トゥモロー イズ アナザデイ
昼休み、久しぶりに図書室へ行った。
誰もいない所でぼんやり体を休めたい。
弁当は持って来ていない。
最近は、少しの朝食とバイト先の夕食だけ。一日1.5食だ。
司書の浅岡先生がいた。
「倉本君、ずい分ご無沙汰していたね。本が読んでくれるのを待ってるよ。お茶飲んでいってね」
浅岡先生は、先生の中で吉見先生の次に話ができる。
本を借りる時、よく話しかけられ親しくなった。
人がいない時は、お茶やお菓子をよばれたこともある。
昨年、浅岡先生に図書室の蔵書を全部読むと宣言したことがある。
もちろん冗談だが、全ページ読むのは無理でも、さっと目を通すくらいならできると思っていた。
最近は、図書室にすっかり足が遠のいている。
毎日来ては眺めていた本の背表紙をぼんやり眺めた。
「あなたにうちの娘、ここの高校で水泳部にいるって話したかしら。あの子、最近倉本先輩が来てくれないってとても心配していたわよ」
水泳部で浅岡さんという子はいたかな?
首をかしげていると先生は笑みを浮かべた。
「あの子が中学の時、私は離婚して旧姓に戻ったの。でもあの子ね、名前を変えるのは嫌だって前のままなのよ。体の割に気が小さくてね」
「じゃあ、今、何ていう名前なんですか?」
「そんなこと君に教えたら、あの子にぶっ飛ばされてしまうわ。それでね、悪いけど吉見先生に君のこと聞いたのよ。最近どうしたんだろうって」
図書室に来ない方がよかったな。
目をそらしてため息をついた。
「おうちの事情で働きながら高校に来ているそうね。私ね、倉本君に何ができるか考えたの。それで君の貸し出し記録を見ていたら、私の好きな本をまだ読んでいないことが分かった。世界文学のコーナーにある本で『風と共に去りぬ』を知ってる?」
「昔、映画になった小説ですか?作者は女性だったかな」
「そう。その映画の一番最後にね、主人公が『トゥモロー イズ アナザデイ』と言うの。あなたなら意味がわかるでしょ?」
「明日は別の日。明日には新しい日が始まるということかな?」
「私、今まで何度もこの言葉で救われたの。おせっかいだと思うけど、君には覚えておいてほしいと思って」
お茶とクッキーをよばれてから図書室を出た。
おそらく俺にどう言えばいいか、ずっと本気で考えてくれていたんだろう。
この言葉で今の窮状が解決するとは思えない。
ともかくあきらめず希望を持って生きていけってことか。
そう言えば似たような言葉があったな。確か『開けない夜はない』だったか。
今のところ、俺の人生はまっ暗闇な気がするけれど。




