香奈さんとの再会
ユニバー記念競技場で行われる県の陸上競技大会に出場した。
この大会に六甲大陸上競技部部員は、ほとんどがエントリーしている。
淳一は一万mグランプリに招待された。
スタートは18時。
先程行われた一般男子の400mリレーは盛り上がり、大声で声援を送った。
惜しくも六甲大は実業団チームにかわされたが2位になった。
由佳は、17時を過ぎてから応援に来るとメールがあった。
その後久しぶりにデートの予定だ。
淳一を見付けた高校の陸上部員が、一緒に写真を撮りたいとひっきりなしにやって来る。
笑顔で応じながらも、目は由佳を探していた。
隣に誰か座ったので、やっと着いたのかと思った。
「倉本君、次、出るのね」
橘香奈さんだった。首にコーチ・監督証のカードを掛けている。
薄く化粧もしていて、思わず横顔に見とれてしまった。
女性はどんどん変わっていくんだな。
「私、高校の陸上部の練習を手伝っているの。倉本君、母校のチームを応援してくれた?」
「マイルだったかな。1600mリレーは見たよ。君が頑張っていた姿を思い出した」
「よかったのはあの時だけ。あのね、倉本君がオリンピックに出ることが決まってから、私にまで取材があってね。君が高校の時の彼女かって聞かれたけど、まさかね。違うって答えた」
少し返事をするのに困った。
「高校では君に助けてもらってばかりだった。あの時、素直に君の気持ちを受け入れていたら、あんなにしんどくなかったかもしれない。俺は、何も分かってなかった。君にも悪いことをしたな」
「そんなことないよ。私ね、三上さんから倉本君のことよく教えてもらってるの。高校生の彼女がいるんだって?」
「今年専門学校に入った。彼女というよりコーチかな」
「私もね」
よく覚えている恥ずかしそうな顔になった。
「倉本君のようにかっこよくも賢くもないけど、陸上をやってた人と付き合っているの。今どこかで私たちを見てやきもきしているわ。でも私にはお似合いかな」
「俺の知っている人?」
「さあ、どうだろう。でも今日会えてうれしかった。頑張ってね。応援しているから」
何とも言えない、やるせないような気持になった。
手を差し出すと軽く握ってくれた。
そのまま、しばらくお互いを見つめ合った。
香奈さんの目が潤んできたように見えた。
彼女の方から手を離し、振り返らずに行ってしまった。
彼女の後姿を目で追いながら思った。
こんな終わり方でよかったのだろうか。
もう一つ思った。
女性と言葉だけの会話をするのは、こんなに楽だったのか。
グランプリ一万の召集時間になった。
由佳と会えないまま召集場所に移動した。
どこかで見ているだろう。
夕闇が迫り照明が灯される。
選手紹介で淳一が手を挙げると、大きな拍手や歓声が起こった。
号砲で31人の選手がスタートした。
今から400mトラック25周の長丁場だ。
招待されたアフリカ人選手の3人は、予想通りスタート直後からとばしている。
多分彼らは、キロ2分50秒前後で一万の前半を走る。
日本人がついていけなくなったところでペースを落とし、ラスト5周辺りで彼らだけでトップ争いをするだろう。
最後まで彼らに付いて行くのが今日の課題だ。
10周までは真ん中辺りに位置し、13周目で先頭集団に追いついた。
一位選手のラップタイムは電光掲示板に表示されているから、プラス4、5秒が自分のタイムだ。
流されている単調な音楽のリズムに合わせ、同じペースで走ることを心がけた。
メインスタンド前を走る時、観客席に目を向けた。
スタンド全体が日陰になりよく見えない。
由佳は、どこかで見てくれているはずだ。
先頭集団のアフリカ人選手の順位が、何度も入れ替わっているのが見える。
そろそろトップをめぐる攻防が始まったようだ。
ラスト1周。
鐘が鳴った。
5位に着けていたが、そこからスパートした。
先頭は100mも先にいて追いつけるはずがない。
2位狙いだな。
一人抜き、二人目に追いついた。
3位でフィニッシュラインを越える。
タイムは27分58秒。やっと28分が切れた。
トップのケニア人選手とは、20秒差もある。
まだまだだな。
表彰式が終わり、部のミーティングも済ませたが、まだ由佳には会えない。
今日は思い出のファミレスで食事をするはずなのに、用事でもあったのかな。
メールが来ていた。
「女の人と長いこと話しているから近づけなかった。うれしそうに手を握りあっていた。あの人と好きな所に行けばいい」




