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君とオリンピックに行きたい  作者: 友清 井吹
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初めての出会い

9月中旬でプールでの練習が終わり、部活は基礎体力作りになった。

先輩の話では、たまに温水プールに行くこともあるが、今までよりかなり楽らしい。


部活が終われば図書室に直行し、ゆっくり新聞を読むのが日課になった。

家では新聞を取っていないしテレビもない。

芸能情報どころか、事件や事故のニュースすら疎い。


読書では外国文学に興味を持ち、ゲーテやスタンダールなどの純文学から、ドイルやポーの推理小説まで手当たり次第に読破していった。

図書室が閉まるまで過ごし、本の余韻に浸りながら帰宅できるのもうれしい。


10月の初め、引退した白井先輩が部室にやってきた。

「去年、俺が走った駅伝大会なあ。今年も水泳部から何人か出してくれって、陸上部の顧問から言われた。今だれか決めてくれ。俺が報告しとくから」


みんな顔を見合わせ黙ってしまった。

2年の先輩が言った。

「けど先輩。去年選手になって、ずっとめんどいとか言ってたじゃないですか」

「まあな。でも水泳部はどうせシーズンオフでひまだろ。頼むよ」


新しく部長になった先輩が、淳一を見た。

「倉本は学校の外を走るのは速かったな。白井さん、1年でもいいんでしょ?」

「まあ2年がいなけりゃ仕方ないけど」


淳一の意思など聞かれもせず、水泳部代表が決まってしまった。

強く断らなかったので了承と受け止められたようだ。


白井さんは慰めるように言った。

「悪いな倉本。まあうちはそんなに強くないから、気楽に走ってきたらいい」


帰宅後、何となく晴れない気持ちで、近くのスーパーに買い物に行った。

これまで安いからといって大量に買って腐らせたり、何日も続けて同じおかずになったりしてしまった。


そんな失敗を重ね、今は二日に一度、必要な物を必要なだけ買うようにしている。

料理のレパートリーも増えた。

安い食材でも、作り立てなら大体おいしく食べられることが分かってきた。


まだ豚肉の残りがあるから、もやしを買って焼きそばを作ろうか。

冷蔵庫に残っている野菜も使ってしまおう。

明日の弁当はそばめしだな。

そう思いながら買い物を済ませた。


ドアから出ると、両手に買い物袋を持ったジーンズ姿の女性が前を歩いていた。

小さな子供が二人、ふざけながら通ろうとして買い物袋にぶつかり、ジャガイモが転がり落ちた。

女性はそのまま歩いて行く。


「落ちましたよ」

思わず呼んだのに気付かない。


ため息をついてジャガイモを拾い上げ、女性に声をかけた。

「あの、これ落ちましたよ」


振り向かないので、仕方なく女性の肩に手をふれた。

こちらを向いたのは、意外なことに淳一と同じか年下らしい少女だった。

眉根を寄せ、不審そうに見上げる。


「君が野菜を落としたから、拾ってきた」

そう説明をしたが何も答えない。


淳一の持っている物を見て、あっという顔をした。

おずおず袋を差し出したので野菜を入れた。

小さく「ありがとう」と言ったようだが、聞こえない。

すぐに逃げるように行ってしまった。


切れ長の目がきれいな子だった。

自分から女子に声をかけたのは、高校生になって初めてだ。



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