私なんかいらない?
由佳は看護学校を二校受け、両方とも合格した。
入学するのは、医師会が運営している学校で、倍率は5倍を超える難関校だと聞いた。
夕方メールで知らせてきたので、会いに行くと返事をすると、こちらに来るとのことだ。
彼女は寺に着くなり、半泣きで訴えてきた。
「私、看護学校へは行かない」
「なぜ?あんなに頑張ったのに」
「入っても授業、何もわからない。母さんは、読話を覚えなさいと言う。あんなこと無理。そう言うと耳の手術をしろと言われた。そんなことをしたらひと月も入院しなければならない」
「僕の話すことは大体わかるんだろう?」
「あなたは特別。学校で何時間もの講義、全部分かるはずがない」
そうだろうな。
医療関係の授業や実習を、読話だけで理解するのは至難の業だ。
「3月まで一緒にいられるけど、入学したら4月からは一緒に練習ができなくなる。ジュンはそれでもいいの?」
オリンピックの可能性は何パーセントあるのだろう?
返事ができず頭を抱えた。
「わたしなんかいらない?」
口をゆがめ、涙を浮かべている。
「お母さんに今年は専門学校に行かず、来年大学に行きたいと伝えたけど、お母さんは怒って返事をしてくれない。どうしたらいい?」
とうとう肩を震わせて泣き出した。
声を出して泣くのは初めてだ。
かすれがちで押し殺したような声。
余計にせつない気がした。
途方に暮れながら抱きしめた。
難聴の女性が大学に入学した例をネットで読んだことがある。
ノートを借りたり先生に質問したりして、薬剤師や看護師になったそうだ。
そうした道を進むのかなと思っていた。
これからもサポートしてくれると思い込んでいた。
専門学校で3年か。絶対にきついな。
何でも俺の都合よくいくはずがない。
母親が何度も現実に向き合わせようとしたのは、由佳自身のためだったのだろう。
ともかく両親に会おうか。頼んでだめだったら、・・・仕方ないか。
「今から君の家に行こう。僕から君のことをお願いする」
べそをかいていた彼女の顔がぱっと明るくなり、淳一に唇を押し付けてきた




