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君とオリンピックに行きたい  作者: 友清 井吹
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誰かにすがりたい

今年も駅伝に出るように、陸上の顧問から言われたが断った。


次の日、また吉見先生に呼ばれた。

狭い生徒相談室で、机をはさみ二人だけで向き合うのは苦痛だ。


「2学期の成績が下がっているのは分かっているよね。来年、君が第一志望にしている防衛大にしても他の大学の推薦を受けるにしても、2年の成績、全科目の平均が5点中4点以上が必要。1学期なら十分満たしていたけれど。それにスポーツとかで秀でた成績があれば絶対有利。君はそれを全部捨てようとしているのよ」


そんなこと分かっている。

でも今の俺は生活していくだけで精一杯だ。

朝、弁当を作る気力もなく、昼食を食べていないのを知っているのかな。

バイトのファミレスで、忙しくて食べる暇がない時、客の食べ残しをこっそり口に入れたことさえある。

高校にだっていつまで行けるか分からない。


「お願いだからもう少し待ってくれる?何とか君が勉強に専念できるように頑張ってみるから。だからしんどいのは分かるけど、あなたの得意な陸上や勉強から離れないで」


それで駅伝には出ることにした。

今年は区間新どころか、走り切れるかさえ分からないのに。


メンバーが全員がそろったのは試合当日だった。

萩田がいる。今年は出られたんだな。


笑顔の野路が近づいてきた。

「今年も奇跡の13人抜きしろよ。もしも県大会に出たらテレビに出るぜ」


三人抜いて完走したのは健闘した方だろう。

東校が何位になったか知らないし、興味もない。

今年は麗奈や香奈さんとは会えなかった。

バイト一日分損をした。


冬休みは、店で夜遅くまで働いた。

立ちづくめの仕事は疲れるが、稼げるとき稼いでおかないと。


大みそかは朝9時から夕方6時まで働いた。

家のラジオで第九を聞きながら、借りた本、ドストエフスキーの『罪と罰』を読みふけった。


俺はラスコリニコフみたいに、周りを見下しているところもあるのだろうか?

劣等感の裏返しみたいな感情は持ちたくない。

経済的には、俺と周りの奴との格差は歴然としている。

ラスコリニコフのとった行動は理解できないこともない。


暗い話だと思いながら、主人公より貧しさの中で必死に生きるソーニャに共感を覚えた。

いつかソーニャみたいな女性と出会いたい。


明日の正月は4時に起きで年賀状の配達だ。

野路はバイトなどせず、年末は家族で信州にスキー旅行とか。


3学期が始まってもバイトに明け暮れていた。

もう授業中は半分以上寝ていた。


朝、疲れて起きれない時もあった。

でも一度休むとずるずる休んでしまうのに決まっているから、遅刻してでも登校した。


学校まで歩いていくのもしんどい。

昼飯を食べず、だれとも話さず、寝ているだけの日もあった。


俺の生活をみんな知っているのかな?

どうでもいいけれど。


勝手に早退して吉見先生に注意されたことがある。

以後、香奈さんに伝えてから帰るようにした。


「俺、しんどいから帰る。先生に言っといて」

いつも悲しそうな顔をしてうなずく。

あの子には何かを頼んでばかりだ。


彼女は部活を引退してから、ショートにしていた髪の毛を伸ばし始めた。

雰囲気が変わり、時たま見せる笑顔が可愛いと思うことがある。

弁当を頼んだら作ってくれるだろうか。


今は誰かにすがりたい。

でもすがってしまえば、何もかも終わってしまいそうな気がする。


あと1年少し頑張って、大学にさえ入ったらおそらく状況が好転するだろう。

それだけが今の希望だ。


ファミレスのバイトで、夕食を食べて日に四千円入るのはうれしいが、もうくたくただ。

ひと月の給料、8万円を受け取り、未納だった光熱費や学費を支払うと、半分消えてしまった。


久しぶりに散髪屋に行った。

思い切り短くして、一度も手を付けたことのない眉も少し剃ってもらった。


次の日、教室に入ると、みんながこわごわ淳一を見る視線を感じた。

たまに話しかけられても返事もしない。話す気もない。

いつものように後ろの机にうつぶした。



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