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君とオリンピックに行きたい  作者: 友清 井吹
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修学旅行の日

修学旅行の二日前から、学校を休んだ。

病気にでもなっておこう。


さすがにその期間中にバイトをする気はしなかった。

今のところ月に10万円近く稼いでいる。

食費と光熱費、それに学費で半分消えてしまうが、少しずつ貯えも増えている。


この調子でいけばなんとかやりくりができそうだ。

卒業まで後一年以上ある。

体力と気力が続くかどうか自信はないが、高校は出ておきたい。


義父が家に泊まっていくようになった。

先妻の仏壇がある部屋で寝起きをしている。     


修学旅行に出発する日、朝から庭に放置してあった水道工事用の配管や用具を整理していた。

「暇だから手伝うよ」と言って庭に出た。


二人で長い金属製のパイプを種類ごとに分けていった。

寒くて小雪も舞っている。

空を見上げて、スキーにはいい天気だろうなと思った。

無言で小一時間働き、なんとなく親子関係が少し縮まったような気がした。


久しぶりに教科書を開けた。

今やっている所が全然わからない。

昼を過ぎて腹も減ったが、がまんして勉強を続けた。


「飯ができたぞ」と義父の声がした。

インスタントラーメンに野菜が山盛り。

「鍋みたいだな」と言うと義父は笑った。


「なみ江のパチンコ狂いはもう病気だ。お前の母さんみたいにはいかんかった。今度も、と夢見たのがあほだった。お前にも苦労かけたな。あれ?今日学校はどないした」

「ああ今日は、開校記念日だから休みだよ」


言ってから笑ってしまった。

明日はどう言えばいいんだ。


次の日は市立図書館へ行った。

年末に比べると自習室の学生は減っている。

苦手な化学から始めたが、二、三日の勉強だけで到底追いつけるとは思えない。

知らない間に机にうつぶせて寝てしまっていた。


目覚めてから、閲覧室で簡単に読めそうな本を探した。

見つけたのは『英語の格言集』。

古くてかび臭い本だったが、読んでいると引き込まれ、力が湧いてくるような気がした。


リンカーンやフランクリンなど多くの偉人が、俺を勇気づけてくれる。

ヘンリーワーズワースの言葉『さあ立ち上がって行動しよう。いかなる運命の元でも精一杯に』を小さな声を出して読んだ。

そうだな。なんとか頑張ろうか、という気持ちになってきた。


以前、アンリ・ファーブルの伝記を読んだことがある。

彼は親を亡くし、貧乏で働きながら学校へ行っていた。

詩を読むことを心の支えにして、食事代の金で詩集を買ったという逸話を覚えている。

なぜ腹を減らしてまで詩集なんか買ったのか不思議だったが、今ならわかる気がする。


自習室に戻ると、お寺やスーパーで見かけた少女がいた。

多分間違いないと思うが自信はない。

ノートに何かメモしながら、分厚い本を読んでいた。


彼女が席を離れたすきに、机に近付いた。せめて学校とか学年くらいは知りたい。

何冊も積み上げてある本の書名を見た。


『スポーツ生理学』『鍼灸師の資格』『健康ストレッチ』。

一体何の勉強をしているんだ?

夕方、彼女はいつの間にかいなくなっていた。

でも家は寺だったな。行ったら会えるかもしれない。


図書館を出て、久しぶりに母の墓のある寺に寄った。

納骨堂に入り、線香とロウソクを立てた。

手を合わせて、母の写真に見入った。


母さん、ちょっと疲れたよ。

何もかもがめんどうになってきた。

俺の力だけではどうにもならない。

以前から周りの思惑や動きに振り回されてばかりだ。


昨年一周忌に来た時より、自分を取り巻く状況はずっと深刻なのに涙は出なかった。

泣いてもどうにもならないことが分かっているからか。

これも成長かな。


境内に彼女はいなかった。

寺の人に聞く事なんかできない。

大体なんて聞けばいい?




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