明日も絶対来いよ
お昼から、また鬼ごっこが始まった。
運動場全部を使って、子供たちの間をすり抜けるように逃げる。
待ち伏せをしたり、飛びついて来たりする子もいるので、けがをしないか心配しながら走った。
女の子もやってきて十数人になった。
子供たちに交じって、ろうの子供も汗びっしょりになっているのを見てうれしくなった。
休憩していると先生がスイカを切って持ってきてくれた。
歓声を上げてみんなでかぶりつく。
その後、ケイドロをすることになった。
淳一と数名の女の子対男子全員だ。ケイドロのルールは関西と同じらしい。
3時前になり、さすがにもう終わりと宣言して、職員室にお盆を返しに行った。
「ご苦労さん。よく頑張ってくれたな。あの子らもあんなに走り回ったのは久しぶりだろう。ところで君は学生さんか?」
「はい、文学部の1回生です」
「じゃあ教師になることができるな」
「いや教師が向いているか、分かりません」
先生は、笑いながら言った。
「いやあ君は向いているよ。あんな小さな子らでも、本気で関わってくれたことはちゃんと分かっているから、君から離れなかったんだ。教員免許だけは取れよ」
明日東北を離れると言うと、子供たちを集めて一緒に写真を撮った。
学校のホームページに載せるという。迎えのバスがもうやって来た。
「明日も絶対来いよ」
リーダー格の男の子が命令口調で言った。
明日はいないとも言えず「来れたら」と小さく答えた。
ろうの子が手を離さないので困った。
こんな時どうしたらいいんだ?
バスから手を振ると、みんな一斉に奇声を上げたり、おかしな顔をして見送ってくれた。
ろうの子供に、頑張れの手話をすると同じように返してくれた。
涙があふれ出て止まらなくなった。
汚れたタオルを顔に押し当て、声を出さずに泣いた。
8日目の早朝、運よく神戸まで空きがあるバスで帰ることができた。
バスから見ると、津波が引いた後の更地には草が生い茂り、道路だけがきれいになっていた。
被災した車が何百台も野ざらしで積み上げられ、巨大なモニュメントのように見えた。
この短い旅行で得難い経験ができた。
ボランティアで人を助けに来たと思っていたのに、学んだことや得たことの方が多かった。
由佳に今の気持ちを伝えたいと思った。
長いバス旅で、考えていることを頭の中で組み立て、それを手話に置き換える作業に没頭した。
寺にたどり着いたのは夜の9時過ぎ。
部屋に入ると布団が敷いてある。
ひきっぱなしだったかな、と思いながら倒れるように寝ころんだ。
疲れきってているのに、なかなか寝付けない。
何度も目覚めては、今どこにいるか分からなくなった。




