バイトデビュー
月曜日の全校朝会で、校長が駅伝大会の選手10人の選手の頑張りを讃えた。
ライバル校の伊吹西に勝ったので、次は勉強でも負けるなと締めくくる。
淳一や野路については何も触れなかった。
まあ目立たない方がいいけれど。
教室に戻る時、角谷麗奈からコンビニに行かされた女子に出会った。
淳一から話しかけた。
「あの時ごめん。わざわざ買いに行ってもらって」
彼女は真っ赤になってうつむいてしまい、周りの女子からつつかれて冷やかされていた。
意味が分からん。
そこへ担任の新藤先生がやって来て、校長室に連れて行かれた。
初めて入る部屋には、校長の他に二人の男性が待っていた。
「君が倉本君か。駅伝では素晴らしい走りだったな。従来の記録を大幅に縮める堂々の区間新記録だ。13人ごぼう抜きとはすばらしい」
年配の男性から名刺を受け取った。
「私は甲陽大学陸上部監督の林です。そちらは阪神体育大の吉沢先生。大学進学のことなんぞ、まだ先と思っているだろうが、君のようなアスリートはほっとけんからね」
若い方の先生が握手を求めてきたので、仕方なく手を出した。
「今後走っていく上で、困ったことがあれば力になるよ。君は水泳部だったな。日程が許せば、陸上の大会にも参加してくれ。顧問の先生にも話をつけてあるから」
新藤先生が話に割り込んできた。
「倉本は勉強もよくできます。今度の期末、学年で5番でした」
まだ結果をもらっていないのにばらすかなあ。
休み時間、野路がやってきた。
「なあ倉本。もうすぐ冬休みやろ。なんか予定あるんか?予備校に行くとか」
「まさか。大掃除とかの家事はあるけどね」
「じゃあバイトデビューしようや。お前やったことないやろ。金だって欲しいやろう」
「それは、まあ当然ほしい。でも学校はアルバイト禁止じゃないのか?」
「みんなやっているよ。安心安全で、俺らにぴったりのバイトがあるからやろう」
それは年末年始の郵便配達。
額はしょぼいが、渋る親も説得しやすいと言われた。
その日のうちに本局まで面接に行ってアルバイトを決めた。
親の承諾書を自分で書き、連絡先は野路の携帯番号を書いた。
終業式の日から毎日郵便局の本局で勤務をする。
正月から5日までは年賀状の配達だ。
仕事は思ったよりきつかったし、覚えることも多くあった。
年賀状の配達は、自転車だったので、ものすごく疲れた。
でも汗を出して稼いでいるという気分はよかった。
どうせ正月は、勉強や読書以外することもない。
最後にもらったのは、手取り5万8千円。
「あれだけ働いたのに割に合わん」
野路はぼやいていたが、淳一にとっては最高にうれしい報酬だった。
3学期に入り、駅に置いているアルバイト情報紙を見て、引越し会社に公衆電話から応募をした。
毎週の土日に仕事を入れ、たまに夜遅くなることもあったが、弁当や割増金をもらえるのがうれしかった。
郵便局より時給はよかったが、次の日に疲れや肩の痛みは残る。
金は貯まったが、勉強時間は減ってしまった。




