ろう学校卒業式
一年前の高校の卒業式で、どうしてあんなに泣いてしまったのだろう。
読書ばかりしていると感受性が強くなり、涙もろくなるのだろうか。
県立聾学校の卒業式は、高等部と中学部合わせて15人だけの卒業生だ。
教師や保護者の方がはるかに多かった。
前に知り合った古河さんも来ていた。
隣りに座り、手話での会話が始まった。
「梶井基子さんは、卒業後どうするのですか?」
「デザイン関係の専門学校へ行く」
「器用なんですね。前から聞きたかったのですが、なぜ古河さんや基子さんは口話が上手なんですか?」
「彼女は小さい頃、病気で中途失聴した。だから話せる。僕は会社で話す機会が多いから。でも口話をしていると、聞こえると勘違いされるから困ることもある。手話だけの方がいい」
周りでも手話のおしゃべりがあちこちで行われていた。
聞こえないから邪魔にはならない。
式が始まった。
証書授与の次は校長の祝辞。
手話通訳士が手を動かし続けている。
大よそ理解できるのは由佳のおかげだ。
最後に一人一人が壇上で決意の言葉を話す。
どの卒業生も手話はゆっくりで分かりやすく、一生懸命さが伝わって来た。
見ていると、人によって手話の表現の仕方が違うことに気が付いた。
毎日のように由佳と手話で会話をしているから、彼女独特の言い回しになれていたんだな。
高等部のトップが梶井さん。
口話と手話をする。
「今から考えると12年間楽しい思い出ばかりでした」
早くもそこで涙。古河さんも目を潤ませている。
楽しかった思い出と将来への決意を話す。
由佳の番。
セーラー服を着るのは今日が最後か。
何を着ても似合う気がする。
なぜか仁志先輩のことを思い出した。
彼女のセーラー服姿も素敵だったな。
由佳は、手話だけで話した。
まず先生方の思い出を語る。
手の動きはなめらかで、よく読み取れた。
「今まで人に助けてもらってばかりいた。でもこれからは、人の夢をかなえられるよう手助けをしたい。そんな仕事に就きたい。そして愛する家族、愛する人と共に歩んでいきたい」
俺に言っているような気がする。
思い切り、手話の拍手をした。
最後は本山宗太郎。
俺を吹っ飛ばした奴だ。
怒ったように手を動かしていたが、なぜか途中でやめてしまった。
結局何も分からなかった。
小一時間で式は終わった。
三田島先生から食事に誘われたが断った。
これから王子競技場でトレーニングだ。
多くの部員が待っていてくれている。
校庭では保護者や卒業生が教師を囲んで別れを惜しんでいた。
彼女と二人だけの写真を撮ってもらってから校門を出た。
駅の方へ歩き出すと、悲鳴が聞こえたような気がした。
振り返ると、運動場で大きな輪ができている。
余興でもしているのだろうか。
走り回っている人が見えた。
何かトラブルが起きたようだ。




