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君とオリンピックに行きたい  作者: 友清 井吹
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由佳が給水係

ハーフは前回1時間3分台だった。


悪くはないが、昨年度百傑の20位にも入れないタイムだ。

これではオリンピックには程遠い。

せめて1分は縮める必要がある。


走るのは何度か一緒に走った選手ばかりで、顔見知りの選手が多い。

しかし今日は笑顔にはなれない。

記録も大事だが彼女も心配だ。

彼女が悲しい思いなんかしていたら、大学を変えてやる。


落ち着かない気持ちでスタートラインに立った。

コースは競技場を3周した後、外周を5周。

また競技場に戻って3周する。

外周は一周4キロ弱。

彼女と五回会えるはずだ。


スタート直後からとばした。

先頭で競技場内を出た。

コースは枯れ木の間をくねくね走る。


由佳はどこにいる?

3キロ地点の給水所にいた。


『六甲大給水係』と書かれたビブスを着けて、紙コップを二つ持って近寄ってきた。

並走しながらコップを差し出したので一つ受け取った。

少し口をつけてそっと転がす。

彼女は笑顔だった。やれやれだ。


競技場に戻り2周目になった。

道が大きくカーブした時振り返ると、はるか後ろに数人のランナーが見える。

調子はいいようだ。

でも今日は順位よりタイムだ。


3周目。曇り空が晴れ、太陽が出てきて暑くなってきた。

彼女からコップを受け取り、一口飲んで、頭にかける。

口の形で『ジュン』と言ったようだが分からなかった。


4周目。息が苦しく足も重くなってきた。

君の笑顔が声援だ。

5周目。もう水は受け取らない。

彼女を見ても手を挙げる余裕はない。

由佳も並走することはあきらめたようだ。


落ち葉を踏みながらスパートをかける。

突っ走れ。


競技場に入り、トラックを3周しても2位以下は見えない。

フィニッシュと共に電光掲示板のタイムが止まった。

1時間2分28秒。

前よりかなり短縮できた。


さすがに立っておれない。

ふらふら歩きながらフィールド内でクールダウンする。


吉泉監督が近付いてきた。

「まずまずのタイムだ。あの娘さんのおかげだな」


表彰式が終わり、監督や陸上部員と別れた。

もうだれも淳一を引き止めたりしない。


先ほど走り抜けた公園内を、手をつないでゆっくり歩いた。

もらったメダルを彼女の首に掛けた。

これから何度でも掛けてやるよ。


「監督に何を言われた?」

「練習方法を詳しく聞かれた」

「嫌なことはなかった?」

「初めは緊張した。でも先生は優しかった。私の考えた練習法をほめてくれた。私のおかげで、ジュンは記録を伸ばして、故障もしないと言ってくれた。私の足のサイズやスリーサイズまで聞かれた。写真をたくさん撮られた」

「スリーサイズって何?」

「ジュンは知らなくていい」

怒ったような顔になった。

何でなんだ。


「明日から練習のやり方を変える。東田さんも素敵ね」

どうやら東田の手話では会話にならず、吉泉監督とは筆談をしたそうだ。


監督は、今後やるべきことを彼女のノートに太い字で書いてくれていた。


1.体重をあと2kg減らす。(月1kg)

2.手の振りと、体の姿勢に気をつけさせる。(体幹を見る)

3.後半、中心線がぶれることが多いのでそれを直す。

4.食事は今の和食中心。三食共十分に。間食は不要。直前の食事は炭水化物を増やす。

5.靴の点検を小まめにする。(靴ひも・靴底の内側・ソールの減り方)


「まだあるけど、また整理して教える。明日から体重落としてね」

「食べる量を減らすのは嫌だよ」

「今からもう一度走って汗を出す?」

目つきがきつくなった。

小さなため息をした。


三宮の回転寿司屋で二人合わせて二十皿。

まだ欲しいと思ったが、彼女が支払いを済ませさっさと店を出た。


びわ湖毎日まであと三週間。

明日は聾学校の卒業式だ。



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