自衛隊連絡事務所
高3になった4月、驚いたことに義父の離婚話が消えた。
洋二兄によると、なみ江さんが義父の元に戻ってきて、心を入れかえるということで元のさやに納まったという。
当初は、なみ江さんにローン付きのマンションを渡し、義父は淳一の住む家に戻ることになっていたそうだ。ところがなみ江さんが借りた金は必ず返すと訴え、肝心の義父はそれをあっさり了承したということだ。
淳一には、家の光熱費と健康保険は払ってくれることになった。
食費などの生活費は、相変わらず自分で稼がなければならない。
光熱費が浮いた分、バイトを減らして勉強をするか、今までのように働いて大学にかかる費用の足しにするか悩んだ。
考えた末、当分は今のままファミレスのバイトを続けることにした。
受験勉強より、今は高校卒業をめざすのが先決だ。
この家で後何年も住み続けられるとは到底思えない。
高3の今から、施設なんかが受け入れてくれるはずはないだろうし。
学校からほど近い建物の一角に、自衛隊の地域事務所があるのは前から知っていた。
5月に思い切って訪ね、日に焼けた、がっしりした体の自衛官の人に防衛大について話を聞いた。
伊吹東高からは、初めての訪問ということで歓迎された。
まず、出願の動機を詳しく尋ねられた。
今の生活状況を話すと少し考え込んだ。
「義理の父では駄目なんですか?」
「いやそうじゃないが、一応仕事の性質上、日本国籍があり、犯罪歴のない家庭が合格要件になるよ。まあ君は賢そうだが防衛大は難しいよ。人文系と理工系どっちを受けるの?」
「一応文系でいきたいと思っています」
「人文は採用人数が理工の5分の1しかないから、かなりハードルが高いぞ。いっそ高卒から自衛官になる手もあるよ。君なら大丈夫だろう。やってみないか?」
それから熱心に高校を卒業したら、即自衛官になる道を勧め出した。
どれだけメリットがあるか、パンフレットで詳しく説明をされた。
それが嫌とは言えないし、今の偏差値や生活状況をを考えたら一番妥当かもしれない。
自衛官になってから進学する道があると聞き、心も動かされた。
しかし係の人が、あまり高卒から入ることを強く勧めるので反発心も出てきた。
「ともかく後半年、防衛大受験を頑張ってみます」
そう言って事務所を後にした。
運動ができたら、自衛隊体育学校という道もあるらしい。
県大会で優勝したくらいで行けるのだろうか。
今は将来の事より明日の飯を優先させないと。
もうすぐファミレスのバイトが始まる時間だ。




