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君とオリンピックに行きたい  作者: 友清 井吹
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陸上競技部へ

大学の入学式は、ポートアイランドの巨大なホールで行われた。

新入生は大学院生も含めると四千人もいるらしい。


式は東日本大震災で亡くなった人への黙祷から始まった。

フラッシュが一斉に光り、落ち着かない。

遠くにしか見えない学長の話が始まった。


今日は、母の写真を胸ポケットに入れてきた。

生きていたら多分来ていただろう。

母の『おめでとう』と言う声は、もう一生聞けない。


母さん。俺はまだ一人だけで生きていくのはしんどいよ。

今までだれかに助けてもらってばかりだ。

だれか愛する人と一緒に歩んでいきたいけれど、そんな女性が現れるのだろうか。


学長の話はまだ続いていた。

震災復興のため出来る事をしていこうという話だ。


津波で親を失った子供は多いはず。

その子らにとって本当の試練はこれからだろう。

俺なんかより苦労する子供は、たくさんいるかもしれない。

今の自分に何ができるのだろう。


入学当初は、科目の選択や授業料減免、奨学金の手続きでバタバタしていた。

4月後半になって、ようやく気持ちや時間にゆとりが出てきた。


サークルは、水泳部でなく陸上競技部を選んだ。

今までの記録を考えたら、泳ぐより走る方が向いている。


今年度の新入部員は13人。

歓迎会で数十人の先輩の前に立った。

「文学部の倉本です」


そう言っただけでどよめきがあった。

部員が60人もいるのに、文学部は一人もいないそうだ。

教育学部が一番多く、医学部や工学部の学生もいる。


簡単に自己紹介をした。

「高校では水泳部にいて陸上は素人です。長距離を希望しています」


練習は平日2回と土日を合わせて4回だけ。

必ず出なければいけない、という訳でもなさそうだ。

大学の運動部はもっと厳しい所だと思っていた。

自主性を尊重した開放的な空気に魅せられた。


練習開始の日、久しぶりにランニングシューズを履いて大学のグラウンドに立った。

やりたかった勉強と運動ができる。

うれしくて胸がときめいた。


中・長距離希望の学生が集まり、まず千五百のタイムを測る。

中3の時、確か4分台で走った記憶がある。

高校では駅伝と五千くらいしか走っていない。

先輩も入れて十数人で走る。


400mトラックを3周もすると汗がしたたり落ちた。

みんなのようにランニングシャツがいる。

Tシャツで走っているのは俺だけだ。


他の部員に負けないようにむきになって走ったが、先頭は、はるか先でゴールしていた。

タイムは4分38秒。


膝から下がだるく、かかとが痛い。

初めてということで頑張りすぎたかもしれない。


「君は来年くらいインカレに行けそうだな」

2回生の先輩が話しかけてきた。インカレって何だ?


「倉本君だったかな。陸上は本当に初めてなのか。今までレースに出たことないのか?」

「市の駅伝大会に出たくらいです」

「もしかして駅伝で区間新出さなかったか?県大会の五千でも、君にぬかされたような気がするけど」

「駅伝は陸上部の応援で走っただけで、あんまり覚えていません」

注目なんかされたくない。

  

5000m走は土曜日に大学からほど近い王子競技場で走る。。

さすがに不安になり、何度か自宅の周りを一時間ほど走った。


ホイッスルで13人が走り出した。

トラックを12周半。


高2の陸上大会で、14分台で走ったことは誰にも言っていない。

あれはまぐれだろう。

先頭集団から離されないようについていく。


8周目は5位。10周目で3位になった。

息はそれほど苦しくはないが、右足裏がかなり痛くなってきた。

知らない間に他の選手のように、跳ねるように走っていた。


着地の時、足裏に今まで感じたことのない違和感を感じた。

11周を越えた辺りから足の痛みがさらに強くなり、走り方がぎこちなくなってきた。


ラスト1周は、右足を地面につけるだけで痛みが走った。

最後はケンケンをするようにして何とか走り終えた。

15分44秒で1位と半周遅れの4位。


トップは同じ1回生で、長身で細身、千五百でも1位だった東田君だ。

余裕の彼から励まされた。

「君、本当に陸上やってなかったの?これから伸びてくるとしたら脅威だな」


ベンチに座り、足先を手で回すと猛烈に痛い。

風呂に入ったくらいで治る感じではない。


翌朝、寝床から立ち上がると右足裏に激痛が走り、布団の上に転んでしまった。

やっぱり足を痛めたのか。

入部早々故障するなんて情けない。


大学では足を引きずるようにして歩き、教室の移動も苦痛だった。

部室へ行き、そこにいた先輩に足の様子を話した。


「久しぶりに走ったから痛めたんだろう。整形の病院に行った方がいいよ」

紹介してくれた病院は、淳一の高校のあった町にあり、柔道や陸上で故障した選手がよく通うそうだ。

三田島整形外科というらしい。



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