


追いつけるか?


ロンドンアイを正面に見て、2周目が終わりつつあることを確認した。

給水所でストロー付きのドリンクを取る。

『YUKA』の文字が目に入る。


そうだ。

由佳に向かって走ろう。

一口飲んでからピッチを上げる。


『ザ・マル』のスタート地点を通過。

歓声が大きくなる。


由佳、見てるよな。

もう俺は前しか見ない。


この直線コースで仕掛けよう。


先頭集団に追いつき、一気に追い越そうとした。

スパートをかけたのは淳一だけではなかった。

2,3位の選手も飛び出し、1位選手と入れ替わっていた。

ゼッケンは同じ柄なので、彼ら二人は同じ国か。


俺は今まで先頭を独走していた選手のすぐ後ろ、つまり4位を走っている。

最後の3周目だ。


道幅が狭いからかテレビ中継は全てバイクだ。

後ろに乗っている人が立って撮影している。

今、真横から撮影しながら走行している。俺がアップされているのか?


でも気になんかしていられない。


足はまだ大丈夫だ。

右足のかかと付近に違和感はあるが、そんなものはどうでもいい。

呼吸はかなり苦しい。

顔がゆがんできたのが分かる。


ずっとキロ三分は切っているはずだ。

高速レースにここまでついてこれた。

後はゴールまでに最低一人を抜かすことだ。


フィニッシュしてから由佳のところに行く。

そこで力いっぱい抱きしめたい。

10位や20位になんか絶対ならない。


テムズ川沿いの大きなカーブも4人だけで突っ走る。

順位は変わらない。

どこかでスパートをかけないとこのままでは4位になってしまう。


入賞なんかじゃだめだ。

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