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君とオリンピックに行きたい  作者: 友清 井吹
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さあ、行くぞ!

由佳と手をつなぎ、マラソンコースを歩いた。

およそ日本ではありえないコースだ。

アーケードのある商店街の中を走るのか。


渡英する前におかしな新聞記事を読んだ。

日本選手が有利な点として、コースがややこしいのでアフリカ勢は迷うかもしれないと書かれてあったのだ。

笑ってしまう。

冗談でもあの俊敏な選手たちが、こんなコースで間違うはずがない。


3人のマラソン選手が、そろって合同の記者会見。

予想通り、大河原さんに遅すぎるとものすごく文句を言われた。

淳一のせいで新聞やテレビ局を待たせて困ったそうだ。

それがなんだ。


記者からの質問は、先輩二人に比べて実績のない淳一はいつも後回しだった。

何か聞かれたら答えは決まっている。


「先輩の背中を見ながら走ります。できれば入賞を目指します」

そんな訳ないだろう。


スタートは午前11時。日本時間は19時。

召集時間前まで、スタート地点近くの路上で由佳と二人でいた。

タオルを頭からかぶりマッサージを受ける。


「ありがとう。行くよ」


タオルを彼女にもかぶせ、最後のキスをする。

彼女の息や鼓動を感じながら、再度決意を固めた。

絶対1位になってやる。

金メダルを彼女の首に掛けてやる。


ロンドン時間8月13日、午前10時半。

バッキンガム宮殿前のスタート地点、『ザ・マル』に選手がそろった。


道は広く、街路樹の緑がきれいだ。

多くの選手が、最前列にポジションを取ろうとしている。

全部で百人余りが今日のライバルだ。

この数ならどこからスタートしても同じだ。


広い直線道路の両側には、英国旗が数えきれないくらいつるされている。

バナーも観客席前の紫の布もここの風景に溶け込んでいるようだ。

道路のあちこちには、ベレー帽に迷彩色の軍服を着た兵士の姿が目立つ。

やはり日本とは違うな。


由佳は左側の有料観客席にいて、岩手の小学生が書いた日の丸を持っているはずだ。

今日は走っている途中に何回も君に会える。


さあ行くぞ!

両手で顔を思い切りたたいた。


午前11時。号砲の音が鳴り響いた。

巨大なビクトリア女王記念碑が見送ってくれる。


最初からペースが速い。

人数の割に道幅が広いので、どの選手も思い切り飛ばしている。

これではキロ3分なんかで走ると置いていかれてしまう。

ついて行くので精いっぱいだ。


次に大きな公園の周りを1周する。

道がカーブする時、足を踏まれないように外側を走るようにした。


トラファルガー広場を右折する。

先頭集団の中に、サングラスをしている高井さんと森藤さんが見えた。


今日もサングラスは持ってきていない。

自分の目でランナーを、景色を、そして由佳を見てやる。


薄曇りの天気で、暑いどころか初めは肌寒く感じた。

女子が走った日は、雨の中でとても寒かったと聞いた。

この時期としたらマラソン日和だな。


巨大な観覧車のロンドンアイが見えてきた。

明日、由佳と行く予定だ。


テムズ川を左に見て、国会議事堂の横を直角に曲がる。

カーブが多い分、好記録は望めないかもしれない。

左にウエストミンスター寺院が見えてきた。

どの建物も妙に先端が尖った装飾が多い。


セントジェームズパークに差し掛かっても同じペースで走り抜ける。

ともかく今日は順位だ。

今はこのままみんなに合わせよう。


またスタート地点に近づいてきた。

集団の真ん中辺りにいるが、まだ焦ることはないだろう。


左の観客席に、小さな日の丸を振る由佳と母親が見えた。

あそこだ。

由佳の顔は一瞬しか見えなかったが、場所が分かって安心した。

でも勝負はまだまだこれからだ。


5km地点通過。

右に見えるテムズ川に沿って走る。

川からの風を感じながら走る。


そこを過ぎてから、いよいよややこしい迷路みたいな石畳の道に入った。

ここでペースを上げたかったが、道が直角に折れ曲がるので、逆にスピードが落ちた。

キロ2分50は難しいな。狭い道なのに両側の建物が高いので圧迫感がある。

右左とよけながら二人抜いた。


ようやく先頭集団が見える位置にたどり着いた。

今3位集団くらいだが、先頭とそんなには離れていないはずだ。

先輩二人の背中は30mくらい先に見えている。


セントポール大聖堂を過ぎた頃、誰か一人が飛び出した。

やっぱりいたな。

小柄な白人のように見えた。まだ早すぎるだろう。

つられて全体のペースが速くなり、狭い道を猛スピードで走り抜ける。

まるで短距離走だ。


昨日彼女と見たロンドン塔が見えてきた。

ここも明日行くことになっている。

気持ちよくデートができるよう、いい結果を出したい。


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