プロジェクトチーム
吉泉研究室に見舞いのお礼を言いに行った。
「後三日だな。ここしばらくは、あの子が心配であんまり走れていないだろう。まあそれは仕方がない。どのみち今頃からじたばたしても手遅れだ。君は今までよく走り込みができているから、その蓄積を生かすしかない。さてペース配分だが・・」
白いボードには、5キロ刻みで40キロまで区切った長い直線が引かれてあった。
その下に十数人の部員名が書かれている。
「最初の5キロから、35キロまでの7区間で5kmごとに陸上部員が立っている。各区間を15分前後、詳しく言うと14分50から15分20で走ることだ。16分台は許されない。君ならできるはずだ。部員が5キロのラップタイムを知らせるから、それで走りを修正するんだ。GPSウオッチを持たすことも考えたが、今までしてないからやめた。腕時計に気を取られず、まっすぐ前を見て走るんだ。ペースメーカーには絶対置いていかれるな」
ラミネートされた由佳の写真を手渡してくれた。
「あの娘さんの応援は無理だろうから、これを作っておいた」
可愛く写っているが、どこで撮ったんだ。
これをポケットに入れて走れということか。
用意周到すぎる。
「明日と明後日の二日。朝と昼は軽いジョグとストレッチ。ただし夜は無しだ。彼女とのセックスはないと思うが、オナニーも厳禁だ。がまんしてさっさと寝ること。食べ物の指示はこの紙に書いている。彼女の伯母さんに渡してくれ。さて前日、私は役員会で打ち合わせがあるから大津のホテルに泊まる。君はどうする?」
平然とした顔で注意を聞かされた。
返事がしにくい。
「あの、早起きは慣れているので、当日の朝、電車で向かいます」
「12時スタートだから、まあいいだろう。東田君に伝えておくよ」
彼が俺の世話係か。
部室で東田に問いただした。
由佳のことは、彼が教えたのに決まっている。
「吉泉教授にしつこく聞かれて、知っていることは洗いざらいしゃべらされた。由佳ちゃんと君が、まだキス止まりだろうということもね。ただ今度の事件は想定外で、君がショックで投げ出すことを心配していた。本当なら彼女に35キロ地点にいてもらって、最後の頑張りを引き出す作戦だったんだけどな」
「何の作戦だって?俺は聞いていないぞ」
「君をロンドンに送り出す作戦だよ。オリンピックに行きたいんだろ?」
「いや、まあそうだけど・・」
「陸上部でプロジェクトチームを作って応援するんだ。もうミーティングを何回もやった。携帯とストップウォッチを持って、君にラップタイムを知らせる練習もした」
「それは、俺に行ける見込みがあるということか?」
「君次第ではあるけど、可能性は分からない。だって君の記録は伸びてはいるけど、この時期でオリンピック選考B水準すら突破していないだろ。でも教授の話では、君の成長には賭ける値打ちがあるんだと。僕なんかインターハイから国体まで出ているのに君の付き添いだけだよ」




