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君とオリンピックに行きたい  作者: 友清 井吹
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オリンピック最終選考レース

3月4日、日曜日。

昨日は好天気で春の兆しすら感じたのに、今日はどんよりとしていて寒い。


東田と待ち合わせ、新快速に乗った。

電車の中で、由佳が看護学校に合格して入学金を払い込んだ話をした。


「もしもの話、俺がロンドンに行けるようになったら、彼女は俺のサポートのため、学校をやめるか休学するかもしれない。そしたら入学金が無駄になってしまう」

彼は声を出して笑った。


「彼女が君のコーチだということがマスコミに知れたら、学校が彼女をやめさせるはずはないよ。すごい宣伝効果だ」

マスコミの影響ってそんなに大きいのか。

要するに俺が頑張れば解決か。


「倉本君は、前世紀の遺物で本の虫だろう?今までどんな本を読んできたの?」

「中学の時は、家に日本文学全集というのがあって、意味がわからんまま読んでいた。高校では、図書室にあった西洋文学、といっても推理小説も含めてだけど、主にイギリスとアメリカの小説ばかり読みあさっていたな。今はロシアと中国、それに日本の古典を読んでいる」


「僕なんか、高校では東野圭吾と有川浩くらいしか読んでいない。中国の古典といえばマンガの『三国志』しか知らん。よくそんなに読む時間があったね」

「テレビも携帯も持っていないから時間はあった。そういえば高校の時、原人と言われたことがある。当たっていたかもしれんな」


「テレビやスマホがない生活か。確かに、今はどこがおいしいとか安いとか面白いとか、ごみのような情報のチェックだけで人生終わってしまいそうだ。でもスマホのない生活というのも想像できないよ」


大津に着く前から小雨が降っていた。

11月のびわ湖大学駅伝でも雨だった。

皇子山競技場に着いても止む気配はない。

また雨の中を走るのか。


待機場所ではストレッチより、ひたすら足のマッサージに専念した。

由佳にやってほしいが、今日は家族と一緒にテレビ観戦だ。


メールでは、いつもは優しいパパが応援に行くのを許してくれないという。

まあ当たり前だな。


午前11時。

気温は7.2度。湿度75%。風はあまりない。

この辺りは三井寺など由緒ある建造物が多い。

いつか由佳と歩きたいところだ。

桜のつぼみが膨らみかけている。


受付の周りには、いろんな会社の幟がびっしり立ち並んでいた。

周りは実業団の選手ばかりで、大学生はあまり見当たらない。

アフリカ人選手を何人も見かけた。

彼らの足の長さや引き締まり方は、やはり生まれつきなんだろうか。


今日二回目のメールが届いた。


「ジュンがどこにいても側にいるよ。走り終えたら私を強く抱きしめてね」


何度も繰り返し読んだ。

これを見て、命がけで走らない男なんていないだろう。


今日は5キロ15分以内のペースで最後まで走り切ってやる。

彼女のために走る。

彼女と二人で走り切る。


スタート10分前。

雨はまだ止まない。

夏以降、彼女の立てたメニューで走り続けて半年。

今日まで、一体どれだけ走ったのだろう。


シューズは人見さんにもらった新品を使う。

昨日この靴で、いつものコースの半分10キロほど走った。


シューズは本当に薄くて軽い。トップ選手は、大きな試合では一度履いたら捨てるそうだ。

つまり10キロ足慣らしをして、本番に40キロ。計50キロで処分するらしい。

俺は捨てたくはない。


最前列に招待選手が並ぶ。

ランナーは全部で105人。

持ってきたサポーターを腕に着けた。



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