三田島整形外科
三田島整形外科は、淳一の家から少し離れた住宅地の中にあった。
瀟洒な二階建てで、歯科や内科の医院と隣り合わせて建っていた。
病院に行くのは久しぶりだ。
小さい頃、母に連れられて何度か風邪や怪我で通院したことがある。
一人暮らしになってからは、歯磨きも含めて健康管理にはかなり気を使ってきた。
病院に行けば金がかかるという怖れを、ずっと抱き続けていた。
義父から貰った健康保険証を持ってきたが、幾らかかるのだろう?
不安な気持ちで待合室に入った。
年配の女性達が、声高に腰の痛みを話し合っていた。
かなり待たされて診察室へ入り、大柄で腕まくりをした医者に今の症状を伝えた。
「一応レントゲンを撮っておくけど、足底筋膜炎みたいだな。痛いのはこの辺だろう?」
ベッドに寝かされ、右足のかかと部分を手で挟んで両側から押した。
強い痛みで顔をしかめた。
「刺すような痛みがあったら骨に異常があるかもしれん。腫れから来る痛みならぼちぼち治していこうか」
レントゲンを撮ってから、もう一度ベッドにうつ伏せに寝かせられた。
「君、長距離を走って痛めたそうだけど、走る前にストレッチはしてたんだろう?」
「陸上は初めてなんです。だからあまりストレッチとか知らないんです」
「準備運動と整理運動は絶対必要だよ。君は足が長いし、陸上向きのいい体形をしているから、ちゃんとやったら伸びると思うよ。ああ、ちょっと来て」
誰かを呼んだ。
頭の上で、アスリートの足だとかの言葉が聞こえた。
足を触る手が、細く冷たくなった気がする。
誰がやっているんだ。
入りたての看護師さんか?
後ろ向きで顔は見えない。
白衣は着ていなく、茶髪で長めの髪を後ろでくくっている。
ふくらはぎをマッサージされたがきつく感じた。
特にツボを押さえた時がすごく痛い。
手の感触が変わり楽になった。
医師のマッサージに戻ったようだ。
まさかあの女性の実験台になったのか?
起き上がって見回したが、もう女性はいなかった。
「レントゲンでは骨には異常がなかったよ。風呂上りに、ふくらはぎから下をよくマッサージをしたらいい。湿布薬と痛み止めを出しておこう。来週、もう一度診てみるが、初めてなんだから案外治っているかもしれん。個人差はあるが、若いから治りは早いだろう」
帰宅して、風呂を出てからしっかりマッサージやストレッチをして、大きめの湿布薬を足裏全体に張った。
次の朝、恐る恐る床に立つと、昨日の痛みがうそのように引いていた。
まだ違和感はあるが、足を引きずることはない。
さすがにその週は練習に出なかった。
マネージャーさんに県陸上選手権の出場種目を聞かれ、よく分からないまま千五百と五千と答えた。
大丈夫だろうか。あと一か月もない。
部室には、第1回神戸マラソン大会の大きなポスターが貼ってあった。
見ていると先輩に声をかけられた。
「倉本君、これやってみるか?大学駅伝の次の日やけど、今年、君が選ばれることはないやろう。陸連登録は済んだから、大会に出られる可能性は高いで」
陸連登録が何か分からないが、先輩からやり方を教えてもらい、スマホからエントリーした。
予想タイムは適当に3時間にした。
フルマラソンか。思い出作りにはなりそうだ。
六月末に当選通知を受け取ったが、参加費1万円と知り、払い込むか迷った。
まあやってみようか。




