陸上部合宿
夏季休暇に入ると、すぐに陸上競技部の合宿があった。
4泊5日で泊まるのは県北部、標高1200mの高原にある民宿だ。
初めは、費用が6万円以上するのであきらめていた。
先月、学費の減免が認められ、半額の20万円が戻ってきた。
これで参加できる。
インカレの出場には間に合わなかったが、1年生が全員そろう合宿には行きたかった。
それに当分バイトは休憩できる。
合宿は行ってよかった。
起床後の入念な準備体操は、今まで適当なストレッチしかしてこなかったので、価値ある体験だった。
ゆっくり長い距離を走るというLSD。
走るスピードを上げていくビルドアップの基本も覚えた。
何よりみんなと並んで走るのがいい感じだ。
夕食後の自由時間、同じ1回生の三上さんから散歩に誘われた。
高原のさわやかな風を感じながら、ゆっくり二人で歩いた。
少し緊張する。
三上さんは、短距離専門としか知らない。
「私ね、高校では陸上に入っていたけど、クラスが進学コースで部活は制限されていたの。少しばかり成績がいいからって、家でも学校でも勉強ばっかり。大学に入って陸上を思う存分できるのがほんとに楽しい」
ぜいたくな悩みとしか思えないが、人それぞれか。
「倉本君のことは、中学からの友達から聞いて知っていたよ」
「友達?」
「誰だと思う。私に来るメール、倉本君のことばっかり」
「さあ、見当もつかないよ」
「高2だったかなあ。ブログにひどいこと書かれたでしょう。倉本君、嫌な思いしたと思うけど、彼女、自分の責任じゃないかって悩んでいたよ」
「ああ、香奈さんか」
「彼女、自分が勝手に弁当を渡そうなんてことしたから、倉本君に迷惑かけたって」
あの話か。ずい分昔のことのように思えた。
「あの頃、俺まだガキだったから・・。でも今ならあの弁当、喜んで受け取るよ」
「本当に?香奈に知らせとく。それならまだあの子と何とかなりそう?陸上の大会で倉本君が来てくれて、うれしくて最高の走りが出来たって知らせてきたけど」
「香奈さんには、いろいろ助けてもらって本当に感謝しているけど・・」
「そっか。倉本君、今付き合っている彼女いるんだったね。高校生の子でしょ?」
「いや彼女は別に」
口を濁してしまった。
競技場で見られていたのか。
「じゃあ、合宿、最後まで頑張ろうね」
宿舎前で三上さんと別れた。
県で最高峰の氷ノ山が、夕日を背に受けて黒く大きくそびえている。
香奈さんも三上さんだっていい人だ。
もし付き合えば俺を支えてくれると思う。
けれど今、この雄大な風景を一緒に見たいのは、やっぱり由佳だ。
「合宿頑張っている?
お寺の周りで10kmコースを見つけた。
信号なしだよ!2周20kmを神戸に帰ったら走ってもらう。覚悟しといてね。
あなたが引っ越す部屋は片付けておいた。
今パパにマッサージやストレッチの仕方を教わっている。
早くあなたと練習がしたい。
やっと明日会えるね!」
5日ぶりか。確かにやっとだな。
俺も君に会いたい。
君の顔が見たい。




