同期はいいな
大学の部室に顔を出すと、先輩が、驚いたように話しかけてきた。
「久しぶりだなあ倉本。えらい日に焼けているし、どこかで秘密特訓でもしてきたんか?」
マネージャーさんの言い方はもっと辛辣だった。
「日本インカレをパスするなんて馬鹿じゃないの。秋の大学駅伝は絶対出てもらうからね」
30度を超えている炎天下のグラウンドで、400mのダッシュを5本。
しばらく歩いて、また走ろうとしたが、もうろうとしてきたのでやめた。
熱中症寸前だ。
食堂で一人、遅い昼食を食べていると1回生の部員が集まってきた。
東田は郷里の岡山に帰省中でいなかった。
話を聞くと、部員の多くは、休暇中に家族と海外旅行に行っていたそうだ。
去年は受験で行けなかったからという理由。
みんなは機内食はどこがましとか、旅行の思い出話に盛り上がっていた。
ここで岩手県の小学生の話をするのはよそうと思った。
窓の外には、緑の美しい六甲山系が間近に見える。
由佳と初めてのデートは、あの辺りだったな。
まだ猪は出るんだろうか。
山なら涼しそうだし、また二人で行ってみようか。
「じゃあ、俺帰るから」
そう言って立ち上がると、あわてた風の薮田君に止められた。
「待ってくれ。今日は旅行の話なんかするため来たんと違う。倉本は前に五千ですごい記録を出したやろ。なのに夏の大会やインカレに出ないのは何でなんや。多くの先輩から聞かれたけど、俺ら何も知らん。だから出なかった訳を教えてほしいんや」
栄本さんが話をつないだ。
走り幅跳びで、全国上位の記録を持っている期待の部員だ。
「私たち同じ1回生で、これから何年も一緒に汗を流す仲じゃない。倉本君は東田君とだけ仲良くしているけど、私たちとは距離を置いているよね。よかったら試合に出なかった訳、教えてくれる?」
どの程度言えばいいのか迷った。
今後のこともあるし、ちゃんと話すべきなんだろうな。
「みんなには黙っていたけれど、熊本のインカレに行かなかったのは経済的理由。8月の国立大対抗戦に出なかったのは、東北にいたから。一週間、岩手県でボランティアをやっていた」
みんな唖然とした顔をしている。
「ここにいない三上さんや東田は知っていると思うけど、俺、高校の時から生活はピンチの連続だった。先月、長年住んでいた所を出されるのが決まって、焦って試合どころじゃなかった。今は何とか住むところが決まったから、9月から復帰できると思う。東北には、わがままでも絶対行きたかった。それが理由」
しばらくして栄本さんが言った。
「三上さんから、倉本君は働きながら高校を卒業したって聞いたけど、本当だったのね」
「俺なんか、旅行なんかどこにも行ったことがない世間知らずだし、君らの話にはどうせついていけないと思っていたから寄らなかった。でも迷惑をかけていたのなら謝るよ。ごめん」
五千では、淳一に次ぐ記録を持っている薮田君が言った。
「県大会で優勝して、それで注目されないという方が無理やろ」
「もう一つ聞きたいことがあるの」
栄本さんが、今度は悪戯っぽく淳一を見ながら言った。
「五千で14分を切った日、走り終わったら観客席にすっ飛んで行ったでしょう。あそこで会っていた女の子は誰なん?初めは高校生の妹さんかなって、みんなで話していたんやけど」
やっぱり見られていたのか。
「あの子は・・・・、よく行く病院の娘さん。ただ応援に来てくれていただけ」
「ほんま?顔が赤くなっとうよ。あの後1回生だけで食事をしたけど、倉本君だけおらへんかったん寂しかったよ」
改めて同期はいいなと思った。
東北のことを少し話して長い昼食会は終わった。




