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君とオリンピックに行きたい  作者: 友清 井吹
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香奈さんのマイル

陸上競技場に着くと、女子1600mリレーの決勝が始まろうとしていた。


伊吹東高が1レーンで出場していて、電光掲示板には橘香奈の名前がある。

あの子そんなに走るのが速かったのか。


「倉本君こっち」

スタンドにいた角谷麗奈が手を振り、東校の場所を教えてくれた。

東校の端に座ると、彼女は競技場に向かって、大声で呼びかけた。


「かなー。倉本君、来てるよー」

驚いた顔をした香奈さんが、恥ずかしそうに小さく手を挙げた。


陸上のリレーを見るのは初めてだ。

広いスタンドのあちこちから掛け声が上がる。

競技は思っていた以上にエキサイティングだった。


香奈さんは3走で、バトンはオープンの受け渡しになる。

順位は分からないが、初めは外側コースの方が速い。


きれいにバトンを受け取った香奈さんは、バックスタンド側の直線コースで一人抜き、第3コーナーで二人目に追いついた。そしてラストのメインスタンド前。


懸命に走る香奈さんを目で追いながら、体が熱くなってきた。

鉢巻をしてひた走る彼女は、教室で見る香奈さんとは全く違っていた。


三人抜いて4位でバトンパス。

走り終えると、こちらを見て両手を挙げた。

席から立ち上がり思いっきり拍手をした。


「あいつ結構やるやないか。三人も抜いた。いつもと全然違う」

振り返ると、萩田が後の席に座っていた。


目の前では、トップ争いの攻防が繰り広げられている。

東校はまた抜き返された。


「お前、ここに何しに来たんや。香奈に気はないんやろが。それやったら来るな。どうせ女とやり方も知らんくせに。本ばっかり読んで一生童貞やっとけ。それにな、五千に出る奴、駅伝の常連校ばっかりや。あんなとこで恥かきたないから誰もエントリーせんかった。ちょっと去年よかったからいうて勝てると思っとんか」


好き放題しゃべると、ぷいと立ち去ってしまった。

東校のアンカーが走り終えた。

結局7位になった。

萩田は香奈さんが好きだったのか。


女とやり方知らんだろうと言われた。

俺だって性的な事に興味はある。

中学で読んだ文学全集の多くが、男女の出会いとか別れの話ばかりだ。


谷崎純一郎の『痴人の愛』など性的描写の場面ばかりを探して読んだ。

話の筋は退屈で、主人公もナオミも魅力的とは思えなかった。


俺なんか肝心なことは何も分かっていない。

もちろんいつかはキスもセックスもしたい。


できれば本当に好きな子と出会い、お互いが好きになってからやりたい。

みんなとずれているんだろうな。


学校では、男子が「すごいのを見つけた」と言ってはスマホを見せ合っている。

廊下で待ち合わせをして帰るカップルも少なくない。


うらやましいとは思うが、どちらも今の俺とは関係のない世界だ。

ハイタッチで紀和子先輩の手とふれては喜んでいるのが精一杯だ。

俺はまだガキだからしょうがない。


男子の1600mリレーが始まった頃、香奈さんが隣の席に来た。


「応援してくれてありがとう。私、マイルではいつも競り合いに弱いけど、今日は倉本君が来てくれたから頑張れた」

「マイル?」

「うん。1600mリレーのこと。私、四百は好きだけど、リレーではいい位置を取れないというか、割り込む勇気がなくて、いつも先輩に叱られていた。そんなんじゃ好きな人もとられてしまうって。でも今日、倉本君が見てくれていると思うと、思い切って走ることができた。この後、五千に出るんでしょう?私も一生懸命応援する」


セパレートのウエアを着た香奈さんが、とてもまぶしく魅力的に見えた。

「よかったら、この後どこか食べに行かない?今日のお礼がしたいから」

「ああ。でもごめん。弁当まだ残っているから。」


言ってからしまったと思った。紙袋から、まだ食べていないタッパーがのぞいている。


「だれかにお弁当作ってもらっていたの。じゃ仕方ないね。今日はありがとう」

笑顔は消え、さっと席を離れてしまった。


馬鹿だな。また傷つけてしまった。

どうも香奈さんと弁当は相性が悪い




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